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イノセント・アライブ ~命の選択と荒ぶる息吹~  作者: 沙φ亜竜
第3章 ゆったりまったり幸せ気分
20/42

-5-

 わたしと優季くんの公園でのお喋りタイムは、今日も続いていた。

 すぐ横にはゆりかごさんの姿もある。

 いつもどおりの他愛ない会話に、ゆりかごさんは呆れ顔ながらも我慢強くつき合ってくれている。

 ほんとに、どれだけ感謝しても足りないくらい。


 三人でのお喋りタイムは、いつものようにほとんどわたしと優季くんのふたりでお喋りして、いつものように暗くならないうちにお開きとなった。

 ベンチから離れ、公園の入り口で向かい合う。


 優季くんは公園から出て左の道、わたしとゆりかごさんは右の道が帰路になる。

 手を振り合い、それじゃあ、また明日、と挨拶を交わすところで、わたしはポツリとつぶやいた。


「あの、そろそろテスト期間だし、優季くんもテスト勉強しますよね。こうやって遅くまでお話するのは、しばらくやめたほうがいいでしょうか……?」


 わたしとしては、それが当たり前かな~と思ったから、そう言っただけなのだけど。

 ゆりかごさんは怒濤の勢いで反撃してきた。


「なにを言ってるんですか! そんなの、関係ありませんわよ!」

「でも、テスト勉強の時間を減らして、優季くんに迷惑をかけるわけにはいかないと思うし……」


 わたしは、遠慮がちに自分の意見を返すけど、ゆりかごさんの勢いは止まらない。


「おバカさんですわね、迷惑だなんて思うわけわけないじゃないですか! ねぇ?」

「うん、そうだよ」


 優季くんも、微かな笑顔のまま、そう言ってくれた。

 それでもわたしは、まだ納得がいかない。

 その様子を察してくれたのだろう、ゆりかごさんは考え込むような仕草をすると、すぐにポンと手を打った。


「それでは、こうしましょう。お勉強会ということにして、一緒にお勉強すればいいんですわ。これなら、会っている時間をテスト勉強の時間と共有化できますわよ!」


 グッドアイディアでしょう? とでも言いたげな瞳で見つめてくるゆりかごさん。


「え……でも……範囲とか違うんじゃ……?」

「同じ空間でお勉強する、それだけでいいんです。範囲なんて、関係ありませんわ」


 小さな声で反論するわたしに、ゆりかごさんはきっぱりと言いきった。

 さらに、


「場所は……、できれば優季さんのお部屋がいいんですけれど……」


 なんて、図々しい提案まで続ける。


「い……いくらなんでもそれは悪いよ!」


 と言いながらも、そうなったら嬉しいなと密かに期待を込め、わたしはおずおずと視線を上げると、優季くんの反応をうかがった。


 にこっ。

 いつもどおりの、心をぽわ~んとさせてくれる温かな笑顔。

 そして、


「うん、いいよ」


 優しい声で、優季くんは答えてくれた。



 ☆☆☆☆☆



 というわけで早速、次の日の放課後、わたしたちは優季くんの家に向かっていた。

 いつもの曲がり角で待ち合わせしたあと、公園の前を通過して、そのままさらに先へ。

 優季くんの先導に続いて歩くあいだも、いろいろとお喋りは続けていた。


 ご両親が共働きで帰りはいつも遅いから、夕方のこの時間にいることはないと、優季くんは話してくれた。

 どうやら兄弟もいないらしい。

 ということは……。


「あら、ふたりきりになれるチャンスじゃないですか」


 ゆりかごさんはわたしの耳もとに顔を寄せると、面白そうにそうささやき、


「ふふふ、わたくし、用事ができたと言って、すぐに帰りましょうか?」


 なんて提案をしてきた。


「や、だ、だ、ダメ、ゆりかごさんも、いてよ! ふたりきりは、さすがにまだ、ちょっと……」


 慌てながら答えるわたしに、ゆりかごさんはいつもどおり、呆れたため息をつく。

 続けて、よりいっそうの小声で、ニヤニヤしながらこう言った。


「まったく、意気地なしですわね。わたくしがいたら、キスもできないじゃないですか」

「そそそそそ、そんなこと、まだ恥ずかしいからいいんだもん!」

「ん? なにが恥ずかしいの?」


 思わず大声を出していたわたしに、優季くんが首をかしげながら訊いてくる。


「いや、あの、ごめんなさい、なんでもないです!」


 必死にごまかすわたしは、耳まで真っ赤に染まっていたことだろう。

 ゆりかごさんは、そんなわたしを見て、おなかを抱えて笑っていた。



 ☆☆☆☆☆



「さ、どうぞ」

「はい、お邪魔しま~す」


 カギを開けてから玄関の中に入ったのだから、さっき聞いていたとおり、家には誰もいないだろうとは思ったけど。

 それでも一応、失礼にならないよう声をかけてから、上がらせてもらった。


「汚い家でごめんね。それに狭いし。お嬢様のふたりにこんな家に来てもらうなんて、やっぱり悪かったかな?」

「い……いえ、そんなことないです! とても綺麗にしてあると思います。お母様がしっかり掃除なさってるんでしょうね。それに、わたしたちのほうが押しかけたようなものですから、悪くなんて全然ないです!」


 優季くんのいつもの笑顔が少し曇りがちだったこともあってか、わたしは必死になって言葉を並べる。

 言うまでもなく、それはお世辞なんかじゃなく本心だ。


 わたしが住んでいる小百合さんの家や、ゆりかごさんの家と比べたら、間違いなく狭いのは疑いようもないのだけど。

 ともあれ、広ければいいってものじゃないと思う。


 小百合さんの家は弥生さんが掃除してくれているから綺麗だけど、わたしの部屋だけは、勝手にいじられたくないというのもあって、掃除は自分ですると言ってあった。

 そのせいで、部屋の中は結構散らかっている。


 ゴミが山のように積み重なっているとか、脱いだ服がそこら辺に散らばっているとか、そこまでひどい状態ではないものの、几帳面とはお世辞にも言えない性格のわたしだから、ちょっと雑然としていることが多い。

 わたしの部屋と比べたら、優季くんの家はずっと綺麗だと思った。

 それに、なんだかちょっと、なにかのお花のようないい香りがするし。


 優季くんは少しはにかんだ笑顔を見せると、わたしとゆりかごさんを、家の奥へと案内してくれた。

 家の奥……そこにあるのはもちろん、優季くんの部屋だった。


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