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イノセント・アライブ ~命の選択と荒ぶる息吹~  作者: 沙φ亜竜
第3章 ゆったりまったり幸せ気分
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-4-

 小百合さんはあのあと、いつもどおりの笑顔をたたえながら、紅茶のカップを乗せたお盆を持って戻ってきた。

 もう気にしていない様子だったから、わたしも気に病んだりせず、小百合さんとお喋りを続けることができた。

 といっても、次から次へと繰り出される小百合さんの質問に、わたしが恥ずかしく思いながらも答えるだけだったのだけど。


 夕食を終え、わたしが部屋に戻ってのんびりしていると、弥生さんがやってきた。


「お嬢様、お風呂が沸きましたよ」

「あっ、わかりました。ありがとうございます」

「今日はたくさん汗をかきましたでしょう? ぷぷぷ」

「…………」


 なんだか弥生さんって、わたしを小バカにしてる感じがしなくもないわ……。

 そんな不満を胸に抱きつつも、わたしはお風呂場へと向かった。


 ゆったり広々とした湯船に浸かりながら、わたしはいろいろと考えていた。

 優季くんとたくさんお話できて、嬉しくて楽しくて、舞い上がってしまいそうなほどの気分ではある。


 でも、どうなのかな?

 このまま、恋人とかになれるのかな?

 はう、恋人だって、きゃっ、恥ずかしい!


 でもでも、そうだよね、ずっと今みたいに、お話だけしてても、お友達のままだもんね。

 だけど、だけど……。


 ぶくぶくぶくぶく。

 お湯のせいだけでなく赤くなった頬を湯船に沈めて、意味もなく息を吹く。


 あ……こんなふうに思いにふけってると、ふやけちゃうかな?

 考えてみたら、もうかなり長い時間、お風呂に浸かっている気がする。

 ふやけてブヨブヨになっちゃったら嫌だし、と思って、わたしは素早く湯船から飛び出した。


 脱衣所に戻って体をしっかりと拭き、パジャマに着替えたわたしは髪を乾かしながらも、さらにぼーっと考え続けた。

 さすがにちょっと暑かったから、換気扇を回している。

 その音が響く中、自分で自分に問いかける。


 わたしはいったい、どうしたいのだろう?


 換気扇による気流のせいか、微かな風がわたしのうなじをくすぐる。

 そのとき、選択肢が頭に浮かび上がってきた。



 『今のままで我慢する』

 『もっと進展したい!』



 恥ずかしいけど……。そりゃあやっぱり……。

 わたしはゆっくりと、頭の中で二番目の選択肢を強くイメージする。



×『今のままで我慢する』

○『もっと進展したい!』



 ――うふふ、そうよね。


「え……?」


 不意に声が聞こえたような気がして、わたしは慌てて辺りを見回した。

 もしかしたら、わたしが知らず知らずのうちに声に出していて、弥生さんが隠れて見ていたのかも。

 そう考えてみたりもしたのだけど。


 いくら見回してみても、誰かがいるような気配はなかった。

 換気扇の微かなブーンという音だけが、不気味さを伴って鳴り響いている。


 ブルッ。

 背筋の震えを感じた。

 せっかくお風呂に入って温まったはずなのに、寒さすら感じてしまうほどに。


「…………気のせい……だよね……?」


 わたしは誰にともなくつぶやく。

 なんだかちょっと気味が悪かったけど、単なる空耳だ。そうに決まっている。


 そうよ。

 わたしが優季くんとお話できて、浮かれすぎていたから。

 あまりに浮かれすぎて、大失敗をやらかしてしまいそうなくらいだったもんね。

 きっと神様が、少しは頭を冷ますように、気遣ってくれたに違いない。


 わたしはそう考えることにした。

 それはあながち、間違いというわけでもなかったのだけど。


 とりあえず、大きく深呼吸をする。


「うん、落ち着いたわ。さてと、それじゃあ部屋に戻って、そろそろ寝ようかな」


 わざわざ声に出し、わたしはお風呂場をあとにした。


 ――うふふ、おやすみなさい。


 なんとなく、背中からそんな声がかけられたような気がしたけど、わたしは空耳だと自分に言い聞かせ、素早く部屋に戻るとベッドに潜り込み、頭から布団をかぶった。

 思った以上にお風呂場に長居してしまっていたらしく、いつもならとっくに寝入っている時間になっていた。

 さっきの声が気になって、さすがにすぐには眠れなかったけど、いつしか睡魔に包まれたわたしは、そのまままどろみの中へと落ちていった。


 もしもさっきの声が、寝静まったあとだと思って侵入してきた泥棒の声だったりしたら、すごく危ないところだったとは思うけど。

 そうじゃないことだけは、なんとなく感じていた。

 だからこそ、怖がりながらもそのまま眠ってしまえたのだ。

 どうしてそんなふうに思えたのか、このときは全然わからなかったけど、もう少しあとになってから、わたしはその理由を知ることになる。


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