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DA:-SEIN ~御伽奇譚~ 「魔石」  作者: 藤乃宮 雅之
24/49

~喫茶店トーク~


注文を取りに来たウエイトレスにもう一つコーラを追加して本題に入った。

「これが例の分です。先に謝っておきます。これ、気になって勝手にパックを開けちゃったんです。すみません。」

「ああ。良いのよ、気にしないで。正直言うと私もコレ、どうしようか悩んでいたの。でも先日行き先が決まってね。こっちも一安心。何だか肩の荷が下りたって気分。」

 結菜は微笑んでテーブルの上に出された黄色いリラックマの巾着を手に取って中を(あらた)めた。

「うん。確かに受け取りました。お礼と言っては何だけど、ここの払いはお姉さんがおごるから。」

「え、そんな。悪いですよ。」

 加奈がふるふると両手を振る。

「良いのよ。年上がそう言ってるんだから、花を持たせなさい。」

 結菜がにっこり微笑む。

「だからその分、ちょっとお話ししましょ?」

「はい。ではご馳走になります。」

 美幸と香澄もにっこり笑って頭を下げる。

 加奈はお礼が書かれたスマートフォンの画面を掲げた。

「あ、お二人とも、(ろう)のお友達?」

 結菜がくりくりした目を大きく見開いた。

「いえ、そんなカッコの良いコトじゃないんです。」

 加奈が苦笑いして首を振る。

『すみません、ちょっと私的な理由で、ここで声を出せないんです。』

『お手数ですが、会話はこのチャット画面で。』

 香澄と美幸は申し訳なさそうにぺこぺこと頭を下げた。

「八嶋さんは教育大学の何年生ですか?」

「二年生。来月で二十歳(はたち)なのよ。みんなからしたらオバさんかしら。」

「とんでもない。オトナの女性って感じでステキです。」

「ありがと。ところで沢井さん、背が高いのね。」

 結菜は座高ですら目の高さの違う加奈を見上げた。

「えっと、183センチぐらいです。」

「いいわね。それだけあったらモデルさんみたいでステキね。」

『うん。加奈ちゃんカッコイイですよね。』

 美幸と香澄が頷く。

「アタシは、なんかこの背の高さもコンプレックスだな。大抵の男子、身長気にして一線引いてる感じがするし。」

「そんなの気にしなくて良いわよ。身長よりも、ちゃんと沢井さん自身を見てくれる人、居るでしょ?」

 結菜が首を傾げて加奈を見る。

 その言葉に加奈の頬が赤くなった。

『え、その反応って? そんなひと居るんだ。』

『誰、だれ?』

 美幸と香澄が喰い付いてチャットする。

 加奈はスマートフォン画面を手で覆った。

「え、と。八嶋さんはカレとかいるんです?」

 加奈は不満そうに口を尖らせる正面の二人を無視して結菜に話しかけた。

「うん・・・『居た』って言うか。先月、死んじゃって。」

「あ、済みません。無神経に聞いちゃって。」

「良いのよ。実はこの石もカレがくれたものなの。」

「あ、それじゃ、それはカレシさんの形見なんですね。」

 加奈はしんみりと視線を落とした。

「そんな大層なものじゃないわ。この石の出処も何だか怪しいし、盗品じゃないかなんて思うの。」

「盗品っ?」

 大きな声を出した加奈に周りの視線が集まる。

 加奈はバツ悪そうにちょっと頭を下げた。

「あれ? 何か聞き覚えのある声がすると思ったら、八嶋さん?」

 前のBOX席から頼光が立ち上がって、ソファーの背もたれ越しに顔を覗かせた。

「あら、皆本くん。こんにちは。ここにいらしたんですか? あの時と服装が全然違うんで気が付かなかったわ。」

 香澄と美幸はすぐ後ろから覗く頼光に焦って、慌ててサングラスを装着した。

「八嶋さん、知ってるんですか?」

「ええ、探偵さんと一緒に神社を訪ねた時、作業着の皆本くんと一緒にお話ししたの。あ、皆本くん、こちら沢井加奈さん。私の例の石を預かってくれてた人なの。」

「ああ。沢井さんって、香澄が言ってた西崎高校の。はじめまして、皆本頼光です。香澄がいろいろとお世話になってるそうで。」

