次のターゲット
『どこ行くの?』
「んー? ああ、今は色々と見て回る時期なんだ。俺の友達には今度紹介するよ」
ミヒャルを仲間にしたトモナリだが、悠長に休んでいる暇もない。
トモナリは次の研修先に向かっていた。
天照ギルドだけで研修は終わりではない。
他にもいくつか回ることになっている。
面倒といえば面倒だが、色々なところと縁を繋いで経験を積ませてもらえる手厚いシステムにはなっている。
トモナリとしても研修はチャンスだ。
言ってしまえばアカデミーの外に出て活動できるという機会なのである。
天照ギルドでは骨を手に入れた。
これは世界樹のタネを発芽させて育てるためであり、今のトモナリの目標となっている。
そして、今向かっているギルドも世界樹のために目的としているものがあった。
『次は何を狙っておるのだ?』
「次はな、人だよ」
護衛として覚醒者も乗っているバスの中で、声を抑えめにルビウスの質問に答える。
トモナリにはルビウスの声が聞こえているので会話しても問題はないが、周りにルビウスの声は聞こえていない。
大きな声で返事を返すと、独り言を言っているやばい奴になってしまう。
『人?』
「ああ、世界樹を育てたいけど、俺がずっと面倒見てるわけにもいかないだろ?」
『それはそうかもしれないが、犬猫じゃあるまいしずっと面倒見ていることもないのではないか?』
「いや、実際はそうでもないんだ」
トモナリは小さくため息をついた。
『んん? どういうことだ?』
『世界樹は生きている』
『それはそうだろうな』
『そうではなく、世界樹には意思があるのだ。犬や猫なんかよりもよほど高度なものがな』
トモナリの代わりにエドが答えてくれる。
世界樹はただの木ではない。
モンスターを遠ざけて人を守る力を持つが、それだけでなく意思を宿した植物なのだった。
言葉を選ばずにいうのならただの植物というよりは、モンスターにも近い存在である。
世界樹の意思を正しく導くことで、世界樹そのものの成長も促すことができる。
そのためにトモナリは世界樹を育ててくれる人を探そうと考えていた。
『ふむ……そこらで人を雇うわけにはいかないのか?』
「それでもいいけど、どうせなら相応しい人にお願いしたいだろ?」
『相応しい人? 花屋でも雇うつもりか?』
「いい質問だ。遠くないぞ」
花屋を雇うという言葉にトモナリはニヤリとする。
「花屋……に近いな」
『お花屋さんに近い?』
「俺が狙ってるのは……ドルイドだ」
「ドルイドなのだ?」
「そう、ドルイド」
ドルイドというのは職業の種類である。
トモナリのドラゴンナイトなんかと同じ、覚醒者の職業なのだ。
「ドルイドは植物と親和性の高い魔法職でな。世界樹に対してもきっと合うだろうし、上手くいけば成長も促してくれるかもしれない」
ドルイドとは特殊な魔法職である。
植物に対しての親和性が非常に高く、戦闘においても植物を使ったりする。
魔法の力で無理矢理成長させるつもりはない。
だが植物に関わる力は世界樹の役に立つかもしれない。
世界樹のそばにいてくれる人として、ドルイドがいいのではないかと思ったのだ。
『これから行く先にドルイドがいる……ということだな』
「その通り」
今回研修先のギルドを選ぶにあたって色々なことを考えて、色々な記憶を手繰り寄せ、色々な情報を集めた。
ドルイドにも接触したいなと思って、覚醒者協会に無理を言ってドルイドが職業の人を教えてもらった。
時に特定職業が必要となることもある。
隠さずに職業を公開している人ならば、トモナリに情報を渡しても個人情報なんかの問題にはならない。
ドルイドが職業の人と所属しているギルドを見て、さらには研修の候補から一つに絞った。
「ちょっと研修先としては特殊になっちゃったけど……意外と面白いかもしれないな」
トモナリが研修先としては選んだのは、木崎植物研究所。
いわゆる研究機関であり、企業ギルドともまた毛色の違う覚醒者の行き先だった。
ドルイド目的ではあったが、植物研究所ならあるいは世界樹のためになりそうなものがあるかもしれない。
『ちなみに水なら私があげるよ!』
「……それもいいかもな」
ミヒャルの声が聞こえてきた。
水という要素はここまで考えてこなかった。
しかしドラゴンが生み出す水は世界樹育てにもいいかもしれない。
『ふっふー! 私も頑張るからね!』
「ああ、期待してるよ」
ひとまずは世界樹を育てるための準備を整えていく。
研究所での研修というのも経験ないので楽しみだ。
「あと二時間か」
研究所はちょっと遠い。
他に研修に行く生徒がいるのかも知らない。
「まあ、ちょっと寝ておこうかな」
トモナリは座席に深く腰掛けると目を閉じた。
休める時に休む。
これは回帰前の過酷な環境で得た能力であり、揺れるバスぐらいなら快適なぐらいだった。




