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奪還するは我が青き星  作者: 宙美姫
第1部 地球攻防戦
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第1話 ワームホール(第1部・全15話)

かなり前の昔に人類は月に着陸したと言う。

それからどのくらい経っているのだろうか。

今でも月面に国旗が立っているのだろうか。

人類は今、有人で月に行けていない。

月軌道に探査機だってまともに運用することができない。

まともな宇宙ステーションや月面基地だってできてやしない。


なのに『地球は狙われている』。

『地球は狙われている』なんて言うと真顔で『そんな絵空事』とよく言われていた。

それは絵空事ではなく、真実であった。


謎の侵略群は突如地球を侵略してきた。

人類側の反抗は準備不足ではあったが、凄まじく対抗はしていた。

富士山嶺に構築された敵のドーム基地への攻撃は熾烈を極めた。

すでにいきなり本土決戦状態であった。

敵のドーム基地は世界各地に出現・展開されているらしい。

だが、いくら国際機構の共闘があったとして、それぞれの国・地域での防戦体制で手一杯となった。

当然のことかも知れない。


人類反抗軍のキリはまだまだ新人であった。

人類の生存権のため自身の武装配備に手慣れていなかったが、とにかく戦うしかなかった。

富士山嶺に構築された敵のドーム基地への反抗作戦の最中、それは起こった。


ワームホール。

そう、この名前だけ聞いたら、よくある宇宙を舞台にした作品で幾度なく

出てくる標準の単語かも知れない。

ワームホールはワープやリープ、ジャンプといったSF設定で出てくる用語だ。

だがここでは文字通り、意味通りの意味を持つ。

『虫食い穴』である。

富士山嶺に構築された敵のドーム基地を中心に、地下深く360度展開された

地下通路の事である。

富士山嶺に構築された敵のドーム基地の下は、古くから形成されていた風穴洞窟の

類が縦横無尽に張り巡らされている。

まるで大都会の複雑な地下鉄路線と乗り換え方法のように。

まさにそれは『3DダンジョンRPG』のような現状と言える。

それはまるでゲリラの秘密地下通路、秘密地下トンネルと同義。

だが、このワームホールはもはや敵の『秘密トンネル』ではなくなった。

公然の侵略地下ルートだ。

しかし問題は、まるでアリの巣が多重に重なり合った状態のように、

あまりにもたくさん、数えきれないほど無数に作り上げられ、張り巡らされていた。

その地下ルートを辿っていけば、敵のドーム基地の中心へと潜入できるはずである。

しかし、地下ルートの数が多すぎた。

まさにそこは、地下迷宮、地下ダンジョンと化していた。


音がする。

地下迷宮ワームホールの一つを詮索していた時、キリの耳元にあまり嬉しくない

音が4DXサラウンドのように響き渡ってきた。

「ヤバイ! 来るのか?」

キリはあわてて周りを見る。

自分がいるワームホールの大きさはだいたい直径十メートル前後。

当初は複数のメンバーと侵攻していたが、分岐が多く今このルートでは自分一人になっている。

自分が立つワームホールのはるか先から、

敵の探査侵攻兵器である通称『スキャンチューブ』がこちらに向かっているようだ。

自分の与えられた旧式のレーダー装置が接近を告げている。

自分の今いる場所を再確認する。

敵のスキャンチューブが作ったワームホールはまるで迷路のようにあちこちに

小道ができている。スキャンチューブの掘削効果による物だと推察されている。

とにかく逃げよう。

ワームホール本道から複数の小道に隠れよう。


幸か不幸か、キリは現時点まで生き延びてきた。

だがそれは現時点までで、次の瞬間不幸が待っているかもしれない。

キリは標準装備しか残っていない人類反抗軍の一兵士だ。

身に付けている装甲服は簡易的な物だ。

階級が上がると装甲の分厚いものが配給されるが、キリはそうではない。

上層部の方では、今まで見たことのない最新鋭装備や武器が支給されているらしい。

なんだそれ?

気にはなっていたが自分には支給が回って来なかったので期待してもしょうがない。

今は自分が着用している装備で対抗するしかない。

だがプロテクターの厚みが何になる。

これから迫りつつあるスキャンチューブに対抗できるか?

掘削機械のような先端の無数の鋭いナイフの塊の歯を持つ=通称『センチネルヘッド』と

遭遇したら一巻の終わりだ。

あわててすぐ近くの、ちょうど自分の身を隠せる小道を発見し、

そこに隠れることを定めて飛び込んだ。

狭い。

とても狭い。

ちょうど自分一人なら入れる小道だ。

来る。

スキャンチューブが迫っている。

ヤバイ。

まずい。

震える両手で自分が保有する唯一の武器を確認する。

残弾はいくつだったっけ?

この配給されたしょぼい銃剣は旧式のものだ。

スキャンチューブの頭部センチネルヘッドに対して、あまり効果はない。

だけど今は、自分が手に持つ旧式の銃剣で対抗するしかない。

上の者はいいよな。

噂によれば、新型の銃火器があるらしい。

愚痴を言っても仕方ない。今はこれで対応しよう。


ズズズズと地響きが走る。

ワームホールを通じて、敵が迫ってくるのがよくわかる。

小道にゆっくりと伏せる。

直径一メートルもない。

身動きが取りにくい。

キリは手に持つ武器を確認しながら小道の中で伏せる。

頭をワームホール側に向けて、スキャンチューブが通過するのを待つ。

とにかく通過してほしい。

自分のことを気が付かないでほしい。

見つかったら狩られる。

見つかったらその口歯の無数のナイフ刃でバラバラにされてしまう。

自分がいるこの小道は、ほぼ逃げ場がない。

後退するにも、身動きが取れない。

キリは失敗したと思った。

逃げるなら、もうちょっと大きめの小道にすればよかった。

だが選択の余地はない。

慎重に探すにしても、それを選択しいている時間はなかった。


空気圧の変動が起きる。

例えば外からトンネルに入った時の気圧の変化による耳鳴りと同じだ。

来る。

スキャンチューブが来る。

ズズズズと低重音の地響きを引き起こして、スキャンチューブが目の前を通過していく。

息を呑みながら、呼吸を止めながら、小さな小道の先から見える光景を凝視した。

まずキリの視線に入ってきた光景は、掘削機械のような先端の無数の鋭いナイフの

塊の歯を持つ『センチネルヘッド』だ。

なにかを探しているかのように頭を激しく上下させ、前に進んでいく。

あれだ。

鳥さんが空を飛ばずに地面を歩くときに、激しく頭を上下する、あれだ。

こっちに気が付かないでくれ。

その願いが通じたのか、頭部であるセンチネルヘッドは先へと進んでいく。


やがてスキャンチューブの『身体』が目に飛び込んでくる。

蛇のように細長い白色のボディ。

その表面は、キラキラ光っている。

ガラス繊維?

まさに結晶。

クリスタル?

シリコン?

それとも雪の結晶?

キレイだな、と思ってしばし見つめていたが、それは宝石じゃない。

残虐なダイヤモンドがキレイな光を放っている。


全体は白っぽく透明感がある。

まさにそれは、光が届かないはるか深くの深海に生息する生き物のように。

光が届かない深海の生き物は、身体全体が白く色素がない。

また光がないので視覚が必要とされない。

つまり『目』はない。

嗅覚で探査するのか?

それとも音で探査するのか?

そのシステムはまだわからない。

敵の情報が少なすぎて、全くと言っていいほど人類反抗作戦は手探り状態だ。

まあ、一兵卒のキリにとって、敵の情報が多かろうが少なろうが、全く関係ないのだが。


目の前を地響きを立てて移動していくスキャンチューブを見つめる。

このまま気が付かれずに過ごすことができれば、自分の命はまずは助かる。

見つかったら、もはやチェックメイト。

詰みである。

じわじわと移動するスキャンチューブの本体。

よくある特撮映画の緊迫画面のようだ。

合成がうまく行ったりすると、よりリアルな映像が作り上げられる。

アナログ合成がイマイチだった場合、ブルーバックのエッジが微妙に動いたりする。

だがこれは、キリにとって映画とかではなく、真に迫ったリアルな危機状態であった。

このまま上手くやり過ごせば、自分の命は助かる。

見つかったら、たぶん無理だろう。

その願いも叶わず、スキャンチューブは動きを止めた。

嫌な予感が的中するかのように、ピタッと動きを止めた。

まるで何かを見つけたように。

まるで何かに気がついたように。

嫌な予感がキリの脳裏をひた走る。

ぴたりと動きを止めた目の前のスキャンチューブ。

まさに嫌な予感が的中してしまったのかも知れない。

しばし静止していたスキャンチューブであったが、なぜだか後退を始める。

後退?

なんで? どうして?

撤退だったらよかったのに。

撤収だったらよかったのに。

残念なことにそれは違っていた。


ズズズと音がする。

ズルズルと地響きがする。

キリが隠れている小道付近を擦りながら、ゆっくりと交代していく。

後ろをちゃんと見なくてもバックできるのかな?

そもそもはちゃんと見えてるのかな?

『運転手』はどこにいるんだ?