 頼光がにこにこと笑って頭を下げる。

「いや、お世話になってるのはこっちの方で。香澄ちゃんなら・・・」

 香澄と美幸は唇に指を押し当てたり、胸の前でバツ印を作ったりして慌てている。

「・・・良いお友達付き合いさせてもらってます。」

「うん。僕からもよろしくお願いしますね。香澄ああ見えて結構寂しがりなんで、気に掛けてあげてやってください。」

 唇に指を押し当てた格好の香澄は、ぽっと頬を赤くした。

 駅構内側の入り口から来客を知らせる電子音が鳴った。

 すらりとした金髪の女性が店内に入り、頼光の方に向かって足早に近づいて来た。

「HI! Long time no see. Yorimitsu!」

40代ぐらいの白人女性は大きく叫んで頼光にハグをした。

 整った面立ちに大きく彫りの深い碧眼の目元が嬉しそうに緩んでいだ。

 軽くウエーブのかかったブロンドヘアがふわりと揺れて、ラベンダーの香りがほのかに漂う。

 ペールブルーのシャネル風スーツの彼女は自分より小柄な頼光を力いっぱい抱きすくめ、頼光は思わず仰け反る。

「Wow! Long time no see too, Charlotte. As usual, you are beautiful today. How are you?」

 頼光はハグを返す。

 加奈のBOX席の面々は目を丸くした。

「It is good. I'm glad to see you again.」

 嬉しそうに答えるこの白人女性を、頼光は自分の正面の席にエスコートした。

 頼光はペコリと結菜と加奈にお辞儀をして話の中断を謝った。


 少し遅れて、肩口で切り揃えたストレートの金髪碧眼の美少女が頼光の傍に立った。

 Vネックのニットブラウスに細身のカモフラージュ柄のスキニーパンツ、毛足の長いショート丈のカーディガンを羽織った彼女は少しはにかんで肩をすくめた。

足元のシンプルなアンクルブーツが軽やかな音を立てる。

「頼くん、こんにちは。ママがまた暴走しちゃってゴメンね。」

 ちょっと首を傾けると金色の髪がさらりと揺れ、Vネックの胸元からはEカップの谷間が覗いた。

「ううん。シャーロットさんも相変わらずってことが判って嬉しいよ。麗奈さんも今日はお母さんに付いて回ってたの?」

「私はホテルで。一緒に居ても私に出来る事、無いから。」

「Hey! Why don't you sit down? The Young lady is in trouble behind you.」

 席の隣で立ち話をしている頼光と麗奈に、シャーロットは注文を取りあぐねているウエイトレスさんの様子を促した。


『皆本くんて英語喋れるんだ。』

 美幸が香澄の方を向いてチャットを打ち込んだ。

『麗奈さんのお母さんシャーロットさん。英会話教室の先生やってたんだ。』

 香澄のチャットがスマートフォン画面に走る。

『それで教えてもらってたんだね。』

『教えたのは主に麗奈さん。シャーロットさんて、』

ここまで打ち込んだ時、頼光の席の方から外国訛りの強い日本語が聞こえて来た。

「ヨリミツの奉納ダンス、すっごくキレイでしたよ。ワタシすっごく、かんじマシタ。」

「『感動しました』よね。ママ。」

「ハイです。ワタシ、そんなヨリミツ見て、びしょ濡れデス。」

「『涙が出ました』。よ。」


『日本語、使い方がズレてるの。』

 香澄の席のみんなは引きつった笑いを浮かべた。

「その英会話教室、大丈夫だったの?」

 加奈が不安そうに香澄を見る。

『結構好評だったそうだよ。シャーロットさん美人だし。』

「えっと、話が途中になっちゃったね。何だっけ?」

 結菜が加奈を見る。

「あ、そんなに引っ張る内容でも無いですよ。お亡くなりになったカレシさん・・・」

「ああ、そうだった。一年の夏あたりから付き合い始めたんだけどね。その時最初にカレの仲間と一緒に遊びに行った先が『ユ~チューブ』投稿動画の撮影なの。信じられる? そんな初デート。」

