最終話「Happiness×3 Loneliness×3」LastPart
PLSグランドフィナーレです。
北海道の優介。
まりあがメールをよこさなくなって、何度か彼から送ろうとは思った。
しかし幼稚園で知り合い、そして高二で転校するまでずっと邪険にしていたのだ。
今更合わす顔がなかったからメールを送らなかったし、送れなかった。
おかしなもので付きまとわれていた時は疎ましく思っていたのに、いざ東京と北海道に分かれて物理的に。
そしてまりあが男になったり不良になったりして心が。
どちらも距離があいたら無性にまりあが気になりだした。
土曜に遊びに出て日曜を挟み週明け。月曜。
まりあの姿に一同は驚いた。
胸が大きくなったのをのぞけば、二年の時とほぼ同じだったのだ。
「まりあ……その姿は?」
「どこか変かしら? 瑠美奈さん」
「いや。どんな魔法を使ったら肌の色が?」
真っ白に近くなっていた。
「化粧に決まっていようが。海老沢。このたわけめ」
実家の喫茶店の手伝いでメイド姿の時は「変装」のため自分で化粧していただけに、メイクスキルのあるあすかが上から目線で言う。
この場合は化粧で肌の色を白く見せたという意味ではない。
事実まりあはノーメイクだった。
「ね。その黒く見せるファンデ。どうだった? 肌が荒れたりしないかにゃ?」
こちらはコスプレイヤーでやはり化粧慣れしている恵子。
そう。日焼けで肌を黒くするのが限界で、化粧で黒い肌にしていたのだ。
「ウソっ? わかってなかったの私だけっ?」
狼狽する瑠美奈。
「しかし…その髪の毛は?」
今度はあすかが首をひねる。
染め直して金髪から元の色に戻したのはわかる。
切り落とされたはずの、ツインテールまで復活していた。
ただし以前よりかなり小ぶりではある。
「それエクステ? すっごくしっくり来てるんだにゃ」
ウィッグにもコスプレで慣れている恵子が真っ先に気が付いた。
あすかはウィッグまでは使っていないのでエクステに発想が行かなかった。。
「ええ。たってこれ、わたしの髪ですもの」
「は?」
またもや瑠美奈はわかってない。
「なるほど。まりあちゃん自身の髪をエクステにしたんだにゃ」
正解だった。
父親に対する抗議の意味で切り落とした時、束ねたまま切ったので散らばらずにすんでいた。
その場にいた雪乃はそれを処分するように見せて保管し、エクステにしていた。
それもツインテールの房の部分としてだ。
「ふん。ずいぶん長いこと拗ねていたみたいだけど、吹っ切れたのかしら? 振り向きもしないで遠くに行った男のことなんて」
瑠美奈も優介に恋していたが、こちらはやはり遠距離がものを言い自然に気持ちが冷めていた。
「そうね。拗ねていたわ」
「ほう。存外素直に認めたな」
感心したようにあすかが言う。
「こんなお子様なわたしだから優介は振り向いてくれなかったのね。メールは一度も来てないし」
「うわ。それひどくない?」
思わず「キャラ設定」を忘れて、普通の口調になったうえに真顔になる恵子。
「いいのよ。恵子さん。わたしが悪かったんですもの」
これまた素直に認めた。
だからまりあは「最後の穴」に落ちなかった。
自分の弱さを認めたから強くなれた。
「だからね……わたし、優介がり向いてくれるような女になるわ」
力強いポーズをとる。
かなり男性的なポーズなのに、優介のためというせいか女性的な印象が強い。
「まずはちゃんと大学に行く。大人になって自立したら、お父様ももう反対なんかしないわ」
目を輝かせるまりあ。
「お前……けっこう強いな? 地獄を見たのは伊達じゃないということか」
あすかが珍しくたじろいだ。
「さすがね。そうでなくちゃ張り合いがないわ」
心なし嬉しそうな瑠美奈。
「祝え! スポーツ万能の才女にして学園のアイドル。その名も高嶺まりあ。復活の瞬間である!」
何かの真似をしている恵子の口調だった。
「まーりあ」
なぎさが呼びかける。
「呼んでるから」
彼女はなぎさたちの方に行く。詩穂理・美鈴・なぎさは笑顔で迎える。
「やっぱりまりあちゃんはその姿が一番だね」
そういう美鈴はもうカチューシャで前髪を押さえてない。
それどころかカチューシャからリボンに戻っている。
「あなた達もね」
「違いない」
なぎさのピアスはそのままだが、髪はとうとうポニーテールに戻っていた。
「でも高嶺さんはさすがに少し違いますね」
元の髪の房をエクステにしているのだ。当然長さは足りないし、地毛もまだベリーショート程度の長さ。
しかし美鈴は別のところに言及する。
「まりあちゃんとしほちゃん。お胸大きくなったね」
「「えっ?」」
当事者たるまりあも自分でなく詩穂理に目が行く。なぎさもだ。
「そういえば……さらに大きくなってない?」
「ああ。JリーグやワールドカップじゃなくJカップとか」
恭兵がサッカー部でサッカーの話をするため、サッカーの話にはついていけるなぎさがサッカーに例えていう。
「そんなにありませんっ。Hカップですっ」
