表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DA:-SEIN ~御伽奇譚~ 「魔石」  作者: 藤乃宮 雅之
22/49

~観察計画~


午後6時半。使用延長の部活が終わって、加奈は電車に揺られていた。

(延長するとシャワー室が使えないからなぁ。帰ったらすぐ、お風呂入ろ。)

 車窓から流れる街並みを眺めながらそんな事を考えて、加奈はスマートフォンを引っ張り出した。

「あ、着信があった。」

加奈はイヤホンを差し込んで留守録を確認する。

『もしもし。私、玄磐教育大学の八嶋結菜と言います。沢井加奈さんの携帯でよろしいですか? 先日の件でのご連絡ありがとうございます。ご都合の良い日をご連絡いただければ、こちらが合わせます。またご連絡ください。』

(ああ、お姉さん、通じたんだ。えっと。明日はバレー部が体育館を使う日で、ウチらはお休みだっけ。早いけど、明日で話をしてみようかな。)


 鴻池駅で乗り換えを待つ間に、加奈は結菜に連絡を取り、明日の午後4時に鴻池駅構内の喫茶店「パーク・コウノイケ」で合流することに決まった。

「よしっと。これで肩の荷が下りる。・・・あれ? 香澄ちゃんからLINEだ?」

 加奈は画面をタップする。

『すぐ後ろにいるよ。』

 加奈は驚いて後ろを振り向く。

 六番線のホームには電車待ちのOLさんや空き缶回収の清掃員さんが見えたが加奈の近くには誰の姿も見当たらない。

 再びLINEの着信音が鳴る。

 背筋に悪寒が走り、恐るおそる画面を見る。

『ゴメン、加奈ちゃん。宛先 間違えた。』

 ガクッと関西風のコケをやると加奈は文字キーをタップした。

『びっくりしたよ。メリーさんか何かかと思って焦った。((おび)えスタンプ)』

『ゴメンね。 今、鴻池ショッピング・モールで美幸ちゃんと買い物してたんだ。』

『美幸ちゃんに送るLINEだったんだ。アタシは今、部活帰りで鴻池駅にいるんだ。』

『ホント? おつかれさま。じゃ、あながち、さっきのはマチガイじゃなかったんだ?』

『いやいや。大分距離あるし。さっきのはコワイから。 こんな平日の夕方に買い物? 急な用事?』

 ちょっと間があってLINEが届く。

『ライコウが元カノさんと明日会うんだ。 美幸ちゃんに話したら一緒に観察しようって話になって、帽子や小物買ってた。』

(観察・・・監視だな・・・)

『そ、それは、たいへんだねぇ。 アタシはこの前、荷物取り込んじゃった教育大のお姉さんに、ようやく連絡ついて、明日の四時に鴻池駅構内の パーク・コウノイケって喫茶店で落ち合うことになったんだ。』

『加奈ちゃん、一緒していい?』

 速攻で帰って来たLINEに加奈は目を見開いた。

『え、アタシは構わないけど、お姉さんが何て言うか。』

『話通してみて。OKならライコウに噴水広場より喫茶店で話をするように持って行くから。』

 文面から必死さが伝わるので、無下にも出来ない気がした加奈は了承のLINEを送った。

『ありがと。加奈ちゃん大好き♪』



 翌日の火曜日。朝から頼光は上機嫌に、時おり鼻歌も奏でる傍ら、香澄は少し重い表情をしていた。

 つつがなく本日の授業も終わり、頼光はいそいそと帰り支度を始めた。

「ライコウ。待ち合わせまでだいぶ時間あるけど、一度帰るの?」

 おずおずと香澄がやって来た。

「ああ、制服のままじゃかえって目立つし。駅からウチはすぐ近いから着替えて行こうかと思う。」

「そっか・・・楽しみだね。」

「ああ。一年半ぶりだからね。それにシャーロットさんも来るって。」

「え? 麗奈さんのお母さん? またなんで?」

 香澄は、ちょっと緊張の取れた顔を向けた。

「ああ・・・プライベートなことだけど、香澄になら良いか。麗奈さんのご両親が離婚したろ? あの時の離婚協定に不備が発覚したんだって。で、シャーロットさんが直接怒鳴り込みに日本に来て。」

「うわあ・・・相当な修羅場じゃん。」

 香澄はちょっと仰け反った。

「で、息抜きに娘と久しぶりの日本を散策するそうな。」

「はは、なんだ。そんなに心配するコトじゃなかったんだ。」

 一日の緊張が吹き飛んだ香澄はいつもの笑顔に戻った。

「ん? シャーロットさんにしては大ごとだけどな。」

「あ、うんうん。そうだけどさ。いや、また、その、麗奈さんがこっちで生活するようになったとか、(ふく)(えん)・・・いや、なんだ・・・ア、アメリカで何か嫌なコトがあって日本に戻って来たとか、そんなんじゃ、ないんだ。」

