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口寄せ巫女と泡の子  作者: 淡雪みさ
第四章 過去との決別

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プレゼント



 風の音が窓を撫で、障子の隙間からわずかに冷たい空気が忍び込む。

 美古はちゃぶ台の前に座り、黙って手を動かし続けていた。

 指先の感触だけを頼りに、毛糸を編み棒に絡ませる。目は見えなくとも、糸の流れ、編み目の形、張りの具合で、うまく作れるようになってきた。

 最近、美古は再び、よく編み物をするようになった。

 その時、チリン、と玄関の鈴の音がした。

 美古は顔を上げる。

 しばらくして、玄関のドアが開く音がして、冷気が廊下を伝って流れ込んできた。


「美古ちゃん、早く行かねぇと、間に合わねぇよ!」

「ごめんね、千夏ちゃんが時間間違えてたの!」


 急かすような千夏と翔子の声が響く。

 今日は、三人で市民体育館までバレーの試合を見に行く予定だ。


「……あっ、もうそんな時間?」


 美古は慌てて立ち上がる。

 杖を手探りで探しながら、傍に置いていた、出来上がったばかりのショルダーバッグを抱き上げた。


「……それ、何?」


 部屋に入ってきたらしい千夏が、訝しげに尋ねてくる。

 美古は微笑んで、両手でショルダーバッグを包み込むように持ちながら答えた。


「あの夏に渡しそびれたプレゼント」


 ゆっくりと歩き、仏間へ向かう。

 祖父の遺影の前までたどり着くと、美古は手の中のセーターをそっと畳んで置く。

 正一の穏やかな笑顔が、見えなくてもそこにあるような気がした。


「その遺影のおじいちゃん、あの先輩なんだよね?」

「うん」

「人って老けると顔変わるね」


 千夏がしみじみと呟くので、少し笑ってしまった。


「待たせてごめん。行こっか」


 美古は振り向き、千夏や翔子とともに玄関へ向かった。


「美古ちゃん、どご行ぐの?」


 足音に気付いたらしい祖母が問いかけてくる。

 祖母は退院し、今ではすっかり元気にやっている。しかし、口寄せはもうできなくなってしまったようで、毎年の観光客も今年は受け付けていないようだ。

 代わりに、学校に影響が出ない休日のみ、美古が彼らの相手をしている。


「千夏さんと、翔子さんと、バレー観に行く」

「ふうん。暗ぐなるの早ぇがら、気ぃつけでけろ」

「はーい」


 外に出ると、冷たい風が頬を撫でた。

 また冬が来る。

 でも、この冬は、去年と同じ冬じゃない。


 杖を突きながら、千夏や翔子の足音を頼りに歩き出す。

 美古の視界には、新しい光が降り注いでいた。





 【完結】



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