お茶会2
「そうですね。話に聞く、世界樹です」
いわゆるお話に聞くような世界樹の存在はあるとされつつも、実際に見たものはいない。
ゲートから出た装備などに世界樹を加工したものがあるのであること自体は疑っていなかった。
異世界植物の研究所として世界樹の発見、研究、あるいは栽培は夢である。
そしてシゲモリ自身も、ドルイドとして世界樹という存在に出会ってみたいという思いがあった。
「おっと」
シゲモリが思わずタネに手を伸ばそうとして、トモナリはスッとタネを遠ざける。
盗むだなんてことは考えていないが、覚醒者にはインベントリというシステムがある。
そこに入れられてしまうと、相手が自ら出してくれるまで回収は不可能になる。
インベントリに干渉するスキルもあるらしいが、今はそんなもの近くにない。
「どうして俺がここに来たか、分かりましたね?」
「世界樹、のタネ。つまりはそれを育てるためね?」
シゲモリは名残惜しそうな顔をしている。
「世界樹を育てるつもりなのね?」
「その通りです」
「……モンスター肥料はいくらでもあなたに渡すわ。今試作している最高級品も含めて無償で提供する」
シゲモリの目の色が変わる。
普段は品のいいおばあちゃんという感じだが、今は覚醒者らしい雰囲気をまとっている。
「ただどうかしら、うちに任せてみるつもりはない? うちは植物のプロよ。世界樹の権利はあなたのままで、うちで育成過程の調査やちょっとしたサンプルの提供なんかしてもらえると嬉しいわね」
口調もやや早口になっている。
興奮が抑えきれないという感じだ。
「少し落ち着いてください」
「……あ、そうね。恥ずかしいところを見せたわ」
副所長としているだけで、熱意のようなものはないのかと思っていたが、全然そのようなことなかった。
これなら世界樹の育成にも期待はできそうだ。
「ここに研修に来た目的は二つです」
「二つ?」
「一つは植物研究所なので、世界樹を育てるのに役立つものがないかと考えてです」
少なくともモンスター肥料というものは見つけた。
もしかしたら他にも役立つがあるかもしれない。
「もう一つは?」
「もう一つはシゲモリさんです」
「あら、私?」
シゲモリも少し落ち着きを取り戻している。
その横ではヒカリとミヒャルがお菓子を巡って争っていて、不思議な状況となっている。
「植物と親和性の高いドルイドならば世界樹の育成の助けになると思ったんです。引き抜きや協力を得られればと考えていました」
「本気で考えているのね」
ただタネを植えるだけでなく、世界樹を育てるということをトモナリは考えている。
トモナリの考えの深さにシゲモリは感心してしまう。
「最初はシゲモリさんを引き抜くつもりでした」
「最初は、つもり……じゃあ今は?」
「先ほどおっしゃってくださったようにここに任せてもいいかもしれません」
まだあまり多くの人と関わったとは言いがたいが、ヒロタを始めとしてここまで出会った研究所の人たちは良い人であった。
所長に実際会ってみないことにはなんとも難しいところはあるものの、研究所の能力としては高い。
世界樹を任せても真面目に育ててくれるだろうという期待は持てた。
「ただもうちょっとここのことを知って、もっと細かく条件を話し合う必要があります。そのためには……」
「アキヒト……所長ね?」
「はい、そうです」
シゲモリが信頼できることは間違いない。
ただいまだ顔を合わせてもいない所長に全てを委ねるのは決心がつかない。
「あの人も……悪い人じゃないわよ。ただ仕事に熱心で時々色々忘れちゃうの。あの人も世界樹のタネがあると知っていたら他の仕事投げ出して駆けつけてくるわよ」
「そうなんですか。ただ、今は所長さんの人となりを知りたいです。なので世界樹のことは秘密に」
「分かったわ。私だけが知っているのね。ふふ、ちゃんと帰ってくればよかったのに」
シゲモリは嬉しそうに笑う。
仮に研究所に任せないとしても、シゲモリの態度を見るに協力はしてくれそう。
「それにしてもあなたはすごいのね。世界樹のタネ……よければよく見せてくれないかしら?」
「いいですよ」
シゲモリに世界樹のタネを渡す。
協力してもらえるならこれぐらい安いものである。
シゲモリはまるで恋する少女のように世界樹のタネを眺めていた。
植物研究者としてのシゲモリの姿を見たような気になったのであった。
新年明けましておめでとうございます。
なんだかんだとこの作品も続いておりますが、これからものんびり書いていきます。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
皆様も小説読んでのんびりしてください。
本年もよろしくお願いします。
犬型大




