天照ギルドで研修1
どの国にもトップのギルドというものは存在している。
国内で高ランクゲートが出現した時に真っ先に動くような、強力な覚醒者が率いるギルドは実際に攻略だけでなく、そのようなギルドがあるということで一般の人は安心する。
いわゆる正義の味方的なギルドである。
ヨーロッパのセイクリッズは犯罪者をメインにしているのでちょっと違うけれども、いるだけでも周りの安心させるような存在である点は似ている。
オウルグループなんかも色々とゲートの攻略をするし、近い人は安心を覚えるだろう。
ただやはり企業色は拭えない。
覚醒者としての正義感よりも企業の利益を優先している感じが出てしまう。
最終的な判断は企業が握っていて、利益にならないことは行わない。
そんな考えがあると安心しきれないところがあるのだ。
いざという時に利益よりも人命を優先してくれるギルドが、みんなの安心を高めてくれるのである。
実際にどうなのか、というところはともかくとして、日本ではそんな感じで戦ってくれそうと見られているギルドも多い。
日本のトップギルドはどこなのかという議論は時々巻き起こる。
直接戦うわけでもなく、基本的にはネット上で部外者が盛り上がってワイワイ言うような議論だけど、その中でいつも名前が上がるギルドがあった。
「天照ギルド……」
「でっかいビルなのだ」
「立派ですね」
あっという間に時間は流れ、トモナリも研修の時を迎えた。
たくさんあるギルドの中からどこにいくのかを選ぶのは大変だったものの、回帰前と違って選ぶ立場にあったことは少し楽しかった。
トモナリが最初に行くことに決めたのが、国内トップギルドの最有力候補である天照ギルドであった。
天照ギルドは都心部ど真ん中にギルドを構えている。
大きなビル丸々一つが天照ギルドの所有物であり、見上げるほどのビルに驚いてしまう。
ビルを見上げているのはトモナリとヒカリだけではない。
ウルマもトモナリの横で天照ギルドのビルを見上げていた。
研修の付き添いとしてウルマを指名して、受け入れてもらえた。
そのために研修の最初の方はウルマも一緒である。
「ちょっと緊張するな」
「私は先輩がいてくれるなら大丈夫です!」
天照ギルドは拡大を続けていて、三桁単位で覚醒者が在籍している。
アカデミーを卒業した後、天照ギルドに行く人も少なくない。
ウルマもいつも通りの態度に見えるが、笑顔がやや硬い。
流石のウルマも全く何も思わないというわけではなさそうだ。
「行くか」
いつまでもビルを見上げているわけにもいかない。
トモナリは軽く息を吐き出すと天照ギルドに入っていく。
ゲートの出現とモンスターの活動に時間は関係ない。
夜中だろうとモンスターは人を襲うし、昼だろうと夜だろうとゲートは現れるのだ。
小さいギルドだと対応していられないので夜間はお休み、連絡が取れないところもある。
しかし天照ギルドは二十四時間対応、夜間でも覚醒者を動員してくれる。
だから朝早めの時間に訪ねる形となったが、普通にビル内には人がいた。
「ご用件は何でしょうか」
「アカデミーから研修できましたアイゼントモナリと付き添いのウルマサクラコです」
「ヒカリなのだ!」
受付のお姉さんに用件を告げる。
「研修の方ですね。まずはエレベーターで七階に向かってください。こちら入館証になります」
ヒカリの分まで合わせて三つの入館証を受け取り首にかける。
セキュリティもちゃんとしていて、奥に入っていくには機械のゲートを通っていく必要がある。
入館証をかざして中に入り、奥にあるエレベーターで上に向かう。
「こうしてみると普通の企業みたいですね」
七階は事務オフィスとなっていた。
スーツの人が働いていて、デスクがあって、覚醒者感はあまりない。
普通の会社のようだとウルマはキョロキョロしている。
「ん? 君は……」
「研修で参りました、アイゼントモナリです」
トモナリに気づいた中年の男性がデスクから立ち上がる。
良いスーツを着ている。
男性の顔色も良くて職場環境や給料も良さそうだとトモナリは思った。
「ああ、研修の子か。もう何人か来る予定だけど、君が一番乗りだね」
当然ながら一つのギルドに一人ではギルドがいくらあっても足りない。
一つのギルドで複数の人を受け入れている。
トモナリ以外のアカデミー生も研修としてくる予定だった。
「アイゼントモナリ君……」
事務の男はパソコンを使って研修についてのことを確認する。
「あっ!」
「あ?」
急に驚いたような声を上げられて、トモナリはドキッとする。
何も悪いことをしていないのに、突然悪いことでてしまったかのように不安でドキドキする。
「ちょっと待っててね。えーとこちらにアカデミーからの研修でアイゼントモナリさんが来ています。確認したら……ええ、ああ、はい、分かりました」
事務の男が内線で電話をかける。
どこにかけたのかは知らないが、トモナリはドキドキしっぱなしである。
「入館証じゃなくて臨時のギルド員証を渡しておくよ。無くさないようにね。あとは十四階に向かってくれるかな?」
「分かりました」
一度どこかに行った男は首から下げるギルド員証を渡してくれた。
代わりに入館証を返して、たらい回しにされるように十四階に向かうことになった。
何であっと言ったのかは謎である。