自分で暴露していた。
クラス中から視線をよこされる。
女子はうすうす感づいていたが、男子には衝撃的だった。
ぶしつけな視線を詩穂理の胸元に浴びせる。
失言を悟った詩穂理は両手で顔を覆ってしまう。
「あんた……もうとっくに成長期なんて終わっているはずなのに、まだ胸がでかくなるのかよ?」
Cカップのなぎさは特にコンプレックスないが、それでもあきれ返る詩穂理のバストサイズ。
「あっ。詩穂理さん。もしかして筋トレしてた? わたしはそれでバストアップしたけど」
「筋トレなんて大したものじゃないです。ただあの役。もしかしたらまた出番かもしれないという話なので、腕立て伏せとかスクワット程度は体操代わりにしてますけど」
「それ」
まりあもなぎさもそれだけで断定した。
「人のことは言えないけど、みんなも二年の時の姿にすっかり戻っちゃったわね」
ピアスこそしているがポニーテールのなぎさ。
肩口より下に黒髪が届いている詩穂理。
ただしメガネは「仮面」としての黒縁メガネではなく、軽いノンフレームだ。
リボンがやはりよく似合う美鈴。
「えへへ。やっぱり無理は続かないね」
「あたしも子供の時からポニーだから、なんかツインテは落ち着かなくて」
恭兵も「お前はポニーテールか一番だよ」と言っていた。
「私は役作りでしたから。出番がまたあってももう洗脳は解けた設定ですから元の髪でもいいみたいなので」
夏場に水着姿を公開したら人気が上がった詩穂理。
それで演じたキャラの再登場の可能性が出てきた。
そしてその人気を取り込むなら、やはり人気の出た黒髪姿であろう。
「そうね。わたしも無理してた。無理やりに変わろうとしていた。そんなの長続きしないのにね」
三人も頷く。
「変わるなら成長よ。優介が口説きたくなるような女子になるわ」
きっぱりと言い放つ。それが気持ちよかったなぎさたち。
「それでこそまりあだ」
「ええ。高嶺さんらしいです」
「なんだか懐かしく感じる」
「ほんと。みんなには迷惑かけたわ」
まりあは改めて頭を下げる。だが上げた時には闘志あふれる表情になっていた、
「とにかくね、ここからは大学受験に向けて全力投球よ。幸い夏休みは勉強漬けだったからそんなに不安はないわ」
今にして思えばそれもまりあがぐれた原因だろうなと三人は思った。
それが今度は身を救うのだから中々に面白い。
「ええ。がんばりましょう」
「お。そういう方向? そのノリならあたしも好きだぜ。勉強は嫌いだけどね」
スポーツでの推薦が決まっていたなぎさ。
「美鈴も大学に行くことにしたの。みんなでがんばろ」
遠回りしたが「リスタート」だった。
そこからは本当に受験勉強の日々だった。
それは男子たちも同様。
付き合い始めたもののデートとはいかなかったが、みんなで集まっての勉強会は頻繁にしていた。
なぎさと恭兵。詩穂理と裕生。美鈴と大樹はそれぞれ家が近いので、二人で勉強というのもしている。
進路が全員バラバラなのだ。勉強の仕方も違うがそれでも寄り添っていた。
恋がマイナスに作用すれば付き合った相手のことばかり考えて勉強が身に入らない。
しかし彼女たちにはプラスに作用した。
互いに励みになり、高めあう。
まりあは親が雇った家庭教師がサポートしていた。
ちなみに全員女性。
もちろん「間違いを起こさないように」という理由だが、今のまりあは「立派なレディとなって、優介と再会する」ことをモチベーションにしていた。
そう「覚悟」すると不思議と優介からメールが来ないのも受け入れられた。
(優介も受験がんばってんだろうなぁ。こんな時にしつこく連絡して邪魔したら嫌われちゃうわ)
大学受験の重要性を認識して、むやみに時間を奪うのはさすがに控えたまりあ。
そもそもメールアドレスを礼嗣によって削除され、出したくてもメールを出せなかった。
遠く離れた北海道でも優介は、道内の大学に進学するため受験勉強中だった。
しかし彼の場合「マイナスに作用」した。
(アイツ、なんでメール送ってこなくなったんだよ?)
あれだけ来ていたメールが都内での夏休み突入したころからピタリと止まってしまった。
最初は「ウザくなくていいや」と構えていた優介。
しかし八月に入っても全くメール来ないので疑問に思い始めた。
単純に受験で忙しいと結論付けようとしたが、病気やけがで入院してしまった危険性に思い至る。
(確か集中治療室ってスマホとかNGだよな? まさかそんな大病を?)
いくらうっとおしく思っていた相手でも、入院中というのは考えたくない事だったので別のことを考えた。
(そっか。別の男を好きになったんだな。そりゃそうだ)
散々冷たくしていたうえに遠く離れた。その上メールに一切返事をしない。
そもそも彼は「ホモ」で、女性であるまりあは恋愛対象ではない。
そんな優介にまりあが愛想をつかし、別の男に乗り換えても何の不思議もない。
しかし割り切れない。
わざわざ男子校に行ったのに、全くときめかない。
自分は本当に男が好きなのだろうか?