 いろいろ取り繕いながら香澄が言葉を並べた。

「ああ、麗奈さん、カリフォルニアでも楽しくやってるって。香澄の事も気にしてたぞ。元気にしてるかって。」

「あは、それは嬉しいね。ちゃんと元気してるって伝えて。」

「そう言えば麗奈さん、香澄に『空港に行く前の日に話付けた』って言ってたけど何のこと?」

 きょとんとした頼光が香澄を見上げた。

「うわああ、そ、それは女の子の秘密っ。そ、それより着替えるんなら早く行かないとバス行っちゃうよ。」

 顔を赤らめた香澄はわたわたと頼光を急かした。

「あ、そうだな。それじゃ、香澄、お先に。」

 ひょいと手をかざすと頼光は小走りに教室を飛び出した。

 それを見届けた香澄はスマートフォンをカバンの中から引っ張り出した。

『ターゲット移動しました。』

 打ったLINEは速攻で返事が戻って来た。

『了解。校門のところで落ち合いましょう。』


 頼光が乗ったバスから一本遅らせた便に乗った香澄は鴻池駅バスステーション8番乗り場に降り立った。

 香澄に続いて降りてきた美幸はふうっと息をついた。

「話聞いてちょっと安心しちゃった。実を言うと、今日一日考え事してて調子悪かったの。」

「だね、こういう大事な部分は、ちゃんと教えてくれないとこっちが困るよ。」

 口では悪態を付きながらも、香澄はいつもの表情に戻っていた。

「せっかくだから加奈ちゃん交えてライコウ観察会しちゃおうよ。」

「じゃ、私たちもお着替えね。どこから入ったら、あのコインロッカー近かったっけ?」

「えっと、東口。こっち。」

二人は並んでバスステーションから駅に向かうレンガ敷きの広場を横切って行った。


 二人は大型のコインロッカーから紙袋を二つ取り出して、それぞれを持って女子トイレに入って行った。

 十数分後、香澄と美幸は中央改札近くの鏡張りの柱に大きな時計が取り付けてある、通称「時計台」の前で落ち合った。

 美幸は、ペールピンクとブラウンのチェック柄のハンチング帽に丸サングラス、黒のフレンチスリーブニットブラウス、7分丈のペールブラウンのワイドパンツにウッドテイストのサンダル。

長い髪の彼女は、まとめた髪を帽子の中に収めている。

 香澄は、アイボリーのキャスケットにブラウンのサングラス、グリーンハイネックの半袖ブラウスにアイボリーのショートパンツのサロペット、ブラウンのグラディエーターサンダルの格好で、お互いに手を挙げて挨拶して自身の姿を鏡でチェックした。


「今、並んで思ったんだけど。」

 美幸が丸メガネをちょっとずらして鏡の中の香澄を見る。

「うん?」

「二人そろってサングラスって不自然?」

「で、でも素顔をさらすのは不安だよ。マスクも追加したいぐらい。」

「それじゃ不審者だよ。」

 雑談をしながら6番線の改札口方向をチラチラとチェックする。

 しばらくすると、人混みの中から頭一つ分抜き出た紺ブレザー制服の、ウルフカットの女の子の姿が見えた。

「加奈ちゃ~ん。」

 改札を通ったこの女の子に、香澄と美幸は大きく手を振った

「や、久しぶり~。二人ともオシャレして。一瞬誰か判らなかったよ。」

 加奈は肩に掛けたボストンバックをひょいと担ぎ直した。

「大荷物なのね。」

 美幸が尋ねる。

「ああ、これはユニフォームとタオルと替えの服。朝練でも結構汗かくからね。びしょびしょのままじゃ、授業中気持ち悪いし。」

 加奈はちょっと肩をすくめた。

「ああ、分かる。シャワーで汗流せても下着とかはムリだもんね。」

 同じバスケの香澄はうんうんと頷いた。

 待ち合わせ時間までちょっと時間があるので、駅地下のブティックをウインドーショッピングしながら歩く。

「ショッピング・モールより対象年齢が高い商品が多いわね。」

「そうだね。やっぱり私たちぐらいの子は服買う為だけに外に出ないからね。みんなで一緒に楽しめるトコが無くちゃ行きづらいよね。」

 美幸と香澄が展示してある服を見ながら考察を述べる。

「香澄ちゃんと美幸ちゃんはオシャレに詳しいの?」

 一緒に歩いていた加奈が覗き込む。

「詳しいって程じゃないけど、そこそこには。」

「うん、私は動きやすいスポーティな感じが好き。美幸ちゃんはお嬢様チックな感じかな? この前はライコウに合わせてパンク風にしてたケド。」

「あ、あれはちょっと力入り過ぎちゃったかな。」

 恥ずかしそうに美幸がうつむく。

「加奈ちゃんはどんな服が好きなの?」

 香澄が隣の加奈を見上げる。

「実は、あんまり良く解らなくて。だいたいTシャツにジーンズな格好してる。」

「あ、かっこいい。」

「うん、ハンサムさんな感じ。」

 にこにこして見上げる二人とは対照的に、ちょっと表情を曇らせる加奈。

「どうしたの?」

「いや、なんか、やっぱりアタシの評価って、そんなのかな。女の子らしくない?」

「え? そんなことないよ。言うなら『ハンサムかわいい』だよ。ね。」

 香澄が美幸を見て、美幸は頷く。

「うん。『カッコ可愛い』とか。」

「その接頭語が気になる。」

 加奈はちょっと口を歪ませて腕を組んだ。

「じゃあさ、今度加奈ちゃんが時間取れる時に服屋さん巡りしてみない? ウチのガッコの佑理佑美姉妹交えて。」

「あ、イイわね。私も参加して良い?」

「ゆりゆみ・・・?」

「ウチの学校で読モやってる女の子たちなの。ちっちゃくて可愛い双子姉妹。ファッションにすごく詳しいんだ。」

「へぇ、そうなんだ。じゃ、お願いしてみようかな。」

「うん。佑理ちゃん、佑美ちゃんもきっと喜ぶよ。加奈ちゃん、土日はお休み?」

「土曜日は部活。休みは日曜日だけかな。」

「分かった。佑理ちゃん、佑美ちゃんの都合聞いてみるね。」

 待ち合わせ20分前になったので三人は目的地へと向かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