「ははは・・・結構マイペースな人なんですね。」

『失礼ですけど、よく付き合えましたよね。』

『どんな動画なんですか?』

「皆本くんには不評だったけど。」

 美幸のチャットに結菜は自分のスマートフォンを引っ張り出した。


 「ユ~チューブ」にアクセスして音量を抑えて動画を再生する。

『・・・・・・・・我ら、ハンサム団! <シャキーーーーーン!>』

「・・・ほう。」

『・・・』

「・・・皆本くんと同じ反応ね。何か、ごめんなさい。」

 動画は進んで夜の山道を行くシーン。

 県道を進み、緩いカーブの中、右手に「鬼びっくりまんじゅう」の看板が過ぎる。

「あ、これ高梁(たかはし)方面へ行ったんですね。」

『加奈ちゃん、知ってる所?』

「うん。このまま進むと結構な山の上に上がって行くんだよ。この先の3番目の脇道をずっと奥に進むと地元で有名な心霊スポットがあるんだ。」

「良く知ってるわね。和眞くん、心霊スポットのトンネルで撮影するって言ってたの。沢井さんはあの辺詳しいの?」

 結菜が加奈を見上げる。

「おばあちゃんの家があの辺りに有って。アタシ、小学校の頃はおばあちゃん家で暮らしてたから。」

「あ、ゴメン。聞いちゃ悪かったことかしら。」

「良いですよ。母子家庭だけどそんなに悲壮感、感じた事ありませんから。」

 にっこり笑う加奈の表情はちょっと寂しそうに見えた。

『加奈ちゃんもそのトンネル行ったことあるの?』

「あはは・・・アタシはパス。なんかさ。そういう所って、面白半分に行くトコじゃないじゃん。」

 ちょっと目を泳がせて加奈はコーラのストローを咥えた。

 動画に天井からのモルタル落下シーンが映った。モルタルの砕ける音と、ハンサム団メンバーの叫び声、奇妙な青黒い影が映し出された。

「ふああっ。」

 加奈が妙な声を上げて体を仰け反らせた。

「・・・あ、ご、ごめん。ちょっとさ、不意を突かれてびっくりしちゃった。はは・・」

 バツ悪そうに加奈は頭を掻いた。

 結菜がそぉっと両手を加奈の後ろに回し、両の二の腕をぱっと掴んだ。

「きゃあぁぁぁんっ!」

 鼻にかかった可愛らしい声で加奈が叫び、体がソファーに、ばいんと弾む。

 香澄と美幸は笑い声が漏れた口を押えて下を向いた。

「あはは。ごめんなさい。ひょっとして、沢井さん、すっごい怖がり屋さん?」

「も、もうっ! そういうのは反則っ!」

 自分の醜態に顔を赤くした加奈は、正面でひくひくしている二人を指差した。

「そこっ、笑いすぎっ。」

『だって、意外すぎて。 加奈ちゃんてかわいいんだ。』

『どっちかって言うとさ、加奈ちゃんがみんなを守るってイメージだったから。』

「わ、悪うござんした~。」

 加奈はちょっと拗ねたように窓の方に視線を向けた。


 香澄の後ろの頼光の席から話し声が聞こえて来た。

「シャーロットさんの用事は順調に行ってるんですか?」

「ん? 幼児がドコに行くのデスカ?」

「あ~・・・Is your project going well?」

 頼光がそこそこ綺麗な発音で聞いた。

「OH! My Lawsuit? ・・・It doesn't go smoothly.」

綺麗な発音の英語と、Sighと外国人風のため息が聞こえた。

「マッタク。あのオトコ、Agreementの時にお不動サン隠して見せてなかったの。長いコト、ワタシに ぶっかけておいて、ヤリ逃げスルナンテひどいと思ワナイデスカ?」

「かなり隠していたんですか?」

 語気強く語り始めるシャーロットに頼光は静かに聞いた。

「YES! 二つもapartmentを。自分の母親とシテるの。ワタシそうとは気ヅカナカッタわ。分かってビックリよ。それにリコン前にも、浮気相手のヘヤーをカッてイってたみたいなのよ。」

「それは驚きですね。」

「だから、ワタシ、ニホンの弁護士さん交えて、3人でヤッてるの。あのオトコが何かぐちゃぐちゃシテ、ベツモノとか出しても、今回はヤめてあげないんだから。もう、ワタシ、しっかりシボリ取ってヤルんだから。」

 ちょっと興奮気味にまくしたてた後、グラスの氷のカランという音がした。

「ママ。頼くんだいたい英語解るから、ムリして日本語使わなくても良いのに。」

 麗奈の落ち着いた声がする。

「でも、せっかくニホンに来たから。コトバ使うのことゼンギしたいデス。」

「『善処(ぜんしょ)』ね。」


『言ってるコトはだいたい判るけど』

『コメント困るわね。』

 ちょっと顔を赤くした香澄と美幸がチャット会話をする。

 顔を赤らめた加奈と結菜も、困った顔をしたまま飲み物を飲んだ。

「お、お二人は高校の同級生?」

 結菜は気分を変えようと香澄と美幸に話題を振った。

『はい。加奈ちゃんとは別の高校ですけど。』

『私たちは明芳です。』

 加奈のスマートフォン画面に二人のチャット文面が表示される。

「そうなの? 頭良いのね。県立五校と並ぶトコじゃない。」

『いや~。美幸ちゃんはそうかもだけど、私はそんなには。』

『そうなの?』

『だって、修実高校、落ちちゃったもん。』

「あ、私、修実。」

 加奈が自分を指差す。

「修実落ちて、明芳受かったの? ある意味すごいわね。」

『いや、ホントたまたまですよ。』

 照れた香澄はひらひらと手を振り、隣で美幸は真顔で香澄の横顔を見つめた。

(皆本くんと一緒の学校に行きたい一心だったのね)


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