誘拐された暗王候補3
「きしみ……」
以前トモナリはわずかなヒントから未来予知で見た場所を特定した。
何かヒントがあればと、ハルカは少し視点を変えてみた。
見て何も分からないなら、別のところにヒントはないかと考える。
何かが軋むような音がしている。
「波の……音?」
水の音がする。
だが水道とか、水が流れるような音じゃなくて、大きなものがぶつかるような水の音だった。
まるで波がぶつかっているかのようだとハルカは思った。
「窓のない密室……何かが軋むような音……それに波の音。船の上か」
「あっ、そうかもしれません!」
ハルカがつぶやくヒントを拾い、トモナリは一つの推測を打ち立てた。
マコトは船の上にいるのではないか、と。
「船に誘拐って……あっ!」
「何かありましたか?」
目を閉じて集中していたところにトモナリが大きな声を出したものだから、ハルカは飛び上がりそうになってしまった。
「えーと……」
トモナリは紙とペンを手に取る。
そして何かを描き始めた。
「んー、何ですか、これ?」
描いているのは文字ではなく、イラストのようなものだった。
ハルカとヒカリでトモナリの手元を覗き込む。
「短剣に、闇の炎……ダメだな、絵心ないや……」
人生二回目だが、絵の練習をしたことは一度もない。
それでも頑張って描いた。
「こんな感じのシンボルなかったか?」
トモナリは斜めにクロスした二本の短剣とその後ろに黒い炎のようなものを描いた。
単純な図柄だが、あまり上手ではない。
「なんなのだ?」
ヒカリはトモナリが描いた図柄をツンツンとつつく。
「これはギルドマークだよ」
「ぎるどまーく、なのだ?」
小さいギルドや個人では持たないが、大きなギルドや企業ギルドなんかは自分たちのギルドを現すロゴマークのようなものを作っていることがある。
オウルグループではそのまんまフクロウのようなロゴを、トモナリが研修に行った天照ギルドでも光をモチーフにしたロゴを持っている。
マコトと関わりがあるようなところはどこかと考えた。
人を誘拐して船に閉じ込めるなんて、普通のギルドのやることではない。
かなり危険なギルドで、マコトに関わるところというので一つ思い出したのだ。
「これは暗王会というギルドのマーク……を何となく描いたものだよ」
マコトは回帰前、暗王会という危険な汚れ仕事をするところに所属していた。
暗王会も元を正せば、通常の覚醒者ギルドであった。
危険な仕事に手を出し始めて通常のギルドの枠組みから外れてしまったが、通常のギルドとして活動していた時のロゴが存在している。
それがクロスする短剣に漆黒の炎なのである。
ただし暗王会のロゴマークなんてそんなに見るものでもなく、うろ覚えだった。
さらにはトモナリにはあまり絵心がない。
何となく描きたいものは伝わるのだから、それで勘弁願いたいところであった。
「……あっ! そういえば部屋に入ってきた男の胸にそんなものが……」
トモナリの絵をじっと見つめたハルカは、クロスした短剣のロゴが男の胸にあったことを思い出した。
トモナリが描いたものと違ってしっかり洗練されていたものの、確かに何となく近い感じはある。
「…………そうか」
「先輩?」
更なるヒントが得られたのにトモナリは暗い顔をしていた。
「暗王会か……厄介だな」
ヒントになるならという期待と違っていてほしいという期待が同時にトモナリの中にはあった。
回帰前にマコトと暗王会に関わりがあったが、現段階で関わりがあるとは思わなかった。
暗王会は一筋縄にはいかない相手だ。
犯人が暗王会だとすれば、ただの失踪事件では終わらない可能性もある。
そんなふうにトモナリは思った。
「ハルカ、ありがとう」
「大丈夫……そうですかね?」
ほんの少しだけマコトの件で前進があった。
しかし、トモナリは複雑そうな顔をしている。
余計なことだったのではないか。
ハルカは不安そうにトモナリのことを見る。
「大丈夫かどうかは分からないな……でも助かったよ」
回帰前のマコトに何があったのかトモナリも知らない。
気弱で優しい性格をしたマコトが、進んで暗王会に入るとも思いにくい。
何かがあった。
ここはマコトの分岐点なのかもしれない。
「知ってしまった以上は……動かないわけにはいかないよな」
マコトが暗王会に捕まっていることが分かった。
何も知らなかった時は何もできないが、少なくとも暗王会が関わっていることが分かったのならトモナリだって動かないわけにはいかない。
「卒業前の大仕事かな」




