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tears  作者: hanon
序章 -漣-
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4/4

4話

「交換してもた…」

「おめでとう」

「あああ…家宝になりそう」

「おま、今かなりアホっぽい」


部活に行こうと教室から出ると、和祢が携帯を両手で掲げて瞳を輝かせていた。たかが好きな女子のメルアドを手に入れたことの何がそんなに嬉しいのか。はしゃぐのは分かるが、そこまで感動するほどのことでもない。


和祢を放置して歩き出す。

さすがにここまでの気持ちは共有できないから付き合っていられない。


「メール返ってくるやろか」

「知るか色ボケ」

「な、レン」

「はいはい」

「まだ人好きになったことないやろ」


苛立っていたのかもしれない。

理由をあげることは出来ないけれど、強いて言うなら、同じものを感じていたはずの和祢に取り残されたような気がして腹が立った。


「なかったらなんぞ?そんなもん、なるようにしかならんやろ」

「せやなあ」

「人好きになるんが偉いんけ」

「その物言いは卑屈すぎるな」

「わかったような口聞くな」


ついさっきまでは応援したいと思っていたのに。こんな嫌な言い方をしたいんじゃない。伝え方が間違っている。

それは分かるのに、和祢ののんびりとした口調と余裕のある態度が余計に癪に触る。


「喧嘩したいんとちゃうけえ」

「…両想いになるとええな」

「そういうのともちゃう……」

「ま、がんばれ。俺もがんばってくるけ」


こんなことは今までなかった。

和祢に苛ついたことはあっても一方的に苛立ちをぶつけることなんてなかった。何か言いたげに瞳を伏せた和祢から目を逸らし、漣は逃げるかのようにその場を後にした。




「あ、また見てる。なあなあ、石川く」

「今話しかけやんといて」


最低な気分だった。自分勝手にくだらない感情を一方的に和祢にぶつけてしまった。気兼ねなく心の内を晒せるのは和祢しかいないし、和祢にも漣しかいないことだろう。


それでもきっと、また和祢が口を開けば腹が立ちそうだ。想像するだけで苛立ちが沸き上がってくる。

どうしてしまったのか、自分でも理解が追い付かないし今は考えたくもない。


「あの子、モデルらしいで」

「"あゆち"やろ?ギャル雑誌の読モ!」

「浮いてるよな。なしてこの高校入ったんやろ…ちゅーか、いつもこっち見てるけ一回誘てみる?」

「えっ!?いややー!同じクラスやけどほんま怖いんやけ!」


頭を切り替えなければ。頭の中で繰り返し思いながら立ち上がると、女子たちがひそひそとグラウンドの端を見つめて話し合っていた。

女子たちの視線を辿っていくと、目がチカチカするようなコテコテのギャルが、あぐらをかきなが ら後ろ手を地面に着いてこちらを見つめていた。


ギャルが1年であるということ以外は全く知らないが、週に1、2度の割合で部活の練習風景を見つめていることは、陸上部に限らず他の運動部でも話題になっていた。

週に1、2度の頻度なのはモデルだったからなのか。それなら納得。


一体何を見ているのだろうかと、ふと気になる。興味本意で聞いてみたい気もするけれど、話しかける気はこれっぽっちもない。

スパイクに履き替えて立ち上がると、漣は両手を挙げて大きく伸びをした。気分を変えようと体を伸ばしてみても、先ほどの和祢の寂しげな顔を思い出し気分は最悪である。


一方的に感情をぶつけたことを謝るべきか、正直に突然沸いて出た苛立ちを告白するべきか。しかし、どちらもしなければいけないことではない。気持ちを打ち明けることで自分がなにをしたいのか、和祢の機嫌でも取りたいのだろうか。


そうだとしたら自分はなんて小さな人間なのだろうか。大きい人間というのも判りかねるが。

少なくとも、どちらを選んだとしても、和祢に対して自分らしい選択は出来なくなるのだろう。


自分や和祢に嘘をつくことはしたくない。誰に対してだって嘘をついてきたことはないつもりだった。そんなことをするくらいなら、最初から付き合わない。こんな漣の性格から、嫌われることや怖がられることがたまにあったが漣には和祢という理解者がいたから誰になんと思われようと気にすることはなかった。


「お願いします」

「は~い」


心が落ち着かない時、無心で走っていると心が落ち着いた。人はこれを現実逃避と言うのだろう。

漣にはそれがベストのように思えた。結果として数字に反映されるし、見たくない現実に引き戻そうとする邪魔者や心を許した者でさえ、走っている間は誰一人として止める者はいない。顧問の罵声はたまに入ってくるが。


この時間は完全に一人のものだと思えた。勉強にも恋愛にも遊びにも興味のない漣の生きがいと言っても過言ではないもの。

胸を張って心の底から好きだと言えること。それが、走ることだ。


「石川くん、いっぺん休んだほうがええんちゃうかな?」

「顔色悪いよ?」


記録を取っていた先輩たちに声をかけられ、手の甲で汗を拭った時にようやく気がついた。今日は汗がいつもより多い気がする。

言われて気づいた瞬間、視界が回りだし、漣はその場に座り込んだ。







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