とうとう「勘違い」「思い込み」の「危険性」に考えが及ぶ。
そこに加えてまりあからの連絡が来なくなったのを「せいせいした」ではなくイライラしている自分にも戸惑う。
ならば自分から連絡すればいいのだが、今までのことを思うと「どの面下げて」メールなど出せるものか。
まさか自分のメアドをまりあの親によって削除されて、それでまりあがメールできないとは思わなかった。
愛想をつかされたと決めつけていた。
どうにも気になり勉強も手につかない。
半ば意地で自分からは連絡せず、亜優にも「余計なことはするな」と告げている。
その亜優は引っ越しの時点でまりあの兄。修一に対する思い意を断ち切ることができた。
何しろ新しい学校で友達と、ボーイフレンドができたてそちらの関係で忙しかった。
いつまでも古い時間にとらわれて前に進めない自分と違い、さっさと新しい時間を過ごしている亜優には意地でも頼れなかった。
まるで優介の方が振られてしまったかのように悶々としていた。
それぞれの時を過ごしいよいよ入試。
そして合格発表。
全員が同じ日だったので、学校への報告もありそこで落ち合うことにしていた。
大樹と美鈴。裕生と詩穂理。恭兵となぎさが報告を済ませたにもかかわらず帰らないで待つ中、まりあがやってきた。
「どうだった?」
心配そうに尋ねるなぎさ。
何しろ少し前までまりあは荒れに荒れていたのだ。
それは持ち直したとはいえ、受験勉強ができていたかは不明、そして不安だった。
その不安を隠そうともしない面々。
まりあはやや苦笑交じり笑う。そして
「『サクラサク』よ」
まりあはそういうと、満面の笑みでVサインを突き出した。
「やったぁ。まりあちゃんおめでとう」
美鈴が我がことのように喜ぶ。
男子たちも口々に祝福する。
「ありがとう。わたしの態度が悪かったからスパルタだったけど、効果はあったみたいね」
夏休みは自宅に閉じ込められて勉強させられていたのだ。
もっともそのストレスで不良少女に落ちたが。
「積み重ねは多少のブランクじゃ崩れなかったようですね」
言外に英才教育を要因に挙げている詩穂理。
「それじゃみんな。報告してくるね」
完全にもとのまりあに戻った。
いや。優介のことがない分、落ち着いてもいる。
その優介は大学の掲示板の前で愕然としていた。
「……ない……」
「サクラチル」だった。
本命の大学に落ちて愕然とする。
理由ははっきりしている。
全く勉強が手につかなかったからだ。
(……このレベルで落ちるなんて思わないから滑り止めもなかった……浪人かよ)
他にもそんな学生はいて、同様に茫然としている。
しかし優介は放心ではない。
(それもこれもアイツのことが気になって勉強に身が入らなかったからだ……)
逆恨みではない。認識したのである。
(もう疑いようもない)
優介の表情は不合格者の落胆ではない。
三年の一時期はあれていたまりあも。そして同学年のみんな無事に卒業の日を迎えていた。
式の前に一度教室に集まって、注意を受けていた。
その中には式の進行を妨げる携帯電話の着信音が鳴らないようにマナーモード。
出来れば電源オフにしてというのあった。
まりあは素直に電源を切っていた。
同じころ、羽田空港についた飛行機から一人の少年が下りてくる。
電話番号を知らない。連絡手段はメールしかない。
しかし一向に連絡が帰ってこない。
(卒業式で電源を切っているのか?)
