第14話 奪還するは我が青き星(第2部・全14話)
まもなく発射するであろうHLVシャトル4号機頭上の分厚い装甲板。
そこにはまだ、大勢の敵群がひしめいていた。
動けないマーシャの横まで操作機器を伸ばして繋げ、隣に座っているカミヤ。
「やるよ。」
「もちろん!」
二人の意を込めて連携した全地上防衛システムの超電磁対空砲と火薬式対空砲が標的の一点に集中し、邪魔者を撃破する。
マーシャが叫ぶ。
「マヤ!」
地上の敵を一掃した衝撃音がHLVシャトル4号機内に響く。
マヤは即答する。
「頭上装甲板、オープン!」
マヤのその声と同時に頭上装甲版が土煙を震わせ、重厚さを表現するが如く、ゆっくりとオープンする。
そこから見える青い空。
そして迫り来る、かなり大きく見えるマスドライバー隕石爆弾第3弾。
ゆらゆらと大気を掻き分け、HLVシャトル4号機へと迫ってくる。
その重圧に怯むことなく、メインコンソールのマヤは目を開き、力強く、叫ぶ。
「種子島ⅡHLVシャトル4号機、発射します!」
マヤの言葉と共に、巨大な爆炎と激しい振動をあげてリフトオフするHLVシャトル4号機。
そのスケールが大きいせいか、見た目にはゆっくりと上昇していくように見える。
耐Gの圧力がHLVシャトル4号機内の全員におぶさりかかる。
激しく揺れる中、マヤはGに耐えて慎重に発射シーケンスを続ける。
「敵隕石爆弾第三弾、左11時方向から種子島Ⅱに侵入落下中!」
大きい物体を見た時に、人はそのスケールを見間違える。
落ちてくる隕石爆弾第3弾と上昇していくHLVシャトル4号機がすれ違い交差する。
そのコースはいかにもあと数メートルの距離しか離れていないように見えるが、それは正確ではない。
双方のショックウエーブが中間点でぶつかり合って激しい気流を作る。
大気圏によって発熱し、強烈に光輝き落下していく隕石爆弾第3弾。
ハヤセはそれを見て小さくつぶやいた。
「マーシャ。」
打ち上げ振動で激しく揺れるHLVシャトル4号機内。
その振動に負けないくらいに、振り落とされまいと、アヤカ先輩は隣の席に座るキリの手を強く握っている。
そして隕石爆弾第3弾は、マーシャとカミヤが残る種子島Ⅱへと落下していった。
「私の名前はマーシャ・キンスキー。あなたは?」
「俺の名前はカミヤ・ヒデオミ。」
「ヒデオミ! まあ素敵な名前。ヒデって呼んでいい?」
「もちろん、マーシャ。」
マーシャはその言葉に顔を赤くする。
マーシャはカミヤが自分の名前を呼んでくれることがすごく嬉しかった。
「これが済んだら、どこ行く?」
「そうだね、マーシャが生まれ育った故郷を見てみたい。」
「とてもきれいよ、シベリアのツングースカの大地。朝日がとても眩しくて。
でもちょっとヒデには寒いかもね。」
「厚着していけば大丈夫だよ。きっと。」
「そうね。」
二人の会話を邪魔するかのように通知音が響く。
全地上防衛システムの攻撃シーケンスが完了し、ターゲットが現在落下中の隕石爆弾第3弾であることを告げる。
「じゃ、二人の祝砲といこうか。」
「そうね。」
「これからもよろしく、マーシャ。」
「よろしくお願いします。ヒデ。」
お互いの手は一つの操作機器を強く握っている。
やがて二人の祝砲が実行された。
* * * * * * * *
HLVシャトル4号機は無事に上昇を続け、衛星軌道コースへと変更を開始した。
発射による重力の圧力から解放される乗組員一同。
そこが無重力地帯であることを、空中を自由に泳ぐ小物群が証明していた。
ほっとする空気に包まれる中、ハヤセは今自分たちがいた場所をサブモニターで確認する。
強く大きく光る点がひとつ。
だがその光る点はやがて収束していく。
二人は無事だったのか。
マーシャを助けることはできなかったのか。
そう悩むハヤセを気にすることなく、隣の席のマヤはハヤセに未来を告げた。
「先輩、あれを。」
地球衛星軌道上に合流地点であるISSⅢが見える。
ISSⅢ。
それは前時代の国際宇宙ステーションISSの拡張改良集合体である。
ある種アーティファクト的な前時代のロスト・テクノロジーも含むが、
アナログに近いそれは緊急時に対応効果があるかもしれない。
・人類反抗計画は地球軌道上に浮かぶISSⅢがコアとなる。
・ケープカナベル1号機には、荷電粒子砲・素粒子砲・大型絶対零度砲・大型絶対零度砲。
・ギニア2号機には、宇宙および月面活動用改良機動歩兵。
・バイコヌール3号機には、改良大型絶対零度砲・大型Gボンバー重力爆弾
・種子島Ⅱ4号機には、小型Gボンバー重力爆弾・小型絶対零度砲戦車・小型超電磁砲戦車。
・酒泉5号機は、核兵器であったが、これは先の攻撃で消滅してしまった。
・ISSⅢを中央コアとして各4機は衛星軌道上で、一つに合体し宇宙要塞としての全貌を見せる。
・ゲートウェイとして残存している月軌道上のアルテミス15を目指す。
人類反抗計画はまだ、始まったばかりだ。
月裏側の敵コロニーのサイズは、たった直径二キロ。
スケールの大きさは宇宙では関係ない。
たったそれだけのサイズに、強敵な侵略者は存在するのだ。
アヤカ先輩が口をひらく。
「キリ君、ねえ見て。とてもきれいよ。」
アヤカ先輩が指差すその方向に月が浮いている。
キリは無言で月を見る。
月の裏側には『敵種のコロニー』がある。
これから人類はそこに攻撃に行くのだ。
青白く宙に浮き宝石のように輝く月。
月はまさに無慈悲の夜の女王の如く微笑んでいた。
第2部 完




