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DA:-SEIN ~御伽奇譚~ 「魔石」  作者: 藤乃宮 雅之
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~鬼喰い~


 目の前にはまさに死屍累々たる光景が広がっている。

 ササメが凍結させたおかげで血や体液の匂いは無く、何かのオブジェが転がっているようだ。

 保昌はデジカメを取り出して撮影している。

「うわ~。落ち着いて見るとグロい・・・」

 香澄が眉をひそめて口元を覆った。

「ここでパニックにならない分、香澄は強いよ。」

「まあ、ライコウと一緒に居てこれが二度目だもん。なんか心構えが出来ちゃったよ。」

 香澄は白鳳の姿の頼光を見上げて微笑んだ。

「ま、待ちなっ!」

 入口の方から声がした。

 爪の刃を収めたアリアンナがツカツカと歩いて来た。

「あんた達、カナーン様を、私のマスターを倒したね。オトシマエはどうつけてくれるんだい?」

「そこから見てただろ? 君じゃムリだよ、帰んな。」

 保昌がしっしと手をやる。

「むっ。それじゃ、そこの天使っ。」

「え? 僕の事かい?」

 頼光がきょとんとして自分の胸を指す。

「そうだよ、(エク)天使(スシーア)だろ? こんな極東でも魔物狩をしてたとは知らなかったね。あんたなら話が通じそうだ。主を討たれた配下の処遇をどうするつもりだい?」

 アリアンナは口元をひん曲げて、不機嫌そうに腕を組んで白鳳を見上げた。

 だが、この赤毛の少女の足元が微妙に震えていて、必要以上に肩に力が入っているのが判った。

「別にどうもしない。処刑もしないし、召し抱えたりもしない。好きに身を処せば良い。これで良いかい?」

 アリアンナに驚愕の表情と共に体の力が抜けた。

「え、な・・・あんたタダで私を解放しようって言うのかい?・・・いや、ダメだ。そんなコトがお姉さま達に知られたらまた物笑いのタネにされる。私が実績を作り上げるまで・・・」