それがいちるの望みだった。
無視されているのでなければ…「散々冷たくしてなにを今さら虫の良い」と彼は思う。
あの家にはもう誰もいない。
行くなら直接学校でと決めた。
前年の卒業式から推測するに、この年の蒼空学園卒業式はこの日と思った。
とにかく行ってみようと彼は思い、モノレールへと急ぐ。
それぞれの親たちが見守る中で卒業式も無事に終わる。
もうまりあと礼嗣の仲は修復されていた。
礼嗣と翡翠。二人でまりあの卒業を祝うべく来校していた。
他の面々も同様だ。
一度教室に集まり担任の木上からの言葉を受けて、いよいよ学校を去る時が来た。
名残惜しそうに教室でそれぞれがやり取りをしている。
「しほちゃん。卒業してから本格的にタレントになるの?」
恵子は好奇心から聞く。
「やれるだけやってみます。それで力尽きたら仕方ありません。ただ」
ちらりと傍らの裕生を見る詩穂理。
「オレがデビューするまで待っててほしいな。一度くらい共演したいぜ」
裕生も大学には行くが、スタントマンになりたいのは変わっていない。
「いいなぁ。恋人同士はお互いじゃなくて、同じ方向を見ているというけど」
最後の最後に色恋話に興味を示した恵子。
この娘にこんな反応されるとことさら照れる。
それでつい言ってしまった詩穂理。
「あの、里見さん。次のコスプレイベントはいつになるんですか?」
詩穂理としては話を逸らすつもりでの発言だ。
それは当たって食いついてくる。そして意外な展開。
「春休みにあるにゃ。何? しほちゃんもコスプレしたい?」
恵子としては答えがわかりきっていた質問だったが
「は、はい。撮影されている内に、演じてみるのが好きになってきて」
まさかの告白。
詩穂理はまじめに撮影に向き合っている内に、キャラを掘り下げることを繰り返す。
そのうちにキャラになりきるコスプレにも興味を抱いていた。
「いいな。シホ。そうだ。『超任務ディープダイバー』合わせで行こうぜ!」
裕生も乗ってきた。
「すごいにゃーっ。本物が参加だにゃーっ」
「そ、それは事務所を通してでないと拙いと思うので」
しかしコスプレそのものは否定しなかった。
「綾瀬。お前ともお別れか。畑違いと言えど競った相手と別れるのもさみしいものだな」
まさに「鬼の目に涙」である。あすかが涙ぐんでいた。
「あんたも空手がんばんなよ」
まるで男子のようにざっくりというなぎさ。
「言われるまでもない」
返答するとあすかは恭兵に視線を向けた。
「火野はやはりサッカーか?」
大学で何をするかという意味で聞いている。
恭兵はそれを正確に理解した。
「もちろん。プロになれたらいいなと思ってる。そして一人前になれたらなぎさと」
三年生の恭兵は二年で女子をはべらせていたのがウソのようになぎさ一筋だった。
彼は熱い視線をなぎさに向ける。
なぎさも同じくらい熱い視線を絡めていく。
「綾瀬はどっちなんだ?」
あすかの質問は水泳と陸上のどちらを続けるのかという意味だったが
「もちろんキョウくん」
なぎさはそれを恋愛のことと不正確に理解した。きっぱりと言い切る。
訂正する気すら失せる笑顔だった。
「槇原たちと変わらんな」
空手一筋のあすかも、不意に人恋しくなった。
「おにいちゃん。卒業おめでとう。でも寂しい」
双葉が大樹を涙目で祝福していた。
二年生にもかかわらず三年の教室まで来ていた。
彼女に付き合う形で千尋とアンナもだ。
「ダイチ先輩。家を出ていくのですか?」
アンナが尋ねる。
彼女の場合は国を出ている。
「いや」
短い一言だが出ていくのは否定した。
「なによぉ。双葉ぁ。一緒に暮らしてるなら泣くことないでしょう」
あきれて千尋か言う。
「だって千尋ちゃん。もう学校で会えないんだよ。寂しくて寂しくて」
「……あんた吹っ切れたんじゃなかったの?」
あの騒動から一年以上経っている。
「無理だよぉ。お兄ちゃんのこと、好きなんだもん」
まるで今生の別れである。
「もう。先輩は南野先輩と恋人同士なんでしょ」
「二人の門出をお祝いしましょー」
「……アンナちゃん。それじゃ美鈴と大ちゃんが結婚するみたいだよ……」
盛り上がる下級生たちを制するように美鈴が言う。
「ええっ? しないんですかっ? みんなの前で誓いのキスまでして見せたのにっ!?」
「きゃーっ。それは言っちゃだめーっ」
甲高い声を上げる美鈴。だが「誓いのキス」は否定しない。
「瑠美奈さぁん。卒業おめでとうございます」
いつもはぼやーんとした高須奈緒美も号泣。それでも祝福はする。
「もう。泣くことないでしょ」
とはいえさすがに瑠美奈も優しい表情になる。
「そいつは無理ですぜ。土師はともかく、俺や高須の頭じゃ大学までは付き合えませんや」
珍しく擁護するような辻。
「僕も学費の面で無理がね」
つまり三人とも瑠美奈と同じ大学には行けない。
瑠美奈と一緒の学生生活もここまでということだ。
「それでも一生の別れじゃないでしょ」
いつものキレはない瑠美奈。その目にも光るものが。
「命令よ」
振り切るように居丈高に叫ぶ。
「三人とも元気でいなさい。破ったら承知しないわよ」
そこまで強がるのが精いっぱいだった。
慕って来る相手との別れに瑠美奈も泣き崩れる。
三年になって秋までは荒れていたが、元に戻れば「学園のアイドル」とまで言われたまりあ。
多数の生徒たちと別れの挨拶を交わしていた。
笑顔ではあるが、どこかさみし気な笑顔である。
(わたしもやっぱり、優介と一緒に卒業したかったな……)
偽らざる思いだ。それを振り切る。
(ううん。これでいいのよ。もっと成長してから優介と肩を並べるわ)
春休みに北海道に出向くことも考えたが、男になっていたりギャルになってたりした手前合わす顔もない。
だから家の所在地を知らべさせもしなかった。
「おい。あれ?」
裕生が何気なく正門を見ると、かつてのクラスメイトが私服姿でそこにいた。
遠目にわかるのは赤いスタジアムジャンパーと青いジーンズ。
女子と見惑うその姿は一年前から変わっていない。
「もしかして…‥水木君?」
今度はなぎさが確認していう。
「えっ?」
飛び跳ねるように窓に駆け寄るまりあ。
遠くてもわかる。愛しい少年の姿がそこにある。
「……ウソ……夢じゃないの? どうして優介がここに」
口を両手で覆い絶句する。しかし夢ですらないような展開になる。
その少年――優介が渾身の力で叫ぶ。
「まりあーっっっっっっっ」
もうこらえられない。まりあもあらん限りの声で「ゆうすけーっっっっっ」と叫ぶ。
あとはもう飛び出していた。
夢にまでみた優介がわずかな距離の先にいた。
「ゆ……優介なの? 本当に優介なの? 夢じゃなくて?」
いつのまにか通学用の外履きに換えていたのも意識にない。
そのくらいふわふわと夢見心地だった。
遠い北の大地にいるはずの優介がどうしてここに?
