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【第六章完結】ラスボスドラゴンを育てて世界を救います!〜世界の終わりに聞いたのは寂しがり屋の邪竜の声でした  作者: 犬型大
第八章

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ご褒美

「バカね……」


 クレアは新聞を投げ捨てるように置いた。

 そこには覚醒者が暴行事件を起こして逮捕された記事が書かれている。


 逮捕された人の名前はシバヤマアキラ。

 先日天照ギルドをクビになったシバヤマの息子である。


 なんでも酒に酔って、近くにいた人に暴力を振るったらしい。

 殺さなかっただけ力を制御したのかもしれないけれど、暴行事件だけでも重大な事案である。


「大きなギルドは絶望的かもしれないけど、小さなギルドから再スタートすることも、自分でギルドを興すことも、海外なんかに渡ることだってできるのに」


 クレアは深いため息をつく。

 シバヤマが体を張ってくれたことによる温情で、アキラは罪に問われることなく追放された。


 大型ギルド間の横の繋がりがあるために、大型ギルドに所属することは難しいだろう。

 しかし罪に問われていない以上はやり直すことができる。


 個人で活動していくこともできる。

 他にもギルドを起こしたり、天照ギルドと繋がりのないところに行ったりすることもできる。


 活動だって日本に限らない。

 海外に目を向ければいくらでも再帰可能なのだ。


 だがアキラは酒に溺れて自らの未来を潰した。

 シバヤマが頭を抱える姿が見えるようだ。


「それに対して……あなたはよくやってくれたわね」


 クレアは目の前に座るトモナリを見て微笑む。


「明日でウチの研修も終わりだけど……アカデミーに送る研修の評価はもちろん最高点よ」


「ありがとうございます」


 なんだかんだで天照ギルドでの研修の時間も過ぎて、終わりの時も目の前に迫っていた。

 人が抜けて高レベル部門は再編成が行われて、テルヨシが高レベル部門のトップに加えて、第一チームのリーダーを兼任することになった。


 事件があったにも関わらず、今のところ天照ギルド内の雰囲気はとてもいい。

 やはりシバヤマのかもし出す不穏な雰囲気は、大なり小なり空気感に影響を与えていたようだ。


「事件の処理も正式に終わって……あなたには大きな恩ができたわね」


 トモナリはテルヨシを始めとした元第三チームの命の恩人である。

 不要な動揺や噂の広まりを避けるために関係者以外には細かく何があったのか知らされていないが、元第三チームは何が起きたのかを知っている。


「あなたがボーンドラゴンを倒したと……これもみんなが証言したわ」


 アキラたちの脅威から守っただけではない。

 ボーンドラゴンを倒したのもトモナリだ。


 正確には倒したのかどうかトモナリにもちょっとハッキリとしないところはあるものの、違うと否定できることでもない。


「手柄にはちゃんとご褒美をあげなきゃね」


 クレアはトモナリの前に小さな箱を差し出した。


「これはなんですか?」


「開けてごらんなさい」


 トモナリは小箱を手に取って開けてみる。


「……ネックレス?」


 中に入っていたのはネックレスだった。

 青い水滴型の石がキラリと光るシンプルなデザイン。


「この石って……」


「あなたが手に握っていたものよ。ボーンドラゴンの討伐報酬ね」


 ネックレスに付けられている石はトモナリが手に握っていたものだった。

 おそらくミヒャルのものだろうとは思っていたが、トモナリが勝手にもらうわけにはいかないので渡していたものである。


「こっちの方でネックレスのアーティファクトとして加工したの。これはあなたが持っているといいわ」


「いいんですか?」


「正当な報酬よ。色々なことに巻き込んでしまったから。装備すると魔力を上げてくれる、かなり強力なアーティファクトとなっているわ」


「魔力を……」


 魔力を上げてくれるアーティファクトはかなり貴重である。

 世に出たら奪い合いになるレベルのものだと断言してもいい。


「ありがたく、いただきます」


 きっとミヒャルも他の人が持つより、自分が持った方がいいだろうとトモナリも思った。

 だから素直に受け取ることにした。


「……あ」


「どうしましたのかしたら?」


 ネックレスに触れたトモナリがビクッとした。

 クレアは不思議そうにトモナリのことを見る。


「いえ、なんでもないです」


 トモナリは笑顔を浮かべてネックレスを装着する。

 石だけじゃなく、チェーン部分もしっかりとした良いもので作られている。


 そして身につけてみると、ネックレスはヒンヤリと心地よい。

 さらにネックレスから力が流れてくるように感じた。


「他にも何か希望はある? あなたの願いならウチが全力をあげて叶えるわよ?」


「……本当ですか?」


 これはチャンスだ。

 どうやって話を切り出そうか悩んでいたものだが、向こうから聞いてきてくれた。


 トモナリは思わずニヤけてしまいそうになるのを我慢する。


「何かあるのね? なんでも言って」


 トモナリから希望が出てこない可能性も考えていたクレアは、むしろトモナリに何かがありそうことを嬉しく思っていた。

 返せるなら恩はちゃんと返したい。


 今回のことは特に大きな恩であるし、スカウトしたい相手に大きな恩を抱えたままになるより今返してしまう方が後のためでもある。


「ボーンドラゴンの骨を一部分けていただきたいんです」


「ボーンドラゴンの……骨を?」


 クレアは予想外のお願いに目を丸くした。

 ただ、トモナリとしては最初からこれが目的だった。


 世界樹を大きく育てるための肥料としてボーンドラゴンの骨を利用する。

 ちょっとでいいからもらえないかとお願いする機会をうかがっていたが、良いタイミングが巡ってきた。


「ダメでしょうか?」


「いえ、ちょっと意外だっただけよ。あなたのお願いならボーンドラゴンの骨も持っていって構わないわよ」


 ドラゴンの骨、ということでボーンドラゴンの骨の利用価値が高い。

 しかしトモナリが欲しいというのなら惜しむことはない。


「ありがとうございます!」


「いいのよ。いつかあなたが独り立ちする時に……ウチのことを思い出してもらえれば嬉しいわね」


「きっと思い出すと思いますよ」


「あら、嬉しいことを言ってくれるわね。あなたが来てくれるならポジションも空けておくから」


 クレアはちゃんと最後のスカウトも忘れない。

 骨も手に入り、ミヒャルのネックレスも手に入れ、天照ギルドの分裂も防いで、縁も繋げた。


 上々すぎるぐらいの結果。

 全部が上手くいった研修の始まりであった。

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