それから
邪神を討伐した女神サーリア様の噂は、あっという間に世界中に広まった。王都の記念式典で各国の代表が集まっていたし、神聖国の教皇に魔物が化けていたという大きな事件も重なり、話題性は抜群だった。
ちなみにアタシたちはと言えば、相変わらず庭先でのんびりと薬草茶をたしなみ、毎日楽しく過ごしていた。
そして開拓村も軌道に乗り、エルフとの関係も良好になったので、そろそろ別の場所に引っ越そうかと思いたった。
善は急げということで、さっさと恒例の棒倒しをして行き先を決めて、何故か前回よりも敷地面積の縦横が倍以上に増えていたが、そんなことは微塵も関係なく島はフワリと浮き上がり、現在空の上をゆっくりと移動中だ。
またメアリーと二人だけになったが別に寂しくはない。目には見えないが精霊たちも居るし、意思を持つ世界樹も植わっている。
邪神は骨と皮だけになって永遠に苦しみながらも一応生きているが、たとえ神様だろうと自我が破壊されて、世界を回す歯車に変わる日もそう遠い話ではない。
まあそれは置いておいて、今日も優雅にお茶を楽しみつつ、メアリーと談笑しているのだが、この金髪幼女は何年経っても全く成長していないなと感じた。
もちろん精神的に大人顔負けなのだが、肉体は全く育っていないのだ。彼女は分類的には人間のはずなので、いくら何でもこれはおかしい。
「まさかメアリー…」
「どうしたのー?」
神様というのは相当しつこい性格をしているようで、厳重な封印や体をバラバラにされても、長い年月をかけていつかは復活する。
アタシにも記憶と力が宿っているが、あくまでもほんの一欠片なので、目の前でニコニコ笑顔でお茶を飲んでいるメアリーが居なければ、使いこなすのは不可能だ。
そう、メアリーは力を操作できるのだ。光の飴玉をメアリーに与えて拒絶反応を克服し、女神の力を手に入れたので、もちろんその影響もある。
だがしかし、今思えば前々からおかしな点が多かった気がする。
「考えすぎると知恵熱出ちゃうよー?」
「うーん、そうなんだけどさ」
もしメアリーが新しい創生の女神の依り代として、最初からこの世に生を受けていたのなら、今日に至るまでの全ては偶然ではなく、必然だったのだろうか。
十歳とは思えない知恵や技術、光の飴玉が女神の目覚めの一助になり、容量は小さいが力を十全に使いこなせるようになった。
そして彼女の成長予想図が唯一神教の女神像にそっくりなのと、光の残滓がメアリーの体に吸い込まれていったのも、本物の創生の女神の元に戻ったということだ。
「私が生まれたのは必然だけど。サンドラとの出会いは偶然だよー」
「そっ…そっか」
やはり女神だった。そしてアタシの人生の歩みは神の采配ではないと伝えられ、ようやく気が楽になった。
「あー…じゃあ、…創生の女神様?」
「むうー! メアリーって呼んでくれないとヤダー!
とっくの昔に私はメアリーなんだからー!」
つまり古の創生の女神と今のメアリーは、生まれた時から混ざりあって今の彼女になっていたと。
力の目覚めはキッカケではあっても、記憶や力の引き出しが増えた程度なのだろう。
…なのでアタシへの甘え癖も変わらないと。
「じゃあ、メアリー」
「何ー?」
「これからもよろしく」
「こちらこそよろしくねー」
結局今までもこれからも何も変わらず、アタシとメアリーは一緒に歩んでいく。
創生の女神として覚醒した金髪幼女の母親役を続けるかどうかは悩んだが、本人からの強い希望でこれまで通りとなった。
何でも昔も今もずっと一人ぼっちで、同等の力を持つ存在は邪神以外に居なかったらしい。なので心を許せる友や、甘えらたり頼れる者に猛烈に飢えていると言う。
それはわかったが、だからと言って毎日人形のアタシを抱き枕にするのは、いい加減卒業して欲しい。
過去の記憶と合わせて精神が肉体に引きずられてるとしても、古の時代と合わせれば一体何歳になるやらだ。
ちなみに後で知ったことだ、アタシが村娘の頃に教会に立て籠もり、御神体として安置されていた女神の欠片に寄りかかった状態で、外から焼かれて命を落とした時に、魂レベルでくっついてしまったらしい。
限界集落にひっそりと建てられた教会が保有する欠片なので、実際に親指の爪ぐらいの大きさで、力も殆ど残っていなかった。
なので邪神はそういった欠片には目を向けずに捨て置いたのだが、そのおかげでアタシは魔人形の支配から抜け出せたのだから、世の中わからないものである。
それはともかくとして、これからも自分たちがのんびりまったりの逃亡生活を送るために、アタシはメアリーと一緒に創生の女神の真似事を続けて、世界各地を巡るのだった。