だが説明の代わりにとんでもない言葉が返ってきた。
「まったく、このバカ女!」
「え?」
とんでもないセリフだった。辛らつな言葉である。
だけど、懐かしい「優介らしい言葉」で本物がここにいると実感できた。
その優介が無造作に間隔を詰めてくる。手の届く範囲まで来た頃には詩穂理と裕生。なぎさと恭兵。美鈴と大樹。
そして卒業生たちが校舎の前まで着て二人を見守っていた。
「バカだって言ったんだよ! お前に何度もメール出したのに気が付かないなんて」
「えっ?」
まりあは慌ててスマホを見る。電源を切ったままだ。
「それじゃ優介。わたしに連絡してくれてたの?」
ずっと無視されていたのに?
何が心を動かしたのかまりあには見当もつかなかった。
むしろ愛想をつかされてしまうようなことしかしてない。
「男になったり、不良になったりバカばっかりしやがって」
優介はまるで舞台役者のようによく通る声で告げる。
その二人を取り囲むように卒業生だけでなく、関係のある在校生も近くで観ていた。
その「観客」の前で優介の衝撃的なセリフが発せられる。
「お前のことが気になって気になって勉強も手につかなかったから大学に落ちたんだぞ!」
唖然となる面々。
(それは言いがかりじゃないのかなぁ)
(まりあに罪ある?)
大半がそう思った。心の中でつっ込んだ。
だけどまりあは「気になって」の部分だけが頭に残っていた。
そして優介はまりあを抱きしめる。
「え?」
まさか優介から抱擁してくるとは、にわかには信じられないまりあは反応が鈍い。
「お前みたいなバカ女はぼくが監視してないと何するかわからない。だからもう絶対に離さないからな」
「それって」
次から次へと信じられない言葉が出てくる。
「姉さんたちは元の家から大学に通っている。ぼくも一緒に住んで、東京の大学に入りなおす」
「優介……戻ってくるの?」
春休みで一時的に帰ってきたわけではないのかと尋ねる。
「だからなんだ? さんざんぼくのことを追いかけまわしていたんだ。文句は言わさないぞ」
優介らしいひねくれた言い回し。
面白いことにずっと「まりあが追いかけ優介が逃げていた」のに、最後の最後は「まりあが優介に捕まった」のだ。
この超展開には当事者どころか、傍観者である一同もついていけてなかった。
「つまり『押してもダメなら引いてみな』ってやつ?」
シンプルに考えたなぎさの言葉が正鵠を射ていた。
そもそも優介が「男に走った」のも、二人の姉やまりあがべたべたとしつこかったから。
ところがこの引っ越しでその面々と離れ離れになったその途端に寂しさに見舞われた。
「あ。なるほど。逃げると追う。追うと逃げる。つまり水木君は犬みたいな性質だったんですね」
サラッと酷い分析をしている詩穂理。
離れ離れになったうえにまりあの変貌。
優介は無関心でいられない自分にも驚いていた。
「きっと水木君もさみしくなっちゃったんだよ。ほら。家庭科室で聞いたまりあちゃんのお話」
それはまりあが小学生の時に、優介が風邪で学校を休んだ。
優介不在でとてつもなく寂しく思い、戻ってきたら喜んだまりあ。
その時に優介を好きだとまりあは自覚した。
そして優介も離れ離れになったことから、まりあとは離れていられないとやっとわかった。
まりあを愛していたことに気が付き、そして入試失敗でそれを認めた。
「な、なんだ!? まりあはなにをしている? あの男は誰だ?」
保護者同士の挨拶が終わり娘を連れて帰ろうとしていた礼嗣は、校舎から出て異様な集団の中にまりあがいたのを見つけた。
その愛娘が男に抱きしめられているのを見て瞬間的に頭に血が上る。
「そう。あの男の子が、まりあの好きな子なのね」
翡翠は同性としてまりあの気持ちを理解していた。
「許さん。俺は許さんぞぉ」
今にも飛び出しそうな礼嗣。翡翠は目くばせする。
「まあまあ旦那さま。野暮はなしにしましょうか」
大柄な陽香が礼嗣を羽交い絞めにする。
「そうですよ。ご主人様。人の恋路を邪魔するとお馬さんに蹴られちゃいますよ」
八重香が礼嗣の左腕にしがみつくようにして抑える。
「御屋形様。お嬢さまを束縛するのはもうやめにしましょう」
右腕を取った雪乃の先導で乗ってきた車へと連れていかれる。
