父のような人
「君も卒業……か」
マサヨシが目を細めてトモナリとヒカリのことを見る。
いまだに、初めて顔を合わせたアカデミーの面接でのことが昨日のことのように思い出される。
「色々なことがあったな。君が一人残ってゴブリンの王と戦った時は、俺もヒヤリとしたものだ」
「あの時は助かりました」
「いや、こちらが助けられたというべきだろう」
アカデミーの学長室にトモナリとヒカリは呼ばれていた。
相変わらずヒカリのためにたくさんのお菓子が用意してあって、ヒカリはニコニコしながらお菓子を食べている。
「早いものだ。この年になると三年などほんの一瞬だった感じられてしまう」
「……俺にとってもあっという間だった気がします」
「君は多くのことを成し遂げたからな。時間がいくらあっても足りなかったろう」
なんとなく、じんわりとした空気。
「君の能力はアカデミーでも過去最高……いや、これまでの覚醒者の中でも同年代で比較したなら並ぶものはいないぐらいだろう」
「ありがとうございます。でも……まだまだです」
トモナリの今のレベルは59。
ギリギリで60には届かなかった。
レベル以外の質も上げようと努力して、ただひたすらレベルだけ積み重ねればいいと思っていたわけではないのでレベルに関してはあまり多くのことを思わない。
能力値としてはすでにかなり高いところにいる。
同じ年齢、同じレベルで見た時に、トモナリに勝てる能力の人はいないだろう。
相性や特殊なスキルを考慮せずに考えれば、トモナリは同レベル帯において最強と言える。
ただまだレベルは上げられる。
たとえここから能力の伸びが鈍化したとしても、全く成長しないなんてことでもない限りはトモナリの能力はトップクラスに入れることは間違いない。
今強いからと慢心するつもりはない。
「今はまだ世界に余裕がある。だが試練ゲートもまだ半分を超えたところで、世界の滅亡という危機はすぐ隣にある」
「そうですね」
「だが……君ならば乗り越えられるかもしれない。99個の試練ゲート……その先に何が待ち受けるのか、君ならば立ち向かえるだろう」
マサヨシの眼差しは真剣だ。
本当にトモナリならばと思ってくれていることが伝わる。
「アカデミーを出ると守ってやれなくなる」
アカデミーにいるだけですでに守られていた。
基本的に怪しい人は入ってくることができず、安全に体を鍛えることができた。
それだけではなく注目度が高いトモナリがメディアに追いかけ回されないように、アカデミーが壁となってくれていた。
アカデミーを卒業すれば、そんな保護もなくなる。
これからは自分でどうにかしていくしかない。
「大丈夫ですよ。アカデミーのおかげで力もつきました。自分の身は自分で守れます」
「……そうか。ならばアカデミーを作った意義もあったというものだ」
「本当に感謝してます」
アカデミーで得られたものは大きい。
マサヨシには感謝しかない。
「アカデミーからこれから担う若者が輩出されるのは喜ばしいことだ。ただアカデミーが直接守ってやれないというだけで、君はずっとアカデミーの卒業生で、俺の教え子、ここの仲間だ。困ったことがあったらいつでも来なさい」
「分かりました」
トモナリに父の記憶はない。
物心つく前にはもう父親はいなかったからだ。
だが父親がいたら、このような感じなのかなと思った。
「これからきっと……激しい戦いに身を置くのだろう?」
「ええ、俺は……世界を救います」
「時に戦いからは身を置いて休む時を作れ。周りの人を大切にしろ。常に刃は研いでおけ。……自分を見失うなよ」
マサヨシのアドバイスを一つ一つ心に刻む。
「これを持っていけ」
「これは……」
マサヨシはインベントリから一つの小瓶を取り出した。
中には赤い透明な液体が入っている。
「霊薬だ。魔力を上げてくれる」
「こんな貴重なもの……」
「未来への投資だ。どんなに金があっても、どんなに貴重なものがあっても、それは使うことができてこそのものだ」
マサヨシがトモナリの前に置いたのは霊薬だった。
飲むだけで能力を上げてくれる霊薬はかなり貴重なものである。
入手は容易くない。
「未来を頼んだぞ。百年後にもこのアカデミーがあって、俺を讃える銅像があるのが夢なんだ」
マサヨシは冗談めかして笑う。
「その夢……叶えさせてあげますよ」
トモナリは霊薬の小瓶を受け取った。
マサヨシとの出会いは良い縁だった。
表には出ないものも含めてたくさんことでお世話になった。
父のように温かくて、大きな人。
「行ってきなさい。世界に……羽ばたいて、世界を……救ってくれ」
こうして、トモナリはアカデミーを卒業したのである。




