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神殺しの後日談  作者: 雑魚宮
第二章 授業開始
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蠢く物

 空間の中に足を踏み入れた僕が目にしたのは、広い高原。空気が薄いそこに合わせて、呼吸を整える。


「なんていうか―」


 懐かしい、雰囲気だ。中国には、幼い頃、師匠と黒と三人でよく行った。丁度、こんな感じの高い山に。

 うわ、龍も飛んでる。よく呼べたもんだ、正真正銘神獣までそこら辺にいるなんて。

 ふと、視線を下ろすと、混沌の群れ。

 その中にいた、混沌の幼体が近寄ってきた。顔を持たないそれに、幼い頃は不思議がったものだけど、そういうものと認識すれば、とてもかわいい。

 撫でていると、ふいと、そっぽを向いて行ってしまった。


「久しいな、虎の後継者よ」


 混沌が向かった先には、僕を見下ろす、巨人の姿があった。首より上はなく、腹に顔が存在する、つまり刑天。


「あなたは……お久しぶりです」


 僕を虎と呼んだということは、もしかしなくとも師匠の知己。数年前に会った彼のことを思い出し、久闊を叙する言葉を放つ。


「ああ。遅まきながら、悔やみ申し上げる。あれは先代すら及ばぬ、見事な武人であった」

「ありがとうございます」


 刑天といえば、武に通じる少数種。彼もその例に漏れず、少なからずその道に通じているのだろう、心底悲しそうな表情で言ってくれた。礼を言ってから、彼に尋ねる。


「どうしてここに?」

「化け物同士のつてよ。吸血鬼の大将直々の依頼でな、無下には出来ぬ。それに、獣を止めるのも、一部ではあるが貴様ら学生を止めるのも食いでがある。悪くはない」


 ああ、そう言えば、この学校の校長は古い吸血鬼だったっけ。曼荼羅さんと古い仲だって聞いたことがある。


「それはともあれ、貴殿に一つ問いたい。虎の名を戴けなかったと聞いたが、真か?」


 彼の問いに、少しだけ放つ言葉を迷う。それは、事実だ。事実だからこそ、認めるには躊躇したくなる。


「……ええ。ですが、黒ですからね。納得はしていますよ」


 それについては、だが。


「それにしては、牙が収められていないようだが」

「全く、不満や嫉妬がないと言えるほど、老いてはいませんからね」

「不遜だな、だが真っ当ではある」


 僕の発言に彼は豪快に笑った。


「さて、時間があるのなら、稽古でもしてやろう。随分と、怠っているようだからな」

「……願ってもありません、お願いします」


 その申し出に、僕は直ぐに頷いた。

 鈍った体は一日やそこらで叩き直せるものじゃないが、これ程の強者と拳を突き合わせれば、かなり良い影響を受けられるはずだ。昨日の二人の様に、特殊すぎるということもない。


「さあ、来い!」

「はぁ!」


 刑天の手招きとともに、僕は拳を突き出した。



「……」


 敬意の示し方って、言われてもな。俺はユニコーンの群れの中に立ったまま、思案から抜け出せなかった。

 俺にとって、魔獣とは外敵でしかなかった。嫌、正確に言えば、目の前の生き物は神話生物で、俺が殺していたのは、【魔】だったんだが。

 【魔】、人の噂とかネットでの創作から生まれた怪物。口裂け女とか、八尺様とかそういうのから、産業革命やドイツの総統が名を轟かせた時には人の期待と不安と不満から生まれた、人の形をして知性と知能を持つ、【人魔】が生まれた。

 最も、彼らは必ずしも悪と断じられるものではなく、必要によっては保護、あるいは共生関係を結ぶことも求められる。俺も少ないながらも、そんな仕事をした経験はあるが、生憎彼らには意思疎通を可能とするだけの知性があった。話せない奴は、大体駆除対象だ。

