第六話 無断拝借の報い
「ぐぬぬぬ……」
拳を握り力んでいるアキタ。
「何やってんの?」
とそこへリンクスの整備終わりで油まみれになったニア。
「ぐ、……はぁ。いや、紋章片使えないかなと思って」
「へぇ、偉いね。挑戦するその心意気」
「ダメだ」
アキタは握った手を開くと金属塊が現れる。
「何それ」
「ん、ああ。ニアの机にあった火のグリフ。ちょっと借りたわ」
「え、ちょ! あああ! アンタ馬鹿なの!! 馬鹿よね!? それ高かったのにー!」
「良いだろ、グリフの一つや二つ。金持ちなんだからさ」
「それは実家の話し! 私はここのナケナシの給料でやっと生きているんです! それ帝国の新進気鋭グリフ作家のハンナベル先生の作なのにー!」
「ニア魔法使いなんだし、グリモアで魔法使えんじゃんさ。グリフ要らないだろ?」
「火出すくらいでいちいちグリモアのページを使ってらんないわよ面倒くさい!」
「おやおや、今日も元気だね」
ジョエストが現れる。
「隊長! ニア隊員が魔法使いのクセにグリモア使いたくないって言ってますがどう思われますか!?」
「そんなこと言ってないぃぃ、うぅぅ……」
「な、泣くなよーもー」
「グリモア……、魔法使いの証、神智の欠片……」
「隊長、ど、どうしたんですか」
「グリモアは人前で見せびらかす物じゃないんだ。ニア隊員が正しい」
「えぇ……」
「うう……、シェンマオ……」
「え?」
「ラオマオ飯店の……シェンマオ饅頭……か……来て……」
「なんだって?」
「ラオマオ飯店! の! シェンマオ饅頭! 買って来て!」
「うわあ! 泣いてんのか怒ってんのかどっちだよ!」
「どっちもよ! 馬鹿! すぐに買って来て! 鈍感で! ガサツな! アンタに! 私が! 私の! 機嫌を直す方法を教えてあげんの! 早く! 買って来て!」
「た、隊長ー! なんとかして下さい!」
「うむ。行ってきなさい。外出を許可する」
「えー……」
と言う訳でアキタは街へやって来た。
「え、えーと……」
目指すはラオマオ飯店。しかしアキタは飲食店の名前など気にも留めずに生きてきたし、未だにムラクの地理すら怪しい。
「お、少年。久し振りだな」
とそこに声を掛けてくる女性。防魔局の制服を着ている。
「あ、あの時の……あー」
医療院でアキタへ防魔隊を勧めた女性だった。思えば名前を聞いていない。
「ああ、私の名か。私はグランベルと言う。君はアキタ・トエノサ、だな」
と女性は手を差し伸べる。アキタも釣られて手を出すとぎゅっと手を握られた。
「宜しくな」
アキタはドキっとした。年上なのだろうか、ニアには無い落ち着き、抱いたことの無い感情。頭が少しぼうっとする。
「そう言えば何かの途中だったか。邪魔をしたかな?」
「あ、いや、全然……」
そうだ、店のことを聞こう。知っているかも知れない。
「あの、聞きたいんですけど……」
数分後。
「さあ、好きな物を頼んでいいぞ」
「な、なんでこんなことに」
アキタは目的のラオマオ飯店にいる。そして何故かグランベルと二人で席に着いている。
「ここは何でも美味い」
「いや、饅頭買うだけなんすけど……」
「嫌、だったか?」
「嫌じゃないんすけど……いいんすか? 勤務時間中ですよ」
「まあ、気にするな」
グランベルの圧に断りきれないアキタ。それどころか此処に来た経緯や防魔隊での日々のアレコレの話しなど、楽しい時間を過ごすことになった。
「なるほど、グリフをな。火のグリフは何かと必要だな……。ではその娘にコレを渡してくれないか?」
グランベルの差し出してきたグリフは見るからに高価な雰囲気。凝った装飾、グリフに刻まれた魔法の紋様の精緻さ、アキタにもそこら辺のグリフと違うと分かる。
「え、こんな高そうな……」
「良いんだ。私には無用の長物、使える人間が持つ方が道具にも良い」
とグランベルは席を立つ。
「久し振りに楽しい時間だった。ありがとう。時間を取ってしまって悪かったな。じゃ」
「あ、ちょ」
グランベルは一方的にそう言い、店員に何か告げ店から出て行ってしまった。
そこへ店員がやって来る。
「やべ、金、饅頭代くらいしかない……」
店員はニコニコと張り付けた様な笑顔。
「へ、へへ」
引き攣った笑顔を捻り出すアキタ。
「遅い!」
ニアは一向に帰って来ないアキタに辛抱ならない様子。
「ただいまー」
とアキタの声。漸くの到着に文句を言おうと勢いよく乗り出すニアは言葉が途切れる。
「遅、い……い?!」
アキタは顔が隠れる程に箱を抱えていた。その全てにラオマオ飯店の文字。それをドサリとニアの机に置く。
「いや、気前の良い防魔局員と偶然会ってさ。ご飯を奢って貰って、これも買って貰っちゃったんだよねー」
その箱の中は全てシェンマオ饅頭だ。
「あ、あとこれニアにって」
アキタはグランベルから預かった火のグリフを渡す。
「これ……。どうしたの! 誰から貰ったの?!」
「グランベルって制服組の人だよ。たまたま街で会ってさ」
「ぐ、グランベル……」
ジョエストが会話に入ってくる。
「ほうほう、グランベルとね。それは超大物だよ」
「へ? 誰すか?」
「グランベル・マクリー第二副大隊長だよ。各防魔局を束ねる大隊長の副官の一人だ。大隊長の護衛をその任務としていて、その実力は防魔局最強とも言われている」
「へー、スゴイ人なんすね」
と言いながらアキタはシェンマオ饅頭を頬張っている。
「中々会える人じゃ無いんだよアキタ隊員」
とその横でシェンマオ饅頭を貪り食いだすニア。
「なんでアンタが会えんのよー! 私も会いたいのにー!」
「まだ機嫌直んねーのかよ」
「グランベル副大隊長はそのルックスや立ち振舞から男女問わず人気高いからね」
ニアの手は止まらない。
「ぐぞおおぉー!」
暴食したニアはその後苦しそうに帰宅したものの、次の日にはケロッと元気に出勤してきた。
「昨日はありがとね。美味しかったわ」
「機嫌が直ってなによりですお嬢様」
「ん、苦しゅうないわ」
アキタはやれやれと首を振る。
「はい、点呼するぞー」
ジョエストに呼ばれ今日も一日が始まる。




