命綱なしのバンジージャンプ
「方法がない訳ではない。コンロー山に辿り着く道はある」
仙人のじいさんの言葉に、俺はバッと頭を上げた。
「教えてくれ!いや、教えて下さい!」
「この世界には七つの大陸に、それぞれ伝説の宝玉があるという。それらを全て集めれば、コンロー山への道が開けると言われておる」
「宝玉は……どこに?」
「それがわかったら、苦労はないのう」
宝玉……?
それがどんな大きさかなんてさっぱりわかんねえけど、大陸の中から見つけ出すわけ?
なんだよ、それ。
「見つかるわけないじゃん……」
どんな奇跡的な確率で見つかるんだよ。
それどんなドラゴ○ボール?
ドラゴ○レーダーもないのによ!
俺は肩を落としてガックリとうな垂れた。
「まあ、そう落ち込むでない。宝玉の場所はわからんが、宝玉には不思議な性質があっての」
「ドラゴ○レーダーがあるのか?!」
「なんじゃそれは。宝玉はな、力があり過ぎるために周りに影響を及ぼすのじゃ。それがどんな作用なのかはわからないが、必ず何かが起こる」
「何かってなんだよ。緑色の魔王が出てきたり、赤いリボンの軍団が出てきたりするのかよ。俺はサイ○人じゃねーんだぞ!そんなもんに勝てる訳ねーだろ!」
俺はしゃがみこんでメンチを切りつつ吐き捨てた。やってらんねえよチクショウ。
異世界に飛ばされたってのに尻尾も生えてきやがらねぇ。普通はなんかチートとかあるんじゃないの?!これじゃ月見たって猿にもなれねえよ!
いや、もしかしたら引っ張られてとれた可能性も……
自分の尻をゴソゴソ触ってみたが、尻尾が生えていた形跡はなかった。
チッ……
「お主の世界にはサイヤ人というのがいるのか」
「いねえよ!いや、いるよ!」
「どっちじゃ」
「俺の心の中にいるんだよ!」
ドラゴ○ボールは俺のバイブルだ。
誰だってガキの頃に、節分の豆食べて仙豆とか、おでこに指当ててテレポートとかしただろ?!
そう、こうやって……俺は額に指をつけて、ナメッ○星人をイメージした。現実逃避だな、はは……
「テレポート!なんちゃって…………うおああああああああああ」
テレポートと呟いた瞬間、俺は何もない空中から高速で落下していた。
「いやああああああああ!なんでえええええ!ここがナメッ○星なのーーーー?!」
いや、絶対に違う!
ナメッ○星舐めんな!
俺は悟○!俺は悟○!
「オラはサイ○人だあああああああ!」
飛びそうになる意識を無理やり繫ぎ止め、俺は下を確認した。
遥か下方にピンク色の桃園が見える。
ここは、じいさんの桃園の上空か!
なんでだ?!
テレポートしたせいなのか。
とうとう俺の内なる血が覚醒したのか?!
そう考えた時、俺の厨二病が再発……じゃない、覚醒した!
「よし!止まれ!」
オラがサイ○人なら、絶対に空を飛べるはずだ!
ふん!と全身に力をいれる。
だが落下は止まらない。むしろ早くなっている。
「重力加速度おおおおおおお!」
もうやめて!
本当に無理!
グングン近づいてくるピンク色の地面に、俺は死を覚悟し、目を瞑った。
オギャーとこの世に生まれ落ちてから十六年……彼女いない歴も十六年。趣味はゲームとマンガの引きこもり。思えばクソみたいな人生だった。
ありがとうママン、パパン……俺は清い体のまま天に召されます。
〜落合広樹のクソ人生、完〜
「じゃねえよおおおおおお!」
「キュー」
「へ?」
ガクン!と衝撃があり、再び目を開いた時、俺の落下は止まっていた。
尻のあたりが引っ張られている感触……
恐る恐るそちらを向くと、伸びきった俺のトランクスからハローしているケツ。
ハロー!俺のケツ。
そして、トランクスの端っこを元トカゲドラゴンが咥えていた。
「お、おお、元トカゲドラゴン、助けてくれたのか?ありがとう……」
命の恩人……恩ドラゴンだ。
俺は安堵のあまり涙と鼻水を垂れ流しながら元トカゲドラゴンにお礼をいった。
ドラゴンは嬉しそうに大口を開いて返事をした。
「キューーーー!」
「きゃー」
ドゴーン
支えを失った俺は、びろびろに伸びたトランクスとともに地面に落下した。