[離せ。俺を束縛するなぁ」
しかしメイドたちには翡翠の命令の方が有効だった。そのまま強制退場。
タイミングは別々だがそれぞれ可愛い主を見遣る。
(どうしても欲しかったもの。やっとつかんだのたから、放しちゃだめですよ)
同じ事を思った。
ついていく翡翠はもう一度まりあの方を見ると、愛娘が少年の体に腕を回していた。
(あの子も大人ね。痛みも知ったわ。優しいレディになれそうね)
母親は娘の成長に目を細めていた。
まりあが抱きしめられる展開から、二人で抱き合う形に。
やっと理解が追い付いた……夢がかなったと分かったまりあは、きらきらとした瞳で優介を見つめる。
「わたしも離れない。二度と離さないんだから」
最後の方は涙声だ。
「泣くやつあるか。これだから女は」
こんな言葉だが口調と表情は優しい。
「嬉しくても泣くのよ。やっと二人の気持ちが通じたんですもの」
もはやまりあには優介。優介にはまりあしか見えてなかった。
華奢に見えて意外に引き締まった優介の胸板に、まりあの大きくなった優しい膨らみがつぶれるほどに押し付けられる。
どちらからともなく顔を寄せ始めたからだ。
完全に二人の世界に入り込んでいる。
そして卒業生たちの見ている前で、まりあと優介は唇を重ねあってしまった。
歓声が上がるがそれすら聞こえていない。
「ひゃあーっ。みんなの前でキスなんて大胆」
自分が大樹とかわしたそれを思い出して赤くなる美鈴。
「こういうのをバカップルっていうのかしら?」
発言直後にそれは「盛大なブーメラン」と気が付いた詩穂理も赤くなる。
「気持ちはわかるけどね」
なぎさも恭兵には随分と邪険にされていたので、今のまりあの気持ちは理解できていた。
「こらぁーっ。不順異性交遊とは何事かーっ」
生徒指導の教師が正装のままいつものように怒鳴る。
我に返ったまりあと優介はいつの間にかキスしていたことにやっと気が付いた。
ムードも余韻もないが慌てて離れ、かなりうろたえて釈明開始。
「わ、わたしもう卒業生でOGですから」
「ぼくなんか転校していったんですし」
言い訳にすらなってなかった。
「だからって校内でキスなんて許すと思うかぁーっ。やるんなら外でやれ。さっさと帰れ」
その言葉で散り始める卒業生たち。
「なぎさ」
恭兵が左手を差し伸べる。
「えっ。キョウ君。これって?」
「あいつらが見せつけてくれるからね。僕らも見せつけて帰ろうぜ」
「う、うん」
手をつなぐだけと思いなぎさは右手を差し出す。
手をつないでゆっくりと校門へと歩いていく恭兵となぎさ。
それを悔しそうに見つめる多数の女子。
男子も交え、まるで行進する花婿と花嫁を祝福する参列者のように、二つに分かれて見守っている。
ホモ疑惑は晴れたし、取り巻きの女子が全員で彼を見限った後はうそのようになぎさ一筋になった恭兵。
もしかしてあの時に許して受け入れていたら、なぎさとではなく自分が恭兵の恋人になっていたかもしれない。
貴公子のような美青年の上にサッカー選手。声も甘くまさに「白馬に乗った王子様』も今や彼女もち。
逃した魚は大きかった。
そんな女子の痛い視線も浴びながら二人は歩く。
恭兵が女子にそっぽ向かれる原因の優介。それとともにまりあも見送る側にいた。
あるいは手のひら返しの女子に対する恭兵の「見せつけ」だったのかもとなぎさは思った。
(まりあには未練なかったのかな? あの痛々しさでは手も出しにくかったと思うし)
ちょっとだけ疑念が宿る。
まるでそれを見透かしたかのように恭兵は、校門まで1メートルのところで止まる。
「どうしたの? キョウ君。立ち止まったりして」
けげんな表情のなぎさにどや顔の恭兵。
「言っただろ。見せつけるって」
「?」
いうや否や恭兵はなぎさを軽々と抱きかかえる。
「きゃあっ」
驚き。そして恥ずかしさで叫ぶなぎさ。
「こら。暴れるな」
「恥ずかしい。恥ずかしいよ。キョウくん。これしゃまるで」
「新居に花婿に抱きかかえられて入る花嫁みたいか? そう思っているならビンゴだ。新居に入るんじゃなくて卒業して学校を出るかの違いはあるがな」
「キョウ君のお嫁さん……」
そう思ったら思考がフリーズしてしまった。
むしろ熱暴走か?
