有名になるのも大変です2
「まずは……」
最終的には片っ端から挨拶することにはなるだろうが、やっぱり知らない相手に挨拶しにいくのは緊張する。
ただ今回呼ばれている中でも、トモナリも知り合いである人がいた。
「失礼します」
「失礼するのだ!」
「おっ、そっちから挨拶しに来てくれるなんて嬉しいね」
「もちろんですよ」
「こんなに可愛い後輩を持てて光栄だね! それにしても可愛らしい子を連れてるね?」
「初めまして、ウルマサクラコです」
「うん、初めまして。イヌサワユウだよ」
トモナリが挨拶しに来たのはイヌサワのところだった。
イヌサワもまだ若いながら高レベル、強スキルを保有する覚醒者である。
知名度はトモナリよりもはるかに高くて、もうすでにスター覚醒者といっていいぐらいの存在である。
今日行われる番組にも呼ばれていた。
番組に出ることはトモナリも聞いていたので、真っ先に挨拶に訪れた。
畳敷きの控え室に寝転がっていたイヌサワはサッと体を起こす。
「こんな可愛い子……トモナリ君も隅におけないねぇ」
「へへ、そうでしょう?」
「こらこら……そういうんじゃないですよ」
イヌサワの冗談にサクラコが乗っかる。
「ぶぅっ!」
ヒカリは不満げな顔をしてトモナリの頭に引っ付く。
「わざわざ楽屋回って挨拶するのかい?」
「ええ、そのつもりです」
「真面目だねぇ。それじゃあ僕も一緒に行こうかな。大事な後輩を守らなきゃね」
イヌサワは軽くウインクして立ち上がる。
「今回知り合いは?」
「……あまりいないですね」
「まあ、若い人は色々活動してるから、会う機会も多くないもんね」
軽く控え室に貼られた名前を確認する。
名前は聞いたことがあっても、直接面識がない人ばかりである。
トモナリも色々と活動しているが、国内だけでも覚醒者の数は結構いるもので会わない人の方がはるかに多い。
多くの人は回帰前ですら会ったこともない。
実は何人かは回帰前に会ったこともあるのだけど、今の時点では面識はないのだ。
「……うーん、まあ端から行こうか」
変に優先順位をつける必要もない。
順に挨拶していくことにした。
イヌサワに連れられて他の出演者に挨拶回りをする。
流石にイヌサワの知名度があるおかげで、挨拶回りは平和的に進んだ。
タキシードヒカリの評判も良かった。
挨拶をして回っているうちに収録時間も迫り、最後のメイク調整などのために呼ばれてイヌサワやサクラコとは解散となった。
「アイゼンさん、出番です。準備お願いします」
「ぬっふふ〜とうとう僕のテレビデビューなのだ!」
控え室にスタッフが呼びに来た。
収録がもうすぐ始まる。
トモナリは今回の人生で感じたことのないような緊張を覚えているが、ヒカリは蝶ネクタイを軽く直しながらご機嫌なようである。
「新進気鋭の若手十名……か」
今回集められた覚醒者は十人。
トモナリとサクラコ、それにイヌサワを除くと残りは七人である。
スタジオはすでに静かな緊張感が漂っていて、トモナリはネームプレートが置かれた席に座る。
年齢的にはサクラコが一番若い。
一番上は三十歳で、それ以下を若手としているらしい。
全体で見ると男性六人、女性が四人。
「収録開始しまーす!」
司会は有名なお笑い芸人で、まずは番組が用意した映像と共に覚醒者の紹介がされる。
トモナリやサクラコ以外はそこそこ有名で、テレビに映るような素材もあった。
「意外と面白いな」
どんな覚醒者なのか上手くまとめられている。
スキルを公開している人はスキルなんかも紹介されていて、人となりは分からないが戦い方はなんとなく把握できた。
「ふおお〜」
トモナリも映像付きだ。
世界交流戦でのものや事前インタビューでのものだが、ヒカリがトモナリよりも多かったような気がした。
サクラコもトモナリと同じく世界交流戦での活躍が中心だ。
こんな感じで戦っていたのかと、トモナリは新鮮な気持ちで見ていた。
「いやー、こうして才能がある覚醒者たちが集まると壮観だね。今日はみんなのことをもっと多くの人に知ってもらいと思ってこうして集まってもらいました」
今の時代、昔よりも覚醒者に対する偏見や壁というものはほとんどなくなった。
しかしそれでもやはり力を持った相手というのは畏怖の対象になりがちになってしまう。
こうした機会に覚醒者も人であると一般の人にも安心感を与えることも、また大事なことなのである。
「それじゃあ最初の企画に行きましょうか。まずは覚醒者の好き嫌い〜!」
ゆるい企画が進んでいく。
あれが好きこれが嫌いとか、失敗したエピソードなんかを話すと司会が上手くそれを笑いに変えてくれる。
ヒカリのことも怖いモンスターではなく、可愛い存在としていじってくれるのでトモナリとしてはかなり助かった。
「一旦休憩でーす!」
なかなか緊張は解けないものの、それでもトモナリはそつなく答えていく。
面白みは少ないかもしれないが、司会がうまく引き出してくれていた。
「ヒカリちゃーん! お着替えでーす!」
「はーいなのだ!」
他の人は衣装チェンジなんてしないのだけど、ヒカリだけは衣装を変える。
最初の二人のスタイリストに加えて、なぜかさらに三人ほど集まってヒカリはメイクアップされていく。
人より手厚いのではないかとトモナリは軽く笑ってしまう。




