ニュードラゴン1
「さぁて……」
天照ギルドでの研修を終えたトモナリとヒカリはアカデミーの自室に戻っていた。
といっても研修全部が終わったわけではなく、またすぐに次の研修先に向かう。
少しの休憩と準備のために戻ってきているに過ぎないのだ。
スケジュールに余裕のない人だと、こうして戻ることもなく次に向かうことも珍しくない。
トモナリはちょっと余裕があったから一度戻ってきている。
ただ消耗品の補充なんかをしたら、さっさと出発してしまうつもりだった。
しかし戻ってきたのには目的が一つあった。
トモナリはインベントリからネックレスを取り出す。
『うおおおおん!』
ネックレスを手にした瞬間、声が頭に響き渡る。
青い水滴の形をした石のネックレスは天照ギルドでもらったものであり、ボーンドラゴンとなっていたブルードラゴンのミヒャルを倒した時に手に入れた石を加工したものだった。
身につけると魔力を向上させてくれるという優れものなのだけど、一つ問題のようなものがあった。
『どうして身につけてくれてないのぉー!』
それがこの頭に響く声である。
多分、ミヒャルの声だとトモナリにも分かっている。
試しに他の人にもネックレスに触ってもらったが、声は聞こえておらずトモナリだけに聞こえていた。
ただうるさい。
何かと声をかけてきて、少し無視するとすぐに泣き出すのだ。
契約すればマシになるかなとは思ったけれども、忙しくてそんな時間がなかった。
人前で頭の中に聞こえる声に返事するわけにもいかなくて、ネックレスを外してインベントリにしまっておいた。
アカデミーの部屋ならば落ち着いてミヒャルにも向き合える。
「少し落ち着け……改めて聞くけどお前はミヒャルでいいんだよな?」
青い石が目の前に来るように、ネックレスのチェーンを手に持ってぶら下げる。
ヒカリもジーッとネックレスを覗き込むが、今のところヒカリにはミヒャルの声が聞こえていない。
『そうだよ! なんでこんなことになってるのか分からないけどなんだかこうなったんだよ!』
声をかけてやるとミヒャルの機嫌はすぐに治る。
尻尾を振る青いドラゴンの姿が見えるような気がトモナリにはしていた。
「俺にも分からないけど……ミヒャルの意思がこもってるようだな」
ドラゴンは友達になりたいというとついてくるのだろうか、とトモナリは苦笑いを浮かべる。
ともかく青い石にはミヒャルの意思がいた。
なんでこんなことになっているのか、それはトモナリにも分からない。
天照ギルドがボーンドラゴンを討伐して、その骨を保有していることは知っていた。
しかしミヒャルのことは知らない。
誰にも声が聞こえないままこんな風にネックレスのように加工されたのだろうか。
あるいはミヒャルの石は報酬として現れなかったのか。
トモナリが介入したことによって回帰前とは変わってしまったことは多く、その結果としてミヒャルの意思がこもった石が現れた可能性もある。
「まあなんでもいいか」
どうしてとか、回帰前はどうだったとか、そんなこと考えても答えは出ない。
大事なのは今目の前にミヒャルがいるということである。
「ミヒャル」
『ん? なーに?』
「友達になってくれるんだよな?」
『も、もちろんだよ! えっ、もしかして嫌になった?』
焦るような声が聞こえてくる。
うるさくし過ぎたかもとミヒャルは一気に不安になる。
「別に友達になるのをやめるつもりはないよ」
『ホッ……』
「実は俺にはドラゴンに関するスキルがあるんだ」
「ぬっ?」
「それが噂の新入りですか?」
トモナリはルビウスとエドを召喚する。
もうすでにトモナリにはヒカリに加えて、二体のドラゴンがいる。
ただ友達になるというだけでなく、トモナリにはドラゴンと繋がるスキルがある。
「俺と契約しないか?」
どうせなら力も貸してくれるとありがたい。
契約して魂で繋がれば、トモナリだけでなくヒカリやルビウスやエドとも繋がれる。
『契約……する!』
ミヒャルの声がワントーン明るくなった。
次の瞬間、トモナリの意識はホワイトアウトした。
ーーーーー
「いらっしゃい!」
ルビウスは趣のある東屋。
エドは落ち着いた雰囲気の岩の洞窟。
それぞれに自分の家となるような空間がドラゴンたちの中にある。
そしてミヒャルの家は氷の宮殿だった。
水晶のように見える青く澄んだ氷がお城を作り出していた。
その中の一室にトモナリは立っていた。
周りを見回す。
氷の調度品もあるが、中には氷じゃないものもある。
豪華なベッドは氷ではなく、木で作られていてフカフカとしたマットレスや布団が敷いてある。
そのベッドの上にミヒャルが人の姿で寝転がっていた。
「…………なんでそんな格好なんだ?」
「えっ!? 人間のオスってこういうのが好きなんじゃないの!?」
別にどんな姿だろうといいのだけど、ミヒャルはかなり際どい透け感のネグリジェを着ている。
苦笑いを浮かべるトモナリの顔を見てミヒャルは驚いた顔をする。
「うん……まあ、嫌いというつもりはないけど……」
好きか嫌いかで言えば嫌いとは言い切れない。
ただミヒャルは見た目お子ちゃまである。
ルビウスが着ているならまだしも、ミヒャルがセクシーな服装をしてもミスマッチ感が強すぎる。




