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「はい、息吹ちゃん、あ~ん」
「あ~ん!」
わたしはお母さんが指でつまんで目の前に差し出したそれに、勢いよくかぶりつく。
ぱくっ。
かぶりついた瞬間、
パリッ!
と心地よい響きが奏でられる。
破片が周囲に散らばってしまいそうではあるけど。
そんな細かいことを気にするのは、無粋ってものだ。
口の中に引き入れたそれを、わたしはまだ小さかったはずの歯で細かく噛み砕く。
そのたびに、パリパリパリッと音が鳴る。
「ポテチって、パリパリおとがして、とってもおいしい~!」
「うふふ、よかったわね~」
わたしが満面の笑みを浮かべると、お母さんも同じように笑顔になる。
「それじゃ、わたしも……」
パリッ。
お母さんもひとつポテチをつまむと、小さく口を開けて上品くわえる。
「あん、おかあさん、わたしのぶんが、へっちゃう~」
「うふふ、ごめんなさい。でも、少しくらい、いいじゃないの。ね? お母さんにも、ちょうだい?」
「う~……。うん、わかった。でも、ちょっとだけだよ?」
「うふふ、ありがとう」
他愛ない、おやつどきの会話。
「でも、こんなものを食べさせてもいいのかい? 吐息だって、お屋敷では絶対に食べさせてもらえなかっただろう?」
笑顔が咲き乱れるわたしとお母さんに、真面目な顔で水を差すような言葉を放ったのは、お父さんだった。
休日だったから、お父さんも一緒におやつの時間を楽しんでいたのだ。
「そりゃあ、ぼくたちのことは正式に認められていないけど、でもキミはあのお屋敷のひとり娘で……」
少し寂しそうな表情を隠すようにうつむきながら、お父さんはそう続けた。
「爽時さん……。そんなことをおっしゃらないで。わたしはあなたの妻ですわ」
お母さんは温かい笑顔で、お父さんを包み込む。
「こういう普通の生活ができて、わたしはとても幸せなんですよ」
とっても、いい雰囲気だな。
幼いわたしにも、その温かな空気はしっかりと感じられた。
「おとうさんとおかあさん、らぶらぶ~。ちゅーは、しないの~?」
ふたりの様子を眺めていたわたしの言葉に、お父さんもようやく笑顔をこぼす。
「まぁ、この子ったら、おませさんね」
お母さんの笑顔も、よりいっそう大きな花を咲かせる。
温かな家庭の温かな笑い声は、いつまでもいつまでも消えることはないと、そう信じて疑わなかった。