派閥争い1
「先輩〜私がいなくてもちゃんとご飯食べてくださいね!」
「ふふ、大丈夫だよ」
「グルルルなのだ……」
一年生がついてくれる期間は短い。
忙しくしているうちにあっという間に時間は過ぎていき、ウルマのサポート期間は終わりを迎えた。
若干苦手だなと思っていたウルマも一緒に過ごしてみると慣れてきた。
基本的には悪い子じゃない。
ただトモナリに対して距離が近く、ぶりっ子っぽい態度を取っているだけだと分かった。
周りのことを見ているしちゃんと気を遣える子でもある。
頭も良くて、本質を見れば好ましい子である。
ただヒカリとは犬猿の仲っぽい。
今もヒカリはトモナリの頭の後ろからしがみついて、ウルマを警戒するように目を細めて小さくうなっている。
「色々助かったよ。そっちも頑張れよ」
「へへ、どういたしまして」
神切も渡すことができたし、ウルマのことも知れて仲良くなれた。
ウルマをサポートに選んだ目的はしっかりと達成できた。
「ウルマこそちゃんと帰れるか?」
「先輩、私は子供じゃないですよ!」
「そうだな。しばらく部活には顔出せないけど、他の奴らもトレーニングサボらないように目を光らせておいてくれよ」
「わっかりました!」
ウルマは小さく敬礼する。
「じゃあ先輩! 頑張ってくださいね!」
ウルマは笑顔で手を振ってホテルを出ていく。
「いないといないで……寂しくなりそうだな」
「せーせいするのだぁ〜」
せ、で少し伸ばしたような先輩という呼び方にもなんとなく慣れてしまった。
ヒカリはツーンとしているが、慣れてしまうと少しの寂しさもあるのは不思議なものである。
「研修もこれから本格的に動き出すし……頑張るか」
ーーーーー
「高レベル部の佐藤輝義だ。よろしく。今回君の教育係を担当させてもらうよ」
「アイゼントモナリです。よろしくお願いします」
「ヒカリなのだ!」
ゲートにはレベルが足りないから挑めないという場合もあれば、レベルが高過ぎて挑めないという場合もある。
基本的にはレベルを上げて強くなることが普通だが、低レベルの条件がつけられているゲートを攻略する必要が生じることもある。
呪いの魔道具でレベルを下げるという荒技もあるものの、無理にレベルを下げるデメリットは大きい。
天照ギルドでは低レベルゲート攻略のために、覚醒者も部門も高レベルと低レベルで分けられていた。
トモナリの今現在のレベルは50近くになっている。
アカデミーの学生としては突出して高い方ではあるが、およそレベルとしては半分ということで、高レベルと低レベルの間ぐらいになってしまう。
本来ならば低レベルの方で安全に経験を積ませてもらう予定だったのだが、トモナリは高レベルの方を希望をした。
希望が通る自信もなかったが、トモナリは高レベル部の方で経験を積ませてもらえることになった。
「母から君のことは聞いてるよ。気をかけてやってほしいともね」
テルヨシはクレアの息子である。
長く闘ってきたクレアが子をもうけたのは少し遅い時期となり、息子であるテルヨシは思っていたよりも若い。
「君がヒカリさんだね。……話に聞くより可愛いな。いや、ゴホン」
テルヨシはトモナリよりもヒカリのことを見ている。
ヒカリがファンサービスとばかりに笑顔で手を振ってやるとテルヨシは思わず口元を緩ませ、恥ずかしそうに咳払いする。
「ただ高レベルの方は戦闘も大変だから見学が主になってしまうけど……いいのかい?」
「ええ、大丈夫です」
テルヨシが教育係としてついてくれたのは運が良かった。
近い将来、テルヨシは死ぬ。
ゲートの攻略に失敗してしまうのだ。
そしてそれから天照ギルドの崩壊が始まるのだ。
テルヨシが次の世代のリーダーで、天照ギルドを率いていくはずだった。
そんなテルヨシがいなくなったために次のギルドマスターの座を争って天照ギルドは分裂したのである。
天照ギルドを研修先に選んだ理由の一つとして、テルヨシを助けて天照ギルドの分裂を防ぐことがあった。
「早速ゲートに向かおう。メンバーの紹介は道中に。インベントリの広さはどうだい? 荷物が入るなら……」
テルヨシは今の所人も良さそう。
あとは上手く信頼を得て、上手くゲートが出現して、上手くテルヨシを救うだけだ。
「……言うほど簡単じゃないよな」
ーーーーー
「お疲れ!」
「トモナリ、動きよかったぞ」
「ありがとうございます!」
「ヒカリちゃんも上手く戦えてたよ」
「うむ、当然なのだ!」
高レベルの攻略隊に混じって研修を受ける。
低レベルの攻略隊ならトモナリのレベルは高くて割と戦うことになるのだろうが、高レベルの攻略隊に混じるとトモナリのレベルは低いことになってしまう。
能力的にはもうちょっと上のレベルと遜色ないのだけど、能力を人に開示することもしないので基本はサポートとして動いていた。
周りの人は雰囲気も良くていい人も多い。
だけどみんなと仲良くなってきて、内部の様子が見えるようになってきたらそう単純でもないことも分かってきたのだった。




