プレゼント
風の音が窓を撫で、障子の隙間からわずかに冷たい空気が忍び込む。
美古はちゃぶ台の前に座り、黙って手を動かし続けていた。
指先の感触だけを頼りに、毛糸を編み棒に絡ませる。目は見えなくとも、糸の流れ、編み目の形、張りの具合で、うまく作れるようになってきた。
最近、美古は再び、よく編み物をするようになった。
その時、チリン、と玄関の鈴の音がした。
美古は顔を上げる。
しばらくして、玄関のドアが開く音がして、冷気が廊下を伝って流れ込んできた。
「美古ちゃん、早く行かねぇと、間に合わねぇよ!」
「ごめんね、千夏ちゃんが時間間違えてたの!」
急かすような千夏と翔子の声が響く。
今日は、三人で市民体育館までバレーの試合を見に行く予定だ。
「……あっ、もうそんな時間?」
美古は慌てて立ち上がる。
杖を手探りで探しながら、傍に置いていた、出来上がったばかりのショルダーバッグを抱き上げた。
「……それ、何?」
部屋に入ってきたらしい千夏が、訝しげに尋ねてくる。
美古は微笑んで、両手でショルダーバッグを包み込むように持ちながら答えた。
「あの夏に渡しそびれたプレゼント」
ゆっくりと歩き、仏間へ向かう。
祖父の遺影の前までたどり着くと、美古は手の中のセーターをそっと畳んで置く。
正一の穏やかな笑顔が、見えなくてもそこにあるような気がした。
「その遺影のおじいちゃん、あの先輩なんだよね?」
「うん」
「人って老けると顔変わるね」
千夏がしみじみと呟くので、少し笑ってしまった。
「待たせてごめん。行こっか」
美古は振り向き、千夏や翔子とともに玄関へ向かった。
「美古ちゃん、どご行ぐの?」
足音に気付いたらしい祖母が問いかけてくる。
祖母は退院し、今ではすっかり元気にやっている。しかし、口寄せはもうできなくなってしまったようで、毎年の観光客も今年は受け付けていないようだ。
代わりに、学校に影響が出ない休日のみ、美古が彼らの相手をしている。
「千夏さんと、翔子さんと、バレー観に行く」
「ふうん。暗ぐなるの早ぇがら、気ぃつけでけろ」
「はーい」
外に出ると、冷たい風が頬を撫でた。
また冬が来る。
でも、この冬は、去年と同じ冬じゃない。
杖を突きながら、千夏や翔子の足音を頼りに歩き出す。
美古の視界には、新しい光が降り注いでいた。
【完結】




