第8話 「必要なピース」
「まだ魔力操作は鍛える必要があるだろうが、最低限の力は手に入れた。次は光魔法で回復できるまでやるか」
魔力操作で限界を超えた訓練をしたことで階段を何段も飛び越えて成長することが出来た。ということは、それと同じく身体が悲鳴をあげて限界を迎える方法を見つけて光魔法を鍛えれば、更なる成長ができるということだ。
「ただ、光魔法の鍛え方か......とりあえず脳がはち切れるまで魔法を工夫していくことから始めていくとしよう」
魔法はアーツとは違い、自分で想像して自由な形を作るものらしい。属性ごとに方向性は決められているが魔力量と魔力操作の精度、想像力さえあればどんな魔法も使えるようになるのだと脳に刻み込まれている。
魔力操作を先に習得した理由がこれだ。光魔法で回復を覚えてからやれば、あの熱さを軽減することで少し楽を出来たかもしれない。だけど、効率よく力を得るのであれば地獄の熱さを我慢することが最善の近道だった。
「まずは使ってみるか。最初は丸の光源を作るイメージ......」
手を開いてその上に光魔法を使う意識を持ちながら、球体をイメージする。最初は蒸気に隠れて微かに光る灯りくらいの光......村の魔蒸器具の周りで良く見た光景を思い描く。
「光魔法『微かな光』」
想像しやすいように決めたキーワードを唱えた俺の手には想像通りの光を放つ少し大きな光球が出来ていた。
「よし、やっぱり魔力操作の成果が出ているな。外部放出のアーツが使えるようになったことで応用すれば外に魔法を作る感覚もわかりやすい。次は......『微かな光』」
俺は空いていた左手を同じように開いて二つ目の光球を作り出す。
「なるほど、二つなら今の俺でも同時に発動できる、と。じゃあ一度消してから指の先を意識して『微かな光球』『微かな光球』『微かな光球』『微かな光球』『微かな光球』」
今度はイメージする光球の大きさを変えたものを指の先に表れるように意識しながら詠唱する。ひとつふたつと光球が指先に表れて、最後の5つ目の光球が親指の先に出現した際にこめかみに鋭い痛みが走った。
「いたっ......ここが限界か。じゃあ、まずは10個の光球の同時展開を目指そう」
限界がわかったということはスタートラインに辿り着いたと同義。
光球を増やそうとするたびに訪れる頭痛を無視しながら何度も魔法を試していく。途中、目から血が出てきたり暴発した光球が俺の身体を吹き飛ばしたりしたが関係無い。
ここは夢の中、俺が痛みに耐えて心を折らなければ死にはしないのだから。
錆びた鉄のような匂いが鼻腔をくすぐり、生暖かい血が身体を覆っていく。気持ち悪さも、痛みもどうでもいい。今俺がやるべきことは限界を超える、それだけだ。
声も出さずに、黙々と光球を作り続けていた俺の脳内にまた無機質な声が聞こえてくる。
『光魔法の習熟を確認。限界を超えたため、光魔法Ⅳと限界魔法を獲得しました』
「ステータス」
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【魔法】
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【得意】光魔法Ⅳ
魔法〈微かな光球〉
【種族】夢魔法Ⅰ
【特殊】限界魔法
└ 生命力を代償に実力以上の魔法を放つことができる
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魔法もⅣレベルまで上がったな。やはり、命にかかわるような修練は想像以上の効果があるようだな。そして、限界魔法という最高の魔法も手に入れることができた。
この魔法の本質は《《自殺が出来る》》ということだろう。殺した貴方は夢を魅るは自分を殺したことでも効果を発動する。ならば、限界魔法で生命力を枯渇させることで他者に殺される前に死ぬことができるというわけだ。
「これがあればどこぞの背信者に殺されることなく自死を選べるのか。シャーマ様に相応しくない死に方だけは避けられるな」
シャーマ様は優しい神だ。俺のような非力な存在へ手を差し伸べてくれる慈悲を持っている。