おとなしくなったなぎさをお姫様抱っこして、恭兵は校門から出た。
卒業生がはやし立てる声すら祝福にしか聞こえない。
「やるなぁ。火野のやつ」
感心したように裕生が言うと詩穂理は硬直する。
(まさか対抗して私とも? みんなが見ている前で?)
カメラにはすっかり慣れた詩穂理だが、生の視線となると話は別だ。
しかも視線の主は知りあいばかり。
(無理無理無理無理。恥ずかしくてとてもできない)
裕生が同じことをしようと言い出さないことを望んだ。が
「よっし。シホ。オレ達もやろうぜ」
キラキラした目で言い出す裕生。
「……はい」
諦めではない。そんな目で言われては断れなかった。
詩穂理は右手を裕生の左手にゆだねた。
お互いの本来の利き腕だ。
ゆっくりと歩きだす裕生と詩穂理。
さながら結婚式の入場のようだ。
まして裕生の公開プロポーズは知れ渡っていたので、なおさら結婚式をほうふつとさせた。
卒業生たちが今度は二つに割れるように見守り「ヴァージンロード」を歩いていく詩穂理たち。
はやし立てる声にいちいち反応する裕生と、恥ずかしさで俯いている詩穂理。
そのまま手をつないだままで校門を出ようとする。
「え? 抱っこは?」
詩穂理は思わず大失言をしてしまった。
心のどこかで期待していたのが出てしまった。
「「「「おおおーっっっ」」」
しっかり聞かれていた。
「悪い! 危なく通り過ぎるところだったぜ」
「い、いいのよ。ヒロ君。わざわざ」
しかし口にしてしまったことは消せない。
「なぁに言ってんだ。ヒーローにとってもヒロインにとっても、お姫様抱っこは見せ場だろ」
裕生らしい理屈だ。そのままUターンする。約5メートル。
「こんなに長くっ!?」
「ほかの女なら2メーターがいいところだがな。お前だったら10メーターでも抱えてやるよ」
いうと彼は詩穂理の体重など無いかのように軽々と抱き上げる。
ますます歓声が凄まじくなり、
「こらーっ。兄貴ーっ」
詩穂理にとって救いの女神。千尋だ。
この辱めから解き放ってくれると期待。だが
「ちゃんとシホちゃん大事にしなさいよっ。未来のお嫁さんなんだからっ」
むしろとどめを刺しに来ていた。
詩穂理は恥ずかしさから裕生の胸板に顔をうずめてしまった。
しかしそれが逆に彼女を落ち着かせた。
(ヒロ君の胸板、女の子と違って堅く引き締まってる。逞しい。それに暖かい)
逞しい腕と胸板に包まれて安心できた。
裕生のぬくもりに安らいだ。
恥ずかしさと緊張がどこかに消えうせた。
校門を出た時はすっかりとろけていた。
顔立ち自体がきつめで、生真面目な性格で厳しい表情も多かった詩穂理が見せた、今までで一番可愛らしい表情だった。
「ん」
雲着く大男。大樹は傍らの美鈴を促す。
「ええっ? 大ちゃんも?」
自分が注目される恥ずかしさより、大樹がこんな目立つ行動をとるのに驚いた。
「行こう」
「待って」
後ろから声がした。
大樹と美鈴がそろって振り返る。
「双葉?」「アンナちゃんも」
千尋がいながら二人がいない思ったらここにいた。
「お兄ちゃんは私が送るよ」
「ワタシはミスズ先輩のVeilGirlです」
「ベールガール?」
耳慣れない言葉で怪訝な表情になる美鈴。
「いいから行こう。美鈴ちゃん。お兄ちゃん」
双葉たちに促されて歩き出す美鈴と大樹。
最初はアンナたちが同行する意味が分からなかった。
単純に双葉は大樹と同じ家に帰るからかと思っていた。
しかしそれにしては周辺の女子の「可愛い」という言葉の意味が分からない。
どこか夢見るような表情なのも。
そして歩き出してからずっとジャケットのすそを引っ張られているのが気にかかっていた。
美鈴は立ち止まる。
「あ。ミスズ先輩。止まっちゃだめです」
アンナが抗議する。
隣の大樹がワンテンポ遅れて止まり、美鈴より数歩先に出て意味がやっと分かった。
(これって結婚式の時にお嫁さんの後ろにいる子供たちの代わり?)
双葉。そして多分アンナもジャケットのすそを、ウエディングドレスのスカートのそれに見立てていたのだ。
つまり「新郎新婦の入場」を模していた。
二人の仲を認めていたという意思表明だった。
なお本来ならあくまでドレスのスカートのすそを持ち上げている。
花嫁のサポートだから男には無用だが、そこは双葉が未練を抱いていたので正式なものというわけでないので「義兄」のアシストだった。
アンナは幼少時に祖国で本物のペールガールを務めたことがあり、そこから双葉に提案した。
結婚式を模していると意識したら、もっと恥ずかしくなってきた美鈴である。
それゆえ校門を出る前にお姫様抱っこになっても、すでに限界を超えていたので改めての恥ずかしさはなかった。
「お兄ちゃん。美鈴ちゃん。お幸せに」
からかうように言うならいい。
目に涙をため込んだ状態で、双葉に言われてはたまらない。
以前にひと悶着あったのはまだ記憶に新しい。
「ステキです。ミスズ先輩。はぁー。やっぱりいいなぁ」
ひと悶着と言えばアンナもだ。
その時の原因はこの「お姫様抱っこ」で、双葉や千尋まで巻き込んでの騒動を起こしていた。
美鈴はいろいろと不安要素があり、それゆえに大樹にキスするような密着できつく抱き着いて、自ら燃料投下していた
そして、この突発的ウエディングを引き起こした二人は、周囲にはやし立てられていた。
いや。周囲だけではなく、すでに校外に出た面々からもだ。
「まりあー。早く来なよー」
「もちろん水木君と手をつないでくださいね。高嶺さん」
「まりあちゃんもお姫様抱っこしてもらいなよー」
よもや「死なばもろとも」というわけではあるまいが。
「行こうか。まりあ」
優介も当てられたのかとてもやさしい表情だ。
「……うん」
まりあも大人しく言う。
不覚にも優介はその美しさにドキッとした。
(こいつ……こんなに可愛かったのか?)
元々顔は整っていた。
しかしあまりにも長い間を一緒に過ごしすぎていたので気が付かなかった。
だが遠く離れていたうちに新しい発見があった。
むやみやたらに迫りすぎて、その可愛さが見えなくなっていた。
大きく遠回りしていた。
だが、二人の手は今つながれている。
指と指を絡め、手のひらを合わせてつながれている。
優介とまりあは校門をしっかりと見据えて一歩一歩新しい旅立ちに歩んでいた。
先刻からの恋人同士がそろって歩くさまが、結婚式のそれをイメージさせていた。
そこからの連想で両脇のどこからか口ずさまれるメロディは「結婚行進曲」だった。
それが合唱となりかなりの大音量となる。
まりあは本当に参列者に祝福されて歩んでいく花嫁のような気分になっていた。
いつも逃げていた優介が隣を歩いている。手をつないでいる。抱きしめあったし、キスまでしてしまった。
あまりに現実味がなく、夢としか思えなかった。
校門を出る直前に立ち止まり、自らの体を優介が抱え上げた時は、自分に羽が生えてたかと思うほど軽やかに優介の腕に収まっていた。
そして「結婚行進曲」のクライマックスと同時に校門を出て、新しい世界に踏み出した。
「まりあ」「高嶺さん」「まりあちゃん」
呼びかけられてまりあは我に返る。
「ここは?」
まるで目が覚めたように辺りを見回す。
蒼空学園の校門を出たところだ。
大勢でたむろしている形だ。
気が付くと目の前になぎさ。詩穂理。美鈴がいた。
「みんな」
最初は優介にお姫様抱っこされたのは白昼夢かと思った。
夢見心地もいいところだったからだ。
しかしいつの間にか自身の足で立っていて、祝福の笑顔をたたえた美鈴。なぎさ。詩穂理がいたので「夢じゃない」と察した。
振り返ると優介も笑顔で立っていた。
その目は優しく穏やかだった。
「よかったな。まりあ」
「なぎささん」
試合に勝った時でも見せないような笑顔をなぎさはまりあに向ける。
「みんな目的を果たしました、これで恋愛の同盟は解散ですね。高嶺さん」
「詩穂理さん」
詩穂理の眼鏡の奥の目が笑っている。
「でも、ずっと友達だよ。まりあちゃん」
「美鈴さん」
美鈴は少し泣いている。まりあもそれにつられた。
「みんな。ありがとう。みんながいたからわたし立ち直れた」
三人は「もういいんだよ」と言わんばかしに笑顔で頷く。
「なぎささん。詩穂理さん。美鈴さん。みんな大好き」
四人はそれを合図に笑顔で抱き合った。
裕生。恭兵。大樹。そして優介は微笑ましく見ている。
しばらく続けていたがやがて自然に溶けて、それぞれの相手のもとに行く。
まりあは優介に向き合う。
「あのね。優介」
もじもじしている。まりあには珍しい。
やはり大勢に見られているからか。
「ああ。わかっているよ。まりあ」
何しろずっと同じことを言われていたのだ。改めて聞くまでもない。
「それでも言わせて! あのね、あのね」
彼女は少しずつ優介に歩み寄る。
「大好きよ。優介!」
一同の前で宣言する。そして優介の唇に再びまりあは唇を重ね合わせた。
恋せよ乙女。愛せよ少年。
恋人たちの未来に幸あれ。
登場人物
高嶺まりあ 水木優介
槇原詩穂理 風見裕生
綾瀬なぎさ 火野恭平
南野美鈴 大地大樹
里見恵子
海老沢瑠美奈
芦谷あすか
澤矢理子
火野由美香
栗原美百合
アンナ・ホワイト
大地双葉
風見千尋
高嶺礼嗣
高嶺翡翠
高嶺秀一
水木亜優
中川雪乃
高山陽香
竹芝八重香
木上以久子他
PLS Fin
長きにわたりお読みいただき、ありがとうございました。