なんて勝手に訳わからないことを一人考えたりするキリ。

それは不安でいっぱいになる自分の恐怖を抑えるため。

もはや逃げ場がない自分の緊張をほぐすため。

だがその不安は当たった。

小道から覗くワームホールのトンネル。

キラキラ光るクリスタルの『肌』のスキャンチューブは後づさりして、

その頭部のセンチネルヘッドが明瞭にも見えてしまう。

はっきりと見えてしまう。

作戦資料で複数回、見たことはあったが、生で自分の目で、しかもその距離

数メートルで

見ることを決して望んではいなかった。

ピタッと止まったスキャンチューブの頭部のセンチネルヘッドが、

ギシギシと音を立て首を器用に回転してこちら側を見て止まる。

『目と目』が合ってしまう。

脇道の小さな小道に隠れているキリの姿を、実に『見つけた!』と言う感じで

ターゲットを確認している。


ヤバイ!

見つかった!

これで終わりなのか?

短い自分の人生だった。

キリは意を決した。

決意するほかなかった。

自分の頭から、身体全身から血の気が引いていくのが分かった。

とにかく今は対応するしかない。

キリはあわてて武器を取り出した。

たとえそれが無駄な抵抗と分かっていても、

決して自分が生き残れないと分かっていても、それをするしかなかった。


迫る!

迫ってくる!

センチネルヘッドが迫ってくる。

自分一人分の直径しかない小道に、ズズズと地響き立てて、

センチネルヘッドが侵入してくる。

その頭部。

ガラスというかクリスタルでできていると言えばキレイなイメージが先行する。

だが違う。

これは違う。

これはクリスタルでできた蟲の頭なのだ。

見た目はキレイだけれども、実態はグロい。

クリスタルでできた蟲の頭の口が上下左右に十字を切って開く。

キリを肉片に変えようと迫り来る。

数えきれないほどのクリスタルでできたナイフ状の歯。

それが今にも食い散らそうと上下左右にガチガチと歯を噛み、

不気味な音を狭い小道に響き渡らせる。

身動きが取れに小道の中を、あと十メートル、あと五メートルと接近してくる

センチネルヘッド。

キリは手に持つ武器を使うことを忘れていた。

武器を持つ指が震えて、思わず抵抗することを忘れてしまった。

終わる。

これですべてが終わる。

そう思った時、ものすごい冷気が吹き込んできた。

寒い!

寒いなんてもんじゃない!

キリの与えられた装備は実に簡易な物。

ほぼほぼ二等兵と言っても過言じゃない。

身を守るプロテクターって言ったって、これまた簡易的な物。

無茶苦茶寒い。

キリのいる小道はとても狭い

小道の外から、ワームホール内に冷気が充満する。

なんだ?

なにが起こった?

あまりの寒さに身が縮む。

それと同時にセンチネルヘッドの動きが止まる。

今まで動いていたスキャンチューブ本体の動きが止まったのか?

今にも喰われそうな、今にもバラバラにされてしまいそうな

センチネルヘッドが止まる。

上下左右に口が裂けてキリに襲い掛かろうとしていた無数のナイフの歯が

止まる。

なぜだ?

外でなにが起きている。

冷気は狭い小道に充満することなく、キリは寒さを感じながらも動くことができた。

狭い小道に逃げ込んでいたおかげだったのだろう。

キリは一瞬、戸惑った。

どうする?

なにが起きた?

だがしかし、ちょうどセンチネルヘッドは停止したままだ。

まるで時間が止まったような感じがする。

だが自分は動ける。

時間が止まったわけではない。

今だ。

今しかない。

キリはあわてて自分の装備を確認する。

自分の持っている銃器は接近戦も考慮された銃剣であった。

銃剣の『剣』の部分はヒートナイフで結構切り刻めるらしい。

キリはあわててすぐさま、銃剣のヒートナイフ部分でセンチネルヘッドの頭部を

切断し始めた。

冷気が押し寄せ、まるで瞬間冷凍されたように固まっているセンチネルヘッド。

今だ。

今しかない。

キリは銃剣のヒートナイフ部分で、スキャンチューブの先端頭部である

センチネルヘッドを上手に切り刻んでいく。

『敵の首を取る』。

まるで戦国時代のよう。

いま、まさに今は『戦国時代』と同じなのだ。


センチネルヘッドを切断して一息つくキリ。

なんとも異形の頭部だろう。

結晶というか、クリスタルというか、白銀のガラス状の頭部。

周りにはまるで氷のかけらのような破片が無数に落ちている。

薄暗い小道の中でもそれは輝きを失っていない。

なんか皮肉な物だ。

匂いはない。

どちらかというと乾燥した空気感だ。

瞬間冷却されたせいもあるのかも知れない。

そう。

真冬のとある日、外に大雪が積もっているとある日。

外に出ると、乾いた冷たい空気が鼻をさす。

乾いた空気が皮膚を刺す。

まさにそんな感じだ。

これをどうする?

この不気味な頭部をどうしよう?

直径70センチぐらいある『頭部』。

これをどうしようか?

ここからどうやって出ようか?

そう考えていると外から声がする。

「中の人、大丈夫? 生きてる?」

どこか聞き覚えのある女性の声だった。


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