 その他にも、宇宙からの飛来物とか、そういうヤバいのにも対応してきた。だから、殺すのには自信があるんだけどな。ま、少なくともこの授業で役に立つ気はしない。


「わー!見てよ十字ちゃん!すりすりしてくれた!」

「おめでとう、ラグー。これで二人揃ってクリアだね」

「これで、良いのか?」

「私様にかかればちょろいもんだぜぃ」


 耳には次から次に、成功者の声が聞こえてくる。授業は始まって間もない。焦る、ってほどじゃないが、どうしたもんかな。


「近衛くん、どしたん全然動いとらんやん」

「逢坂さん」


 困っていると、同じクラスの女子が声を掛けてくれた。ギャルっぽい、明るい髪色の子、逢坂美玲さん。


「まあ、何ていうか、こういう生き物があんまり得意じゃないんだよ」


 どう答えるか悩んで、俺は絞り出すように答えた。殺すとか、流石にそんな剣呑な発言は出来ない。


「それはこの授業辛そうやね。せや!」


 何かを思いついたようで、彼女は朗らかな笑顔を湛えた。


「うちが応援したげるよぉ」


 おっとりした口調で言った彼女に苦笑した俺だったが、実際に彼女が応援の言葉を口にした瞬間、驚愕することになった。


「これは……」


 彼女の応援が、実際に自分の力になっているのが分かる。勇気とか、決断力が跳ね上がっているような、錯覚ではない、実際に力が備わった。


「言祝ぎ、言うてなぁ?言霊使いなんよ、うち」


 言霊、それほどメジャーではないが、歴史ある技術の一つのはずだ。今の逢坂さんのように他人に良い影響を及ぼしたり、時には呪いの類であったり。似た技術は日本だけでなく、世界各国に存在する。


「ありがとう、逢坂さん。助かったよ」

「気にせんといて。ま、借りと思ってくれるんなら、いつか、うちのことも助けてな?」


 出来る限り、柔らかく微笑んで、彼女に礼を言う。

 しかしまあ、彼女の応援は確かに俺の力になった。いつまでも、臆病でもいられない。まずは、目の前のことから、片付けていくか。俺は意を決して、ユニコーンに触れた。



「ふぅ……」


 シャワーで汗を流しながら、一息つく。流石に、あのレベルと真正面からぶつかるのは、かなり骨が折れる。が、久々に、心地いい疲れだ。


「よぉ」


 気持ちよくシャワーを浴び終えて着替え始めると、背後から声を掛けられた。振り向くと、見覚えのある顔。確か彼は、同じクラスの。


「加賀くん、だったっけ。君もシャワー?」

「いいや?心逆くん、あんたに用があってね」

「用?」


 にやにやと笑いながら言う彼に、訝しさを覚えつつも会話を続ける。


「俺の能力、どうやって避けたんだい」

「能力……?」

 全く心当たりがないその指摘に当惑する僕。


「おいおい、覚えてねえのかよ。昨日、クラスん中で避けたろうよ」

「そう言われても」


 呆れたように言った彼に首を振ると、マジかよ、と呟いて溜め息を吐いた。

 そう言えば、教室内で夢現を発動していたことを思い出す。別に彼の異能を避ける意図はなかったんだが。体質でちょくちょくその状態になってしまうだけで。


「思い出した、けど別に君のを避けた訳じゃないよ。単純に、僕がそういう性質ってだけ」

「俺の【吸収癖(ギルガルガ)】は、生憎生物が躱せるものじゃねえ、はずだったんだがなぁ」


 僕の返答を聞いて、嬉しそうに、くつくつと笑う加賀。


「連絡先、交換してくれよ。心逆くん、あんたに興味がある」

「いいよ。ほら、QR」


 僕は迷いなく頷いた。率直なのは、嫌いじゃない。それに、彼の異能も気になるしね。

 着替え終えて、スマホの画面を見せる。


「それじゃあ一緒に行こうぜぇ、心逆くん」


 自然に僕の肩に手を伸ばす彼に戸惑いつつも、受け入れて体育館に戻る。

 しかし、距離が近いな加賀くん……

気が向いたらブックマークを恵んでください。

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