 アリアンナが熱弁を振るう中、白鳳は彼女を突き飛ばして、振り向きざまに大爪で宙を薙いだ。

「きゃっ?」

 尻もちを突いて見上げると、カナーンが壁に立て掛けてあったステッキが砕かれて宙を舞っていた。

 切断されたステッキの柄から握りの部分が外れ、その金色のガーゴイルの彫り物が翼を広げて飛び付いて来た。

 それは牙と尖った尾を白鳳の首筋と右胸に突き立てた。

「ぐうっ!」

 白鳳は体の自由を奪われ両膝を突く。

「ライコウっ!」

 香澄が気丈にも、それを剥がそうと掴みかかるが、その手は磁力の反発を受けたように跳ね返された。

「ケケケ。そこの出来損ないのサキュバスの体を乗っ取って魔界へ帰ろうかと思っていたが、良い体が手に入った。今後はこの体を使わせてもらう。」

 金色のガーゴイルはくわっと口を開け、先に歯列の付いた長い舌を伸ばし、白鳳の後頭部を探る。

「頼くん!」

 保昌が水晶の砂礫を握り締める。

「おっと、こいつごと消し炭にする気かい?」

 その言葉に保昌の動きが止まる。

 妖魔は白鳳の延髄の上を探り当てそこに狙いを定める。

「ケケケ。待ってろよ。ここに居るヤツラ全員まとめて喰らってやるわ!」

「そんなっ、カナーン様っ?!」

 アリアンナが蒼白になって叫ぶ。

「ぐあっ!」

 白鳳の後頭部から鮮血が吹き出し、その体がビクンと硬直する。

「いやーっ! ライコウっ!」

 香澄が引き留めるササメを振り切って白鳳に駆け寄る。

 香澄は先ほどよりもさらに強い力で弾き飛ばされた。

「オオ・・・何という魔力だ。これは先ほどまでのボディーとは比べ物にならん・・・」

 金色のガーゴイルがニタリと笑みを浮かべる。

「・・・仕方ない。許せ、頼くん。」

 保昌がパッと砂礫を宙に撒いた。

「いんどらや ・・・」

 帝釈天真言を唱えようとした矢先、白鳳の胸の中央から放射状に血管模様が浮き出した。

 その模様が白鳳の皮下を踊り回り、胸骨周辺の皮膚を突き破って『何か』が飛び出した。


 それは赤黒く、時折ぼぅっと紫色に光る、烏賊(いか)の触腕のようなものだった。

 勢い良く飛び出した「それ」は首の辺りまで移動していた金色のガーゴイルをしゅるしゅると絡め取った。

「うわっ、な、なんだコレは・・・?」

 慌てる獲物をいたぶるように、この触腕は引き剥がしたガーゴイルをこね回している。

 ゆらりと白鳳が立ち上がった。

 目は虚ろで視点は定まっていない。

 白鳳は両腕の大爪を構えた。

 胸の皮膚を突き破った傷口からさらに触腕が飛び出し、その両腕を伝って大爪に絡み付く。

 大爪が赤黒い繊維に包まれ、さらに大ぶりで生物的なデザインの刃に姿を変えた。

 ガーゴイルを捕まえていた触腕が離れると同時に、白鳳がその凶悪な刃を振りかざす。

 ガーゴイルは甲高く叫んで、自分の周囲を光の球体で包む。

 白鳳の刃はその光の球体の壁を難なく打ち消すと、そのまま球体の中央のガーゴイルを貫いた。

 貫いた刃の表面が紫色に躍動し、その紫色の光が触腕を通じて白鳳の胸の傷の中へと吸い込まれて行く。

 紫色のパルス信号が収まると、貫かれていたガーゴイルは石膏のようになってそのままパラパラと崩れ落ちた。


 白鳳に巻き付いていた触腕がしゅるしゅると離れて傷口へと戻って行く。

 白鳳はそのまま崩れ落ちて、その姿を人間の頼光のものに戻した。

「ライコウっ、しっかりしてっ!」

 香澄が駆け寄って頼光を抱え起こす。

「・・・わ、私を、助けた・・・のか?」

 アリアンナがへたり込んだ格好のまま、ぼそりと呟いて視線を落とした。

「保昌サマ、今のはもしや・・・?」

「ああ、ウワサには聞いていたがおそらく『鬼喰い』・・・」


 突如、部屋の奥からパチパチと拍手が響いた。

「ブラボー、ブラボー。いやぁ、期待以上のものを見せてもらった。タダでこうして紅茶をいただいていてすまないね。」

 全員がその方を見る。

 パチンと指の鳴る音と共にピンスポットが灯り、椅子に腰掛けて脚を組んで座る、シルクハットの青年を浮かび上がらせた。

 傍らのテーブルにボーンチャイナのティーカップとポット、シルクハットにはゴーグルが輝いている。

「か、鴨川童子?」

「やあ、禎茂くん。君とも久しぶりだね。え~と今年で5年になるかな? 殺生石の件は落ち着いたかい?」

「生憎だが例の妖狐が賢くてね。それよりいつから覗き見してたんだ?」

 ちゃらりと九節鞭で床を掃く。

「聞こえが悪いな。暖かく君達を見守っていたんだよ。この程度の妖魔で倒されるようなら、僕の見る目が曇っていたという事だ。」

 香澄の腕の中で頼光が目を開けた。

「う・・・か、香澄?」

「ああ、良かったぁ。ライコウっ。」

 香澄は感極まって頼光を抱きしめる。

「お、白鳳も気が付いたみたいだ。それじゃ、ちょっと彼に話がある。」

 鴨川童子はすっくと椅子から立ち上がると悠々とした足取りでこちらに近づいて来る。

 ササメがキッと睨みつける。

「よせ、ササメ。」

「や、保昌サマ・・・」

 保昌はササメに左手をかざして制止する。

 鴨川童子はすれ違いざまチラリとササメを見てニヤリと笑った。

 口元からチラリと牙が覗いた。

「やあ、白鳳、いや、今の姿は頼光くん、だね。いちゃいちゃしてるとこ済まんね。」

 香澄はすぐ真上で聞こえる声に驚いて体を起こした。

「か、鴨川童子・・・今、例の指輪を持っていないから襲いに来たかい?」

 少しかすれた声で上体を起こした頼光は、腰を屈めて見下ろしている彼を見上げた。

「それならとっくに襲い掛かってるさ。まさか君が『鬼喰い』を使いこなしてたとは知らなかったよ。例の神父の所から姿を消したんで、どこに行ったのかと探していたんだ。」

 鴨川童子がすっと頼光の胸板の上に指を滑らせる。

「ん? 何のことだ?」

「ほう? 自覚無しか・・・ま、それも良かろう。しかし、君はまだ修行が足らんね。一戦終わった後に気を抜き過ぎだ。なまじっかスポーツ武術に慣れているから、実戦での連続した事態に対応する力が鈍いね。だからこんな小物相手に痛い目を見るんだ。」

 鴨川童子がピンと頼光の額を弾く。

「痛っ!」

 デコピンされた額を押さえて頼光が立ち上がった。

 ガーゴイルに付けられた傷も『鬼喰い』に破られた胸の傷も塞がって、少量の血の跡がこびり付いている。

「ときに質問なんだが、君の『白鳳』に妙な箇所が有るとは思わないかい?」

 鴨川童子がシルクハットのブリムをピンと弾いて視線を投げる。

「『白鳳』自体が天狗の変異種と聞いた。特にスタンダードが有る訳じゃないだろ?」

 頼光は少し警戒して半身の姿勢を執る。

 鴨川童子がふっと笑って腕を組んだ。

「じゃあ、なんで『天狗』に『鬼の角』があるんだい?」

 鴨川童子はトントンと自分のシルクハットをつついて見せた。

「!」

 頼光は思わず額に手を当てる。

「考えてもみなかったって顔だな。面白いからこの話の続きはまた今度にしよう。それじゃあ、少しは腕を磨いておくんだぞ。」

 鴨川童子はぴょんとバックステップを踏むと、金色の歯車のつむじ風を纏ってそのまま姿を消した。



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