ボーンドラゴン3
「……なんだ!?」
ボーンドラゴンがトモナリたちの方を見た。
その瞬間後ろから大きな爆発音が聞こえてきた。
ボーンドラゴンが何かをしたような様子はない。
「あいつら……!」
何が起きたのかと振り向いたトモナリが見たのは、ニヤついた顔をしたアキラと崩れ落ちるボス部屋の入り口だった。
「いいんですか? こんなことして」
もちろんボス部屋の入り口が勝手に崩れるはずもない。
アキラが命令してボス部屋の入り口を破壊させたのだ。
第三チームは気に入らない。
しかしこんなことをするなんて後ろから刺すのと同じことで、第一チームの覚醒者たちは動揺していた。
「いいんだよ。あんな奴ら」
アキラは第一チームの動揺を鼻で笑った。
「親父はアイツのことを俺のライバルみたいに見てるけど……とんでもない」
もうすでに岩で塞がれて見えなくなったボス部屋を睨みつける。
「俺の方が上なんだよ。それなのにあのくそ親父も俺とテルヨシを比較ばかりしやがって。ここで死んじまえばいいんだよ」
シバヤマはテルヨシのことを敵対視している。
ただそれは裏を返してみれば実力や人望を認めているということでもある。
アキラは父であるシバヤマにテルヨシと比較されていた。
いつしか勝っていると思いながらも強い劣等感を抱き始めていた。
第一チームはアキラにも従うが、それはシバヤマがいるからだ。
テルヨシのように心から慕われて、実力を認められているわけじゃない。
シバヤマの七光。
後ろにシバヤマがいるからみんなアキラのことを認めているのであり、アキラはどこかでそのことに気づいていた。
暗い気持ちがアキラの中で大きくなり続けていたのだ。
そんな気持ちが、ふと弾けて出てきた。
このゲートに挑む時もシバヤマはテルヨシのことを意識していた。
実は、アキラはCクラスゲートなら自分で攻略できるとシバヤマに直訴していた。
だがそれを聞き入れてもらえず、最終的には大丈夫そうだからなんて押し付けられている。
全部テルヨシのせい。
「あんな奴いなくなればいいんだよ……」
シバヤマもおらず、第一チームの他の強い覚醒者もシバヤマと一緒に行ってしまった。
アキラを止められる人はいない。
「で、ですけど倒してしまったら?」
+がついているとは言ってもCクラスゲートだ。
第三チームでも十分にボスを倒す可能性がある。
そうなれば第一チームは第三チームをただ害しただけになってしまう。
テルヨシはギルドマスターの息子であり、こんなことが知られたら処罰は逃れられない。
「ボス倒したら……俺たちがアイツらを倒せばいいんだよ」
「…………はっ?」
「ボス相手にして疲れ切っているアイツらなら倒すのも簡単だろ?」
「何を言ってるのか分かってるんですか?」
アキラは不安そうな顔をしているおじさん覚醒者の肩に手を回す。
とんでもない発言が出てきて、みんなは顔を青くする。
倒すというマイルドな言い方をしているが、要するに殺してしまおうとアキラは言っているのだ。
モンスターならともかく、人を殺すなんてことは発言するだけでも危険だ。
「お前こそ何言ってんだ?」
アキラはおじさん覚醒者にずいっと顔を近づける。
「もう共犯だろ?」
光の入らない暗い目に、肩を掴まれているおじさん覚醒者はゾクっとする。
直接殺してはいないがボス部屋の入り口を塞いだ。
上手く生き残ればただの妨害行為に終わるだろうかもしれないが、仮に全滅したら間接的に殺したも同然である。
殺すなんてとんでもないことだと言うが、もう手は下している。
このままテルヨシたちが生きて帰れば、止められなかった人も全員同じく罪に問われるのだ。
「もう引き返せないところまで来てる。仮にアイツらがボスを倒してしまったら俺たちがアイツらを倒して……秘密を守るしかないんだよ」
「うっ……」
グッと強く肩を掴まれておじさん覚醒者は顔をしかめる。
「心配しなくてもいい。筋書きはちゃんとある」
静かな洞窟の中、特に張っているわけでもないアキラの声はしっかりと全員の耳に届いていた。
「たとえ成功してもアイツらがボスに負けたことにすればいい。ゲート消失のギリギリにゲートを出れば中を確かめることもできない。そうだな……俺たちと競争になって焦ってボスと戦ったことにしておこう」
ゲートの中で起きたことは一般に外に漏れることは少ない。
事件が起きても調べるのは難しい。
だからこそ覚醒者には高い倫理観が求められるのだが、アキラの倫理観は明らかにぶっ壊れていた。
「どうする? 今から助けに行くか? 泣いて許しでも乞えば許してもらえるかもしれないぞ?」
完全にイッてる。
おじさん覚醒者は冷や汗が吹き出してきていた。
アキラがテルヨシをよく思っていないことはみんな知っていたけれども、ここまでするなんて誰も予想していなかった。
「死ねばオッケー。死ななきゃ殺せばオッケーだ」
アキラは口の端を上げて笑った。
何もオッケーじゃない。
しかしそんなことを口にできる人は誰もいないのであった。
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