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DA:-SEIN ~御伽奇譚~ 「魔石」  作者: 藤乃宮 雅之
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~カラー・ダイヤモンド~


 全員が少しの間固まった。

 そして、その余韻を振り払うように保昌が口を開いた。

「よし、それじゃ、捜索再開だ。良いかい?」

 全員が短く頷く。

 頼光の後ろからおずおずと香澄が声を掛けた。

「あ、あのね、ライコウ。これ体に纏って。」

 香澄は自分のトレーニングウエアの上着を脱いで頼光に渡した。

「え? ササメさんの能力で部屋の中、冷蔵庫だよ。香澄着てなよ。」

「いや、そうじゃなくて。()()なライコウ、目のやり場に困るのっ!」

 渡された上着をエプロンみたいに(くく)り付けると、頼光と香澄は籐製のパーテーションの方へと二人の後を追った。

 

 大ぶりなパーテーションの後ろには、簡易なキッチンシステムとロココ調のテーブルセット、そして壁面にぴったりと据え付けてある真っ黒なチェストが見て取れた。

「ここで客人をもてなす為の支度(したく)をするのさ。いろいろな嗜好の客人が来るからね。準備も一苦労なんだよ。」

 頼光と香澄の後ろから少女の声がした。

「なんだ、まだ居たのか?」

 保昌がちらりと目をやった。

「な、なんだとはなんだっ。あんたは私のマスターじゃないんだ。指図(さしず)はやめておくれっ。」

「はいはい。」

 威勢良く怒鳴り返すアリアンナに、保昌は頭を掻いて肩をすくめた。

「そう言えば、ここは君が管理しているそうだね。説明お願い出来るかい?」

 頼光がアリアンナに視線を送る。

「うん。やっぱり天使さまは話が分かるね。」

 赤毛の少女は嬉しそうに頼光を見つめ、香澄はちょっと眉をひそめた。

「魔族も大抵が酒好きでね。部屋の壁にしつらえてある酒棚にはそれぞれの好みのボトルがストックしてある。それを山清水や鉱石で割って『土』『水』『金』のエネルギーバランスを調合して提供するのさ。私の配合(カクテル)は評判が良いんだ。」

