第四話 「同じ夢」
クロウの様子がおかしくなり始めたのは、その翌日だった。
ーーー
【クロウ:寝れてない】
【クロウ:頭痛い】
【クロウ:なんかずっとノイズ聞こえる】
朝。
透は布団の中でDiscord画面を眺めていた。
いつもなら軽口ばかり叩くクロウが、今日は妙に弱々しい。
【透:病院行ったらどうですか】
【クロウ:行った】
【クロウ:ストレスですねーって】
【クロウ:笑うわ】
透は返信を止める。
笑えなかった。
最近、“観測酔い”は確実に悪化している。
夢。
共有記憶。
認識混線。
そして。
赤い傘の少女。
今ではSNS中で目撃談が広がり始めていた。
《駅で見た》
《夢に出る》
《誰なのか思い出せそう》
まるで。
存在しないはずの人物が、現実へ滲み出している。
【クロウ:なぁ】
【クロウ:お前、本当に覚えてないのか】
【透:何を】
【クロウ:あの女】
透の指が止まる。
【クロウ:最近、夢の中で毎回お前といる】
【クロウ:雨降ってる】
【クロウ:お前、すげぇ苦しそうな顔してる】
「……」
透はスマホを見つめたまま固まる。
共有されている。
夢が。
記憶が。
自分の認識が。
ーーー
大学。
講義室。
今日は異様に静かだった。
皆、疲れている。
目の下の隈。
ぼんやりした顔。
スマホを見つめる視線。
最近は学生の間でも、
『同じ夢を見る』
という話題が半ば当たり前になっていた。
「真壁くん」
「あ……」
小野寺が隣へ座る。
だが。
彼女も顔色が悪かった。
「大丈夫ですか」
「それ、こっちの台詞」
小野寺は苦笑する。
「最近ちゃんと寝てる?」
「まぁ」
「私、なんかずっと変な夢見るんだよね」
透の呼吸が少し止まる。
「……どんなですか」
「知らない女の子」
「――っ」
「雨の日に立ってるの」
透は視線を逸らした。
心臓がうるさい。
「あと」
小野寺は少し困ったように笑う。
「真壁くんもいる」
「……」
「なんか、すごい苦しそうな顔してる」
透は何も言えなかった。
美咲の記憶が。
他人へ漏れている。
しかも。
断片的な夢じゃない。
感情ごと共有され始めている。
教室の空気が妙に重い。
その時。
後方の席で、突然誰かが叫んだ。
「うわっ!?」
教室がざわつく。
一人の男子学生が頭を押さえていた。
「やめろ……!」
顔面蒼白。
震えている。
『おい大丈夫か』
『救急車?』
男子学生は虚空を見ながら叫ぶ。
「見てる……!」
「ずっと見てる!!」
透の背筋が凍る。
その瞬間。
視界が揺れた。
「っ――!」
映像。
無数のスマホ画面。
SNS。
監視カメラ。
配信。
ニュース。
全部が“観測者”を見ている。
そして。
その視線が、さらに現実を固定していく。
『認識が共有される』
『観測は感染する』
『存在は拡散によって強化される』
「っ……!」
透は頭を押さえる。
痛い。
脳が焼ける。
その時。
教室の男子学生が、透を指差した。
「お前だ……!」
教室が静まり返る。
「お前が見せてる……!」
「……は?」
透は掠れた声を出す。
男子学生は涙を流しながら叫ぶ。
「毎日夢に出るんだよ!!」
「知らない女の記憶が頭に入ってくる!!」
「お前がいるんだよ!!」
教室中の視線が、透へ集まる。
ざわめき。
『え?』
『真壁?』
『どういうこと?』
透は立ち上がる。
「知りません」
反射的に敬語が出る。
「俺、関係ないです」
だが。
男子学生は狂ったように笑った。
「嘘つけ」
「観測者」
その瞬間。
教室の空気が凍った。
誰も喋らない。
スマホを向ける者。
怯える者。
興味本位の目。
透は理解する。
もう普通の大学生活には戻れない。
ーーー
その日の夜。
クロウから通話が来た。
珍しかった。
「……もしもし」
『お前さ』
クロウの声は掠れていた。
『最近、“現実感”あるか?』
「……何




