ボーンダンジョン2
「まだ終わってないぞ! 攻撃を叩き込め!」
テルヨシの一撃でトラスケルトンの頭が砕ける。
しかしスケルトンはそれぐらい何でもない。
まだトラスケルトンは倒れていないが、バランスを崩した隙を狙って一気に攻撃する。
トモナリよりもレベルの高い覚醒者たちの攻撃で、トラスケルトンは耐えきれずにバラバラになってしまう。
魔法を受けたトラスケルトンも、気づけば背骨が折れて動かなくなっていた。
残るトラスケルトンは一体だけである。
「アイゼン君、攻撃に加わるかい?」
「あっ、お願いします!」
たとえ高難度でも、余裕がある。
トモナリにも攻撃のチャンスをくれるのだからとてもありがたい。
「おりゃ!」
タンク何人かでトラスケルトンを抑え込む。
「今だよ!」
「はは、すごいお膳立て」
「やーるのだー!」
分かりやすい攻撃チャンス作りに思わず笑ってしまう。
トラスケルトンだって笑顔の複数人から盾で押さえつけられるとは思ってないだろう。
トモナリとヒカリでトラスケルトンの頭を攻撃する。
攻撃してみた感じでは、トモナリの攻撃力でも十分にダメージは与えられそうな感じであった。
「動物型のスケルトン……うちで戦闘の記録はないな」
トラスケルトンを倒し、テルヨシがスマホのような機器を取り出した。
写真を撮って、操作しているそれはモンスター情報が中に入っている検索機であった。
ゲートが現れて出てくるモンスターは一度きりなんてこともない。
同じようなモンスターがゲートから現れることもある。
人類に余裕ができ始めた頃からモンスターの記録というものがつけられ始めた。
今ではモンスターを回収して研究して、さまざまなことにも応用している。
さらにはデータベース化して、すぐに情報を利用できるようにもしていた。
端末は写真を撮るだけで、類似モンスターの情報を探して表示してくれるという優れものなのである。
「何回か出現情報はあるね。Dクラスのぐらいのモンスターのようだ」
天照ギルドで戦ったことがあれば、天照ギルドの解析班が記載した情報が出る。
ただ天照ギルドで戦ったことがなくても公開されている情報を見ることができるのだ。
「骨は価値が低いそうだから心臓部の魔石だけ回収していこう」
素材の情報も載っている。
「アンデッド系が出てくるダンジョンか。人型じゃなくケモノタイプのスケルトンは結構珍しいな。検体用に一体は回収していくぞ」
第一チームの方はこうした細かいことはやらないだろう。
後で文句を言われるのも嫌なので細かなこともちゃんとやっておくのだ。
「アンデッド系だと面倒だね……」
「そうですね」
今戦ったトラスケルトンもそうであるが、頭蓋骨が陥没するような攻撃を受ければ大体ダメージとしては大きい。
打ちどころが悪ければ死んでしまう。
なのにトラスケルトンは殴られた衝撃でバランスを崩したぐらいで、ダメージそのものはあまり感じていない。
それこそがアンデッド系の強みである。
死んでいるから通常の生き物が感じる痛みを感じない。
知能が低いとか、怒り状態にならないとか、耐性や防御力が低いとか戦う上でのメリットはあるものの、一般的には面倒な相手として認識されている。
「……よしっ!」
しかしトモナリはひっそりと喜んでいた。
「嬉しいのだ?」
鼻先がくっつきそうになりながらヒカリがトモナリの顔を覗き込む。
面倒だという言葉に同意していたのに、こっそり喜んでいるのが気になったのだ。
「攻略は面倒だけど……今回ここに来た目的がここなんだよ」
ヒソヒソと声を抑えてヒカリの疑問に答える。
トモナリが喜んでいるのは、このゲートが天照ギルドに来た目的であったからだった。
「ふむ……骨が欲しいのだ?」
「そっ、骨が欲しいんだ」
「うむむむ?」
ヒカリはチラリとトラスケルトンの骨を見る。
骨なんて何に使うのか疑問だ。
ヒカリの尻尾攻撃でも砕けてしまうので、武器や防具としても使えない。
綺麗に整えて飾ったらカッコいいかもしれないけど、トモナリがそんなことのために来ているのではないことはヒカリにも分かる。
「ここのボスの骨を使って……骨粉を作るのさ」
「こっぷん……なのだ?」
ヒカリは首を傾げる。
「ああ、骨を砕いて、植物を育てるときに土に混ぜたりするんだ。ちょっと前に世界樹のタネを手に入れただろ? できるだけデカく育てるために良い肥料が必要なんだよ」
トモナリは世界樹を開花させるつもりだった。
回帰前に、世界樹のために何が必要かと色々と議論が起きた。
やはり世界樹も植物であり、肥料があれば成長の助けになるだろうという意見は多かった。
そして遅れながらも世界樹に肥料が投入されたりして、効果は多少あったのだ。
だが世界樹が大きくなる前から肥料があった方が良かったという声はもちろん大きく、中でも効果があったとみられるモンスターの骨で作った骨粉がいいのではと言われていたのである。
今回のゲートにはそれにふさわしい骨がある。
トモナリが手に入れようとしているのはその骨だった。
トモナリの研修中にゲートが現れるか、そして連れていってもらえるか不安だったが、上手くタイミングが合ってくれた。
「これが喜ばずにいられるかよ〜」
「ふにむになのだ〜」
あまりに上手くいって、機嫌が良くなったトモナリはヒカリの頬を揉む。
ヒカリも揉まれて嬉しそうにしている。