 自慢げにアリアンナは胸を張る。

「この真っ黒のチェストは何だい?」

 保昌がチェストを覗き込む。

 高さ約150センチ、横幅180センチ、奥行き50センチのこのチェストはパーテーションに対面する格好で壁に密着して置いてある。

 その漆黒の地に金色で魔法陣がびっしりと彫り込まれて、それぞれの魔法円の中心にはガーネットのような赤い石が象嵌されている。

「今、私は天使さまと話してるんだ。口を挟むな。」

「そういう事を言うんじゃない。禎茂さんは僕の友人の一人だ。ちゃんと受け答えしてくれ。」

 頼光がアリアンナの顔を真正面から見据えた。

「う・・・天使さまがそう言うんなら。」

 アリアンナはバツ悪そうに視線を落とす。

「そうそう。もともと可愛いらしい顔してるんだから。変に突っかからないほうがかわいいよ。」

 頼光はぽふっとアリアンナの頭を撫でた。

「・・・か、かわいい? わたしが・・・?」

 アリアンナは目をぱちくりさせて頼光を見つめ、視線を足元に落として赤くなった。

「~~~。そのっ、それは、魂石シーレン・ユーヴェルと、魔道アイテムの保管庫、です。」

 ちょっとたどたどしくアリアンナが答える。

 さっきまでの威勢が嘘のように両手を前でもじもじさせている。

 香澄は頼光の足を踏み付けた。

「痛てっ。」

「あ、ごめーん。暗くて見えなかったー。」

 棒読みで謝罪した香澄が保昌のほうに歩いて行き、ササメは口元を袖で隠して吹き出した。

 頼光もそのチェストの近くへ行く。

 四段で構成されたそのチェストは、一番上の段が5個の小さな引き出しになっている。

 二段目から四段目は細長い一枚ものの引き出しで、和服を収納するものにイメージが近い。


 引き出しの取っ手の近くに金線の魔法陣とガーネットの象嵌が輝き、手を掛けると何か起きそうな感じがする。

「これ、触っても大丈夫なヤツかい?」

 頼光がアリアンナの方を振り向くと、アリアンナはびくっと視線を泳がせて答えた。

「ふえっ、あ、あの。天使さまと氷の妖精さんは触らないほうが良いです。魔力に反応して罠が発動する仕掛けです。」

 手を伸ばそうとしていたササメが慌ててその手を引っ込めた。

「あ、その『天使さま』はよしてくれないか? 僕は天界の者じゃあ無いし。」

「じゃあ、何とお呼びすれば?」

「主従関係じゃないんだから、『皆本頼光』の名前で良いよ。」

「う・・・ん、善処してみます・・・」


 アリアンナの助言により、最も魔力に縁遠い香澄が小さな引き出しの取っ手に手を掛けた。

 カタリと木材の擦れる音がして、すっとそれが引き出される。

 保昌がライトでその中を照らす。

 引き出しの中は純白の薄手のシルクのクッションが敷かれていて、その上には1.5センチ大の水晶のように透明なトリオンカットの石が数十個、無造作に置かれていた。

「これが、妖魔が言っていた『殻』のダイヤモンドか。ササメ撮影を頼む。」

 デジカメを渡されたササメがフラッシュを光らせる。

 続いてその隣の引き出しに手を掛ける。

 シルククッションにカット平面を上にして並べられた10粒の青い石がライトを受けて輝いた。

 大きさは先ほどの透明なものと変わらないが、光を受けて海面のように煌めいている。

「・・・これがブルー・ダイヤの出処という訳か。」

 隣の引き出しを開けると同じように並べられた「赤い」石が8個、その隣には「淡いピンク色」の石5個。その隣には「青紫色」の石が3個、同じようにシルククッションの上に並べられている。

 ササメは次々に撮影して行く。

「このカラーストーンが妖魔のご馳走って訳だ。なあ、君・・・アリアンナ。この石は必要かい?」

 横目で頼光を見ていたアリアンナは名前を呼ばれてビクッとなって保昌に目を向けた。

「あっ、ああ・・・と、その質問を言い換えるなら、目の前にナイスバディな女の子を出されて『この娘、抱いて行かなくて良いのか』って聞かれるようなものだよ。」

「そうか、それはつらいな。」

 保昌は腕組して短く唸った。

「保昌サマっ!」

 ササメが目を剥いて睨みつける。

「僕は胸の小さいほうが良いな。」

「天狗さんもっ!」

 ササメがその位置から振り返って指差す。

『あ、好感度アップ。』

 香澄とアリアンナが口を揃え、お互いの顔と胸元を見合わせた。

「ほれっ! おめさがそげんことゆーすけ、あねさらがあたけるっ!」

 ササメが女子二人をチラリと見て頼光にまくしたてた。


「まあ、結論から言えば、あんた達はカナーン様を倒した。勝利者は征服した者の財産の所有権を主張できるキマリがあるんだ。異議申し立て制度はあるが、今回は申し立てる側がいない。そういうことだよ。」

 アリアンナはひょいと肩をすくめた。

「禎茂さん、どうするつもりなんです?」

「妖魔との商談中に『魂魄分離症』患者の話を出しただろ? その患者にこの魂を戻したら、昏睡から覚めるはずなんだ。」

「でも保昌サマ。警察もこの事件を追っていますよ? どう説明するおつもりです?」

 ササメがカメラを下げて保昌を見上げる。

「これを正直に引き渡した所で、結局は持ち主不明で競売にかけられるのがオチさ。それにまだ開けてはいないが、ここに収められている魔術アイテムも知識が無ければ使えるものでもないし、素人が変に触ると暴発の恐れもある。」

「と、言うと・・・?」

「アイテムは伊勢に渡し、カラー・ストーンはこちらで処理する。『殻』のダイヤとこのチェスト、そしてこの地下室を警察に引き渡す。こんなプランだ。」

「ま、あんた達がそれで良いんなら私は構わないさ。」

 アリアンナは両手を頭の後ろに組んで、短く息をついた。

「あ、でも。そうなるとアリアンナ。人間にずかずか入って来られちゃ、管理も何も出来ないよ?」

 頼光は赤毛の少女に顔を向ける。

「私のこと心配してくれるんだ? 優しいなぁ。カナーン様が倒された時点で仰せつかっていた命令はチャラ。それにこんな状態じゃあ、もう取引中継所としては誰も利用しないよ。」

 言葉とはうらはらに、少し寂しそうに微笑んだ。

「君は今後どうするんだい?」

「天使さまが『好きに身を処せば良い』との仰せなのでそうさせてもらいます。お気になさらず。」

 アリアンナはウインクして嬉しそうに笑い、香澄は不機嫌そうに口を歪めた。

「では、アイテムも撮影し終えたら、カラー・ストーンを回収して車へ戻ろう。そこから伊勢へ、報告と回収依頼を入れたい。」



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