卒業2
「まあ、それでもやることは多いな」
まずは生活の基盤を築かねばならない。
何もしなくては生活が成り立たない。
当然ながらお金を稼ぐ必要がある。
そして実績もしっかりと重ねて信頼を得ていくこともまた必要だ。
そのためにはゲートを攻略していくことが一番の近道になる。
結局やることは決まっているし、楽な方法などない。
ただその点で焦ってはいなかった。
アカデミーに在籍している間に攻略したゲートの精算金なんかは、攻略に参加した生徒にもちゃんと支払われている。
課外活動部は普通の生徒よりも多くのゲートを攻略してきたし、その分得ているお金も多い。
トモナリなんかはさらに色々やっているので、多少遊び呆けても何ともないレベルで蓄えがある。
ついでに世界交流戦なんでも活躍しているからトモナリ自身に知名度がある。
実績とまではいかないが、全くの無名ギルドよりは実績となる基盤はできている。
ユウトだけは少し心配だが、コウやサーシャについてしばらくお金に困ることはないだろう。
「ふっ、心配せずともトモナリのことは僕が養うのだ!」
「ははっ、お願いするよ!」
ヒカリが鼻息荒く胸を張る。
トモナリは笑いながらヒカリの口の端についた食べ物をとってやる。
「先輩、私も……入れてくれませんか? 事務員でいいので」
そろっとハルカも会話に入ってくる。
「ハルカがいいならいいけど、だんだん規模が大きくなっていくな」
ギルドが大きくなるほどに責任も増していく。
回帰前にはギルドを率いるような経験もないので、あまり大きくなりすぎると大変そうだと思った。
「先輩……俺もいますよ……」
「お前はいい加減泣きやめよ」
いまだにミヤマエは泣いている。
泣いてくれるのは結構だけど、流石に泣きすぎだ。
「あとなんですけど……」
「何かあるのか?」
ハルカが少し頬を赤くしてモジモジとしている。
「先輩のボタン……くれませんか?」
「あっ、ハルカズルい!」
こんな時代でも卒業の時にボタンをもらうなんて風習は残っている。
回帰前は特にボタンくださいなんて言われることなかったので、トモナリもそんなことがあるのを忘れていた。
「もう制服も着ることないしな。ボタンぐらいならやるよ」
思えば意外と制服も着ていない。
もちろん普通の授業の時には着ていたのだけど、体を動かす授業も多かったし装備を身につけていたり動きやすい格好をしていたことも多かった。
おそらく他の学校に比べて制服だった時間は少ない。
それでも日中着ていた思い出深い服ではある。
「こういう時第二ボタンなんだっけ?」
ハルカには未来予知でお世話になった。
トモナリは制服を脱ぐとボタンを外す。
「ありがとうございます!」
トモナリがボタンを渡してやるとハルカは嬉しそうに笑う。
「わ、私にも!」
「俺にもください!」
ナナとミヤマエもボタンを欲しいと手を挙げる。
「ボタンぐらいならいくらでも……ん?」
「せーんぱい、私にもください」
ボタンを外して渡してやると、ぐいっと制服が引っ張られた。
何かと思ったらサクラコであった。
「ボタンならまだ……」
「いいえ」
「じゃ何を」
「制服ください」
語尾にハートでもつきそうな甘えた声で、サクラコはニコリと笑顔を浮かべる。
「制服?」
卒業の時に制服を誰かにあげるのは普通のことだろうか、とトモナリは思った。
正直そこらへんの常識がトモナリはちょっと疎かった。
「ダメですか?」
サクラコは制服を掴んだままウルウルとした目をする。
「……分かったよ」
ダメという理由も見つからなかった。
卒業したら制服はもう着ない。
ボタンはあげてしまったんだし、制服を記念に取っておくなんてつもりもないのだから拒否することもないのだ。
「やった! ありがとうございます、先輩!」
「せめて洗濯……ううん……」
あげてもいいけど最後に洗ってからと思ったのだけど、サクラコはトモナリから制服を奪い取ると自分で羽織ってしまった。
「制服もらう……羨ましい……」
ハルカは制服を要求するなんてと驚いた顔をしている。
流石にそんな勇気はない。
「先輩、自分、ズボン欲しいっす!」
「お前、俺に下着で帰れって言ってんのか?」
「人気なのだ〜」
「ヒカリ先輩にも制服あったら良かったんですけどね」
ヒカリは服を着ない。
なので当然制服もなかった。
別に欲しがることもなかったので三年間そのままである。
「ならこれあげるのだ」
ヒカリはお腹の辺りを触って何かを摘んだ。
「こ、これは!」
「ウロコなのだ」
ヒカリのウロコも時々何枚か生え変わる。
部屋にふとウロコが落ちていたりするのは生え変わったものである。
そんな生え変わりのウロコをハルカに渡す。
「ええっ!? そんなの私も欲しいよ!」
これ食いついたのがミズキ。
「あと一枚ぐらいなら……」
「僕も欲しい!」
「私も!」
あっという間にみんながヒカリに群がる。
結局トモナリが普段から拾ってインベントリに入れておいたウロコをみんなに配ることになった。
楽しいアカデミー生活だったと思う。
良い仲間たちだった、とトモナリは二回目の高校生活を振り返ったのだった。




