やるべきこと
「ステーキなステーキなのだぁ〜」
今一度先のことを考える。
授業、そしてトレーニングや部活動を終えたトモナリは遅めの夕食を取ろうとしていた。
学食に注文してステーキを宅配してもらった。
山盛りステーキを目の前にしてヒカリはご機嫌だ。
トモナリは食べながら、食事の時間を使ってこれからの計画を考える。
自分の分のステーキはカットしてもらっているので、あとは食べるだけ。
思考をまとめるためのノートとペンも置いてある。
「やるべきことは変わらない……」
99個の試練ゲートを攻略して、世界を救う。
これは最初から変わることのない目標である。
「そのためにも力をつけなきゃ……」
試練ゲートを攻略するのにはまだ力が足りない。
「そろそろレベル上げを中心に行なっていきたいな」
ここまではトレーニングを中心にして、レベルによらないステータス向上を目指してきた。
トレーニングだけではなく、実力ギリギリの戦いも乗り越えて想定よりもステータスが底上げされていた。
希少職業の人どころか、レベルが上の相手とも遜色ない能力値になっている。
ここからはトレーニングによる能力アップは難しくなる。
レベルが上がるほどに上がりにくく、また能力が上がるほどにも上がりにくくなる。
能力アップを目的としてトレーニングに勤しむのは効率が悪すぎるのだ。
ただ体を鍛える目的としてある程度は続けていく。
ここから能力値を上げていくといえばレベルアップが主になる。
霊薬という手段もあるが、それはイレギュラーなものであり、まず手に入らないので今後の計画には含めない。
「ただちょっと考えてるものはあるんだよな」
確実ではないものの、いくつか回帰前の記憶から霊薬のアテはある。
どれも記憶におぼろげにあるようなものだし、霊薬なんて奪い合いになるものなので確実な話など一つもない。
「ただ一つだけ上手くやれば……」
レベル上げをして、強くなって、試練ゲートを攻略する。
これは大前提の流れだ。
ただ他にもやろうと思っていることがある。
仲間集めや終末教への備えなどもあるが、それだけではない。
「世界樹のタネ……」
トモナリはインベントリからアイテムを一つ取り出した。
オートマタゲートで手に入れた世界樹のタネがトモナリの手のひらの上に現れる。
雫にも似た形をした大きなタネは、異世界において世界の中核をなす世界樹に成長する可能性を秘めている。
世界樹がうまく成長すれば、周辺は魔物が入ることのできないセーフゾーンになるのだ。
「世界樹の実が手に入れば……」
ついでに世界樹がその枝につける世界樹の実は霊薬なのである。
世界樹を育てて、世界樹の主となれば多くの人を守れるし霊薬も手に入る。
「母さんを守るためにも……」
これから戦いがより激しくなれば、覚醒者ギルドが守ってくれているというだけでは十分じゃなくなる時が来てしまう。
世界樹が守ってくれる方が安心だ。
「世界樹を発芽させよう」
早いうちからこうしたことにも取り組んでおくべきだ。
持てるカードは多い方がよく、いつでも使える状態にしておかねばならない。
トモナリは世界樹のタネをインベントリに戻す。
世界樹のタネを発芽させるための完全な知識はないけれど、実はいくつか覚えていることもある。
回帰前にも同じように世界樹は一応育てられたのだが、世界樹の規模や保護範囲は狭かった。
期待はずれ、などと言われていた。
ただ実は世界樹の育成失敗だったのではないかと考証されたりもしたのだ。
どうしたらよかったのか。
それを考えていた人たちもいるぐらいだ。
トモナリもいくつか考察なんかを見た記憶がある。
上手くいけば回帰前よりも世界樹を大きく育てられるかもしれない。
「楽そうじゃないけどな……」
発芽そのものも色々と苦労したらしいというものを見たのは覚えている。
用意しなければならないものには難しいものもある。
そこは頭の痛い問題だ。
「神切もどうするか……」
いまだに神切は異様な雰囲気を放ち続けている。
持ち主の女性覚醒者に渡してしまおうとは考えているのだけど、その人はまだ見つかっていない。
そこまで積極的に探してきたものではないが、そろそろちゃんと探してやろうとは思う。
「上手くいけば仲間になるかもしれないしな」
神切を使っていた覚醒者は強かった印象がある。
仲間にするまで行かなくとも、恩をうったり顔見知りになっておけば何か役にたつこともあるかもしれない。
「レベル上げて、世界樹育てて、人探して……終末教叩き潰して、試練ゲートを攻略する」
口に出していうと簡単に聞こえてしまうが、どれも簡単ではない。
「卒業まであと一年……」
卒業すると自由にはなる。
ただその分責任がのしかかってくる。
今はアカデミーに縛られている一方で周りの保護を受けつつ活動できるメリットがある。
トモナリは今のうちにやるべきことを考えようとペンを手に取った。
「トモナリ!」
「ん? なんだ?」
ヒカリが少し怒った顔でフォークにステーキを突き刺す。
「ステーキが冷めてげんなりしちゃうのだ!」
ずいっとフォークをトモナリの口元に差し出した。
食べながらと思っていたのにいつの間にか考えることに集中していた。
「あーんなのだ!」
「あーん」
せっかくのお肉が冷めてしまってはもったいない。
ヒカリに食べさせてもらって、先に食事を済ませてしまおうかとトモナリも改めてステーキを食べ始めたのだった。




