馬鹿者の結末2
「すぐに動いてくれてよかったです」
エドの召喚が解除され、トモナリの危機を感じたルビウスがクレアのところまで飛んでいき用意してあったメモを渡した。
クレアはメモを見て、すぐに動いてくれた。
部隊を率いてゲートに来てくれたのだ。
まさか第三チームに迫る危機が身内によるものだとは考えていなかったが、覚醒者の力があれば簡単にどかせそうな岩を前に何もせずにいる第一チームを見て何が危機なのか察してくれた。
クレアは素早く第一チームを拘束した。
シバヤマがいたら簡単にはいかなかったかもしれないが、先にシバヤマを始めとした高レベルの覚醒者は抜けてしまっていたので、難しくなったのである。
「まさか第一チームがあんなことをするなんて……」
ボス部屋の入り口を破壊してボスとの戦いに参加しなかった。
正当な理由もなくこんなことをするのは攻略妨害行為であり、許されるものではない。
しかし今回起こったことはそれだけじゃない。
攻略妨害行為をして第三チームが失敗すれば失敗したから全滅したと報告すればいいが、問題は第三チームが攻略してしまった時である。
「証拠隠滅にあなたたちを攻撃するつもりがあったなんて言語道断な話……」
攻略に成功した場合、第一チームが第三チームを攻撃するつもりだったという証言が出てきた。
誰もが己の身が大事で、アキラと一緒に責任を被りたくないのか脅されたとか、そんな証言ともにアキラがしようとしていたことも明るみに出てきたのだ。
「シバヤマは抗議しているようだけど……証拠もあるしね」
天照ギルドはしっかりとしたギルドだ。
攻略記録を残すためにボディカメラを身につけているような人もいる。
全てが終わったらモンスターとの戦闘で壊れたなんて言い訳でもして、記録を消すつもりだったのだろう。
けれども第一チームの分も含めて記録は残っていた。
終わってみるとつめが甘いものだが、どれもこれもクレアが駆けつけてくれたからそうなったらのだ。
さらに言ってしまえばトモナリが事前に策を練っていたおかげなのである。
「君のおかげで助かったよ……僕も正直、アキラのやつがそこまでやるとは思ってなかった……」
テルヨシは悲しそうな顔をしている。
今でこそアキラがテルヨシのことを嫌っているけれども、ギルドで働き始めた最初、年が近いアキラとテルヨシの仲も悪くはなかった。
だがいつの間にか疎遠になって、そして殺したくなるほどに思っていたのかと首を振ってしまう。
「これからどうなるんですか?」
「まだ決めあぐねているわ……」
クレアも簡単には処分を下せない。
攻略妨害行為と言ってしまえば軽くも聞こえるが、ざっくり言えば殺人未遂のようなものである。
かなりの重犯罪で、証拠もある。
覚醒者協会に突き出せば間違いなく刑務所行きとなってしまうだろう。
ただアキラに関して簡単にいかないのが、シバヤマがいるということだ。
ギルドの功労者であり、実力も高くて従う人も多い。
息子であるアキラを突き出せばどう動くか分からないのだ。
「なあなあで終わらせるつもりはないわよ……」
しかしクレアも怒り心頭だ。
アキラは捕まっても死なないが、クレアは息子を失いかけた。
「シバヤマは自分の勢力まとめてどうにかしようとしているみたいね」
アキラをどうにかすれば人を連れてギルドを抜ける。
そんな脅しが透けて見えている。
「ここらでどうして私がギルドマスターなのか教えてあげましょうか……」
後日、クレアとシバヤマは戦った。
名目上手合わせということだったのだが、ゲートの中で行われた二人の試合によってこの事件の結末は決まった。
天照ギルドの覚醒者たちが見ている目の前で行われた戦いで、シバヤマは敗北した。
シバヤマは右腕を失い、アキラは覚醒者協会に突き出されなかったもののシバヤマと共に天照ギルドを追い出されることになった。
当然ながら腕を失い、圧倒的な力を見せつけられたシバヤマについていく人はいない。
腕だけじゃなく、勢力も全て失った。
さらには細かな事情まで言わないものの、アキラが問題を起こしてギルドを追われたことはあっという間に他の大型ギルドに広まった。
シバヤマも腕を失っているし、アキラも覚醒者として華々しく活動することは不可能となったのである。
愚かなことをしたものだ、とトモナリは思う。
人に嫉妬することは仕方ないとしても、嫉妬に支配されて他人を害そうとしてはいけない。
シバヤマも息子可愛さに自分の立場を見失っていた。
クレアが口を出さないのを良いことに、ギルドで力をつけて調子に乗っていた。
だがそれはあくまでもクレアの黙認の下での力だったに過ぎない。
シバヤマ勢力だった人が何人か辞めていくことになり、アキラを止めなかった第一チームの人にも処分が下った。
けれども回帰前にあったようなギルドが真っ二つになるような大きな分断は避けられた。
きっと、結末としては上手く行った方だった。




