マコトの進む道4
「だが……君たちのことを忘れたことはなかった。今更、と思うかもしれないが、それでも俺の渡せるものがあるなら君に渡そう」
どうしてマコトが暗王会の一員になったのか、謎であった。
父親が暗王だとしても、マコトが暗王会に入るとは思いにくかったのだ。
けれどもほんの少しだけ寂しそうな顔をするアビコを見て、なんとなく理由が分かった。
回帰前どんなやり方をしたのか正確なところは分からないものの、ただ無理矢理に引き込んだというわけでもなさそうである。
「もうすぐ卒業だと聞いた。強くなりたいというのなら暗王会が全力でバックアップしよう。金だって欲しければいくらでも渡そう。暗王会のトップになればどんな情報だって思いのままだ」
「……どうして急にこんなことを?」
「贖罪……かもしれないな」
「贖罪……ですか?」
「置いていってしまったこと、これまで何もしてやれなかったこと、会いに行く勇気を出せなかったこと、そして今こうして巻き込んでしまったこと……挙げればいくつもある。本当なら君とは無縁のままでいるつもりだった」
アビコはわずかに怒りを滲ませる。
「しかし俺がこうして動けないでいるのをいいことに、君に手を出したバカが出てしまった。済まないな……」
「アビコさんは、僕にどうしてほしいんですか?」
「……誘いはしたが、自由に生きてくれればいいと思っている。君の人生に口は出さないさ。ただ少しの贖罪はさせてほしいとは……少しだけ思っている」
アビコの表情に大きな変化は乏しくて感情は分かりにくい。
だがアビコの目は嘘をついているように見えなかった。
「……少し、考える時間をもらってもいいですか?」
「もちろんだ。もう君たちには手を出させない。ゆっくりと考えるといい」
ーーーーー
「ちょっと意外だったな」
病院からアカデミーに帰ってきた。
すっかり日は暮れてしまっているが、話したいというのでマコトを部屋に呼んだ。
トモナリはアビコとの会話を思い出して、素直な感想を口にした。
何が意外だったかというと、マコトが暗王会に行くことをキッパリと断らなかったことである。
まだ暗王会に行くかもしれないという含みを残したままなのだ。
回帰前はともかく、今は暗王会という選択肢がマコトの中にあるのはトモナリとしては驚きだった。
「……トモナリ君は、卒業後どうするの?」
ディーニが出してくれたお茶を前にして、マコトはポツリとつぶやいた。
ヒカリはお茶菓子をパクパクしている。
「俺か? ……そうだな。そろそろハッキリさせるか」
これまで卒業したらどうするのかはぼかしてきた。
自分の中で答えはあったけれど、明言することは避けてきたのである。
「卒業したら俺は俺のチームを作るよ。そのまま小規模なギルドとして活動したいと思ってる」
初めてしっかり他人に打ち明ける。
どこかの大型ギルドという魅力的な提案も多くあれど、トモナリは自分のギルド、自分のチームで自由に活動するつもりだった。
「その中に……僕は入ってる?」
マコトは期待を込めた目でトモナリのことを見る。
「ああ。是非とも誘いたいと思ってるよ」
トモナリはマコトの目をまっすぐに見つめて答える。
お世辞でもなんでもない。
マコトの隠密能力はあるととてもありがたい。
チームの一員として欲しい力である。
「……ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ。もう一つ……トモナリ君の目標は何?」
「目標?」
「うん。チームを作って……その先にどうしていくの?」
マコトが聞いているのはもっと先のこと。
なぜ大型ギルドでもなく自分のチームを作って活動する必要があるのか。
トモナリは常に未来を見て動いているようだとマコトは感じていた。
未来とは何を見ているのかを問うていた。
「俺は……世界を救いたい。99の試練ゲート、これを全部攻略して、俺は世界を滅亡から守る」
世界を救うことがトモナリの目標である。
これは絶対にやらねばならないことだ。
「……そっか」
「マコト、お前はどうするつもりなんだ?」
トモナリの未来の目標は話した。
ただ肝心のマコトがどうするのか聞いていない。
「僕は……暗王会に入ろうと思う」
「…………理由を聞いてもいいか?」
なんとなく、予想外とも言い切れない答えだった。
そんな答えをマコトが口にするような雰囲気があった。
ただ理由は分からない。
お金に目がくらんだわけでも、親子の情が芽生えたわけでも、脅されたわけでもない。
トモナリ自身、マコトが自分と活動することに魅力を感じてくれているという自負がある。
それでもマコトは暗王会を選ぶと言った。
「トモナリ君は大きな目標に向かってる。僕もそれを手助けしたいんだ」
「手助け……だって?」
「暗王会は危ないところだけど……情報を扱わせたら国内でも有数の組織だ」
「まさか……」
「僕はトモナリ君の影になる。耳になる、目になるよ」
マコトは男の決意が滲む顔をしている。
「暗王会……使えるものはなんでも使って。僕がそのために暗王会の手に入れるから」
試練ゲートを攻略していくことは簡単ではない。
情報を集めることも必要なことである。
小規模ギルドだと情報を集めることも意外と難しい。
だが暗王会の力があるなら? とマコトは思った。
暗王会を掌握すれば情報を集めることは容易になる。
そのチャンスが目の前にある。
「全部掌握して、余裕ができたら……僕を改めて仲間にしてくれないかな?」
つまりマコトはトモナリのために暗王会を手に入れようとしているのだ。
「どうして……そこまで?」
暗王会に入るというのはかなり険しい道である。
それでもマコトはそんな道に進もうとしている。
「トモナリ君は……僕の憧れだって言ったでしょ? トモナリはもっと高いところ……もっと先に進もうとしている。隣に立つためには、普通じゃダメなんだ」
言いながらマコトは思った。
すごく傲慢だなと。
今自分はトモナリの隣に立っていたいと言っているのだ。
そして、それを実現させようと足掻こうとしている。
「トモナリ君に出会って……僕は少し、わがままになったんだ」
マコトはニコリと笑う。
「トモナリ君が困ったら僕のことを思い出す……そんな存在になりたいんだ。トモナリ君は自分の道を進んで。僕がそれを支える存在になるから」
「…………そうか」
マコトはもう決断している。
それをどうこういうのは野暮というものだ。
「待ってるぞ、未来の暗王」
「うん。待ってて」
今回はきっとマコトが後継者争いで負けるようなことなんてないだろう、とトモナリは思った。
「まあでも暗王会に行くのは卒業後にしようと思うけどね」
照れ臭さを誤魔化すようにマコトは目を逸らした。
暗王会が味方になってくれる。
実現したとしたらかなり大きな力になることだろう。
「うむ……男の友情というなのだ」
空気を読んで静かにお菓子を食べ尽くしたヒカリはトモナリとマコトの様子を見て、うんうんと頷いていたのだった。
ーーー第八章完結ーーー




