1日目〜物語の進行と計画の進行と
フロントに聞くと、すぐに田奈浜家の別荘の場所は分かった。
先生の車でその場所に行くまで約十分。
その間に弥羅和の意識が戻る事は無かった。
別荘行きに同行した生徒は四人。高浜絵理、室井智恵子、苑崎夏見、吉岡冬見。
近くまで来てその広さに驚く。
金属製の高い柵が視界一杯に前を塞ぎ、道とぶつかる部分の両脇には石造りの柱が立っていて門になっていた。
その門は車が近づくと自然と内側に開き、車が完全に敷地内に入ると音も無く閉まった。
正面には大きなお屋敷が見え、それが近づくにつれ更に大きくなる。
「でっかいねー」
智恵子が感嘆する。
「本当に。流石□□□株式会社社長令嬢だね」
そう冬見が同意した時、車が止まった。
屋敷の入口近くに止まった車に、さっきから立っていた黒いスーツ姿の老人が近づく。
運転してきた各務先生が扉を開けて、外に出た。
「ようこそおいで下さいました。私、此処の執事をしております、東海林と申します」
「突然お邪魔して済みません。私は吹奏楽部顧問の各務と言います」
挨拶が終わり、先生が説明をする。
「田奈浜さんが階段から落ちたようで、呼吸はあるのですが意識がまだ戻っていないのです。救急車を呼ぶこともできないようなのでこちらにお邪魔した次第です」
「ならば、我が屋敷の医療担当者の所に連れて行きましょう。私が弥羅和御嬢様をお運び致します。お車はこのままで宜しいので、私に付いてきて下さいますか」
「分かりました」
そう言うと先生は車の中の四人に、外に出るように言った。
東海林は弥羅和を背中に抱き上げると、そのまま屋敷の中に入っていく。そしてそれに続く五人。
屋敷の中はとても広かった。
床は一面が白い大理石で出来ていて、天井からはシャンデリアが一つぶら下がっている。
その広いホールの奥には、幅の広い階段が一つ。その階段は奥の壁にぶつかる所で二手に分かれ、二階の廊下に繋がっている。
「お姉ちゃんっ!」
突然、左手にある扉が開いたと思うと、そこから弥羅和と瓜二つな、だけれども髪の毛が長い少女が東海林に駆け寄った。
「赤沙御嬢様、弥羅和御嬢様は意識を失っているだけでございます。これより医務室にお運びいたしますので、詳しい事はそちらで」
「わかりました。では皆様、私どもに付いてきてください」
東海林の声を聞いて落ち着いた赤沙は、先頭にたって歩き始めた。
七人は階段の右脇を通り、奥の扉の中に入る。
そこは横向きの廊下になっていて、そこを右に進む。
左右に複数ある扉のうち右側の手前から二つ目の部屋に入る。
中は清潔感溢れる白で統一されていて、ベッドが右手に三つある。左側には棚が沢山並べてあり、その中には薬や化学物質が所狭しと並べられていた。
中央には事務用の机が一つ扉に向かうように置いてあり、書類やファイルが乱雑に置かれている。
「いらっしゃい」
その机で作業をしていた女性が、東海林等を見て立ち上がりざまにそう言った。
「その子、かな。頭を打った、って言われているのは。ちょっと真中のベッドに寝かしてくれないかな。診察しますので」
「はい。それでは西乃園医務長、よろしくお願いいたします」
東海林は弥羅和をベッドに寝かせると、簡単に事情を説明してから出て行った。
「皆はちょっと待っててね。軽く診察するから」
ベッドに近づいた西乃園は、脈を取ったり聴診器を胸に当てたりしていた。
それが終わると赤沙に近づきながらこう言った。
「まあ、命に別状は無いし、意識も明日の午後には回復するでしょ」
ホッとする五人。
「まあここに置いておくのもなんだから、弥羅和ちゃんは弥羅和ちゃんの部屋で寝ていてもらった方が、いいと思いますよ」
「分かりました。ありがとうございます、西乃園医務長」
そう言う赤沙に続いて、他の五人もそれぞれ感謝の言葉を言った。
ここで唯一の男子である夏見がベッドに近付き、弥羅和をお嬢様だっこした。
「僕が連れていくから、赤沙さんは案内をしてもらえるかな」
少し顔を赤くした夏見は赤沙に付いていき、弥羅和の部屋まで連れていく。
その後先生は生徒にすぐに戻るように言った。
そんな時に智恵子は、どこからか色紙を取り出して赤沙のサインをもらっていた。




