ミズドルイド3
「一つ聞いてもいいかしら?」
「なんでしょうか?」
「どうしてうちを選んだのかしら?」
優しい色をたたえたシゲモリの瞳がトモナリを見つめる。
「正直うちは人気がないわ。覚醒者として稼げるわけでもない。安定は強みだけど、どうせ研修に行くなら派手なところにいきたいものね」
木崎植物研究所はアカデミーの研修も快く受けているけれど、研修先として積極的に選ばれるところじゃない。
トモナリのことはシゲモリも多少知っている。
安定を求めることを否定するわけではないが、トモナリならば安定を選ばすとも安定を得られるほどの実力や期待がある。
なぜ研究所の研修なんて選んだのだ、と気になっていた。
「実は今、異世界の植物に興味があるんです」
問い詰めるような雰囲気ではない。
トモナリはニコリと笑って答えた。
世界樹という単語は、どんな影響を与えるかわからない。
だからまだ口には出さない。
しかし大雑把な目的は隠す必要もないのでさらりと白状する。
「異世界の植物に?」
シゲモリは意外そうな顔をする。
ゲートの中の植物にまで興味を持つ人は少ない。
故に研究所に勤めるような人は熱意が高くて、やる気もあるのだけど、一線で活躍しそうで研究者タイプにも見えないトモナリにそうした趣味があるのは予想外だった。
「そういえばシゲモリさんはドルイドなんですよね?」
「よく私の職業を知ってるね」
「たまたま聞いたんです。ゲートの中の植物にも力は及ぶんですか?」
「もちろんだよ」
シゲモリがドルイドであり、ドルイドが植物に対して影響を与える力を持っている職業なことはトモナリも知っている。
ただドルイドがどんな職業なのかということを細かくは知らない。
植物に関する力を持っているので世界樹の育成にも役に立ちそうだと考えていた。
さらにシゲモリがふさわしいだろうと考えるのに、他の理由もある。
植物の研究所所属ということはとても大きい。
植物に関する知識もシゲモリは豊富であるのだ。
異世界の植物に興味があると言ったが、それは世界樹のタネを持っているからで、トモナリ自身は何かを育てたこともない。
シゲモリならば、世界樹の育成において知恵を貸してもらえる可能性も大きい。
加えてシゲモリはもうだいぶ高齢である。
マサヨシなんかよりも歳が上だ。
つまり今は覚醒者として戦ってはいないということになる。
これからトモナリはシゲモリを引き抜くつもりだ。
元気で活力のある若者を引き抜くことは、人手が不足しがちな研究所として致命的だろう。
しかし第一線に出ないシゲモリなら、最悪の場合研究所に所属したままでも力を貸してもらえる可能性も高い。
「色々とお話聞きたいです。よければ本当にお茶に誘ってください」
「……ふふ、分かったわ。お菓子もたくさん用意しておくわね」
「やったなのだ!」
ひとまずシゲモリの印象は悪くない。
世界樹の育成にも協力してくれるかもしれないと、トモナリは希望を持ったのだった。