であれば、この世に蔓延る畜生のことをどう思っているのだろうか。
優しさを無下にし、自身の利益しか考えない豚どもが目に入るだけで不快でしか無い。
ならば、非道な行いをする畜生がのさばっていることをシャーマ様は憂いているはず。
そんな畜生はまさに背信者では無いか。
村長や俺を押し倒した母の親友などに殺されるのだけは我慢できなかったが、これからはその心配は無い。
「まだ俺も非力な存在、すぐにとはいかない。でも、いつか貴方たちにも夢を魅させてあげるから、待っていてね」
この想いは怒りなどではない。あの者たちに死という救済を与えることができるという優しさだ。
これまではそのきっかけさえも掴めなかったが、何度死んでもいいのなら必ず魂を狩ってやろう。そして死に際にシャーマ様の素晴らしさを伝える夢を魅せるのだ。
「そのためにも次のステップへ進もう。次は回復だ」
ただ、回復の限界か。今までは痛みを伴うことを基準としていたから回復でも同じように出来たら楽なんだけど。
「何かないかなぁ~自傷して回復は......試行回数は増やせるけどそれは普通に鍛えるのと変わらないし。あ、過剰回復っていうのもあるんだっけ」
村にいた薬師の婆さんから、回復も許容量を超えると肉体を破壊する毒になると聞いたことがある。理由はよく知らないが、筋肉が張り裂けたり血が出るらしい。
「じゃあ、血が出るまでやってみようか。今回の目標は回復を可能にしつつ発動速度も上げていこう」
俺は指の先にある光球を消し、光を身体に流して自然回復速度を上昇させるイメージを固める。紙で切った指が時間を待てばくっつくように、転んだ傷がかさぶたを作り皮膚に戻るように治るイメージを。
「光魔法『ライトヒーリング』」
森を駆け抜けて洞窟に潜り込んだときに出来た傷が徐々に塞がっていく。光の粒子が傷口に入り込み、粒同士がお互いを求めるように細い線となって繋がることで傷口を修復していった。
3秒ほどの時間をかけて傷口は完璧に塞がり、森に入る前の綺麗な身体に戻る。
「村に居たときに傷口を縫って塞いでもらった記憶が影響してそうだな。多分だけど医学書を読み込んで人体の構造を理解することが出来れば外傷以外も治せそうだ。ま、そんなものここにはないんだけど」
夢の中でも出来ないことはある。今は出来ることだけやればいい。
「よし、じゃあ連続でかけてみよう『ライトヒーリング』『ライトヒーリング』、『ライトヒーリング』......!?」
完全に回復した状態でも一回目ではとくに何も起こらない。だが、二回目では心臓の鼓動が速まり、全身が運動をした後のように熱くなる。追加で三回目をかけたときに全身の血管から血が溢れて、地面に血の池を作った。
全身に痛みが走り、貧血状態になって立つことが出来なくなる。不快な匂いを放つ血の池に身体を投げ出して地面に倒れ伏す。
出血した状態で身動きがとれなくなると森の中では死に直結する。ただここは夢の中、少し時間を空ければ元通りに回復する。
どうせ汚れるんだから血を掃除する気にもならない。
「――これは、単純に気持ち悪いな。痛みにはもう慣れたが、血が無くなって寒くなる感覚は不快感が凄まじい」
だが、それがこのやり方を止める理由にはならない。
回復させて血を失って倒れて、戻ってまた回復をかける。何度も倒れ、身体を血まみれにしてを繰り返しているともはやお馴染みの声が聞こえてきた。
『光魔法の習熟を確認。限界を超えて回復を行ったため光魔法Ⅴと特殊スキル即時回復を獲得しました』
【特殊】即時回復
└ 魔力がある限り即時に外傷を回復する
└ 光魔法の回復と併用すれば致命的な傷も回復できる
「完璧なスキルだ。ただ、魔法じゃなくて回復を繰り返したことによるスキルの獲得だったのは驚いたな」
ここまで来たらあとは夢から出るだけ。どれだけスキルを得たとしてもここから出られなきゃ何の意味も無い。
始めよう、俺の種族と向き合い脱出するときだ。
【作者からお願い】
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