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大鎌が魅せるは貴方の最期~畜生以下の存在には最期に夢を魅せましょう~  作者: いさな


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第1話 「安寧へ訪れる絶望」

 暖かな太陽の光と穏やかな風に吹かれて揺れる麦畑が健やかに育っていることを象徴するように黄金色の輝きを放っている。


 虫よけの魔導風鈴が音を鳴らして魔力を麦畑全体に広げていった。麦を食べようと近づいた虫が魔力を含んだ音に反応して青い空へ飛んでいく。


「あ~今日も平和だな。天気も良いし、麦も喜んでるみたいだ」


 俺は畑を囲う柵へ身体を預けながらのんびりと時が進むのを眺めていた。


 身体を覆う暖かな光に眠気を覚えてぼんやりしていると、頭の上から声が掛かる。


「おーい、ゼノヴェル!畑はもういいからこっちを手伝ってくれ。こんだけ平和でも見張りはしないといけないからな。高台に上って逆側を見張るのを頼むぞ」


「なんだよ親父、人が癒されてたっていうのに......はーい!今行く!」


 俺は頭を搔きながら親父が見張りをしている高台へと昇るために梯子はしごへ足をかけた。


「よいしょ......着いたよ。でも、ぐるっと見渡してもいつも通り、何も無い景色だよ。この村が国から遠い場所にあるから鉱魔獣が来ないか見なきゃいけないのもわかるけどさ」


「確かに俺もこの村が出来てから鉱魔獣の被害にあったなんて聞かないけどな。仕事なんだししゃーないだろ」


「まあね、親父がやるなら俺もしっかりやりますよ~」


 手すりに寄りかかりながら双眼鏡を構えて親父とは反対方向を眺めているが、遠くに森と山が見えるだけでいつもと変わらない平和な景色だ。


 この村は人も少ないし、農業で出来た作物を一か月に一回遠征をして売ることでなんとか生活出来ている。そんな細々と生きているような村だが、それでも平和なのが唯一の自慢だな。


 ◇◆◇◆


 空が夕焼け色に染まってくるほど時間が経った頃、森の手前に人影のようなものが一瞬だけ見えたような気がした。


「ん?親父、気のせいかもしれないけど森の方に人が居た気がする」


 親父の方を振り向いて感じた違和感を伝えるが、もう一度双眼鏡を覗いたときにはもうその姿は見えなかった。


「あー?そんな姿見えねえぞ。ゼノヴェルの勘違いじゃないのか」


「ちゃんと人が居たような気がしたんだけどなあ......見慣れた景色だし、見間違いじゃないと思うんだけど」


 俺が頭を傾げていると、突然ビリビリと空気が震えるほどの遠吠えが聞こえてくる。


「な、なに!?獣にしては大きい鳴き声だけど......」


「まずいぞゼノヴェル......これはただの獣の鳴き声じゃない鉱魔獣の鳴き声だ!しかも複数いるぞ!」


 これが鉱魔獣の鳴き声......遠吠えを聞いただけで足が竦んで動けなくなった。でも、なんでいきなり遠吠えなんてしてきたんだ。今まで一度も聞いたこと無かったぞ。


「ちっ......ゼノヴェルはこのままここにいろ!俺は他の村人に声を掛けてくる。もしかしたら鉱魔獣がこの村を襲ってくるかもしれんぞ!」


 そう言うと親父は梯子はしごから下に降りて行った。


 俺がまだ動けずに何とか手すりを掴んで倒れないように踏ん張っていると、村が騒がしくなっていった。


「おい、さっきの遠吠えが鉱魔獣のものだってのは本当か!」


「戦えるやつらは武器を構えておけ!」


「あなたたち、こっちに来なさい!」


 焦る大人たちの声がどんどんと大きくなるにつれて、家のなかに居た人も外に出てくる。


「どうなっちゃうんだろう......」


 俺は恐怖で泣きそうになりながら震える足を叩いて気を紛らわす。


「おい、ゼノヴェル!鳴き声がした方向に何か変化は無いか!?」


 親父の声にはっとした俺は「今見てみる!」と返して双眼鏡を覗きこんだ。


 森は静寂を保っており、変化がないことが逆に不気味さを感じさせた。


 違和感を覚えるが変化が無い景色にほっとした瞬間に木が何本も倒れて土埃が舞い上がる。


「親父!木が何本か倒れた!」


「なにぃ!鉱魔獣が出てきたりしないだろうな......」


 親父が何か呟いたが、この距離では聞こえない。


 俺はそのまま双眼鏡を構えて木が倒れた方向を見ていると、凄まじい勢いでこちらへと向かってくる何かが見えた。


 外見は鉱石が身体を至る所から生えており、蒸気のようなものを身体から出しているように見える四足歩行の狼のような獣だった。


 俺が見える限り5匹はいる獣が道に生えている木を薙ぎ払いながらこちらへ向かってきている。


「やばいやつがこっちに来ている!鉱石が生えてて、身体から蒸気が出てる狼みたいなのが5匹......!!」


「なんだと!?その見た目に近い鉱魔獣は......メタルスチームウルフか!それが五匹......まずい、このままだと何人か死ぬぞ!」


 親父を含めた何人かは俺の報告を聞いて村を囲む塀から外に出ていく。


 慌ただしく状況が動くなか、子供や年寄りといった戦う力の無い村人たちは家に籠るしかなかった。


 俺も他の村人と同じく高台から親父たちが戦う姿を見ていることしかできない。


 遂に鉱魔獣が村へと辿り着き、親父たちと戦闘を始める。


 始めはなんとか拮抗していたが、一人が爪で引き裂かれ血で大地を汚したことを皮切りに段々と傷が増えていく。


 一人が首に嚙みつかれたことを皮切りに、動揺した人が鉱魔獣の大きな体躯に突進されて地面に倒れたところで頭を踏み抜かれた。


 そことは違う場所では腕を喰われて血が噴き出している。何とか村人たちも一矢報いているが、それでも鉱魔獣は怯むことなく村人たちを殺そうと牙を剝く。


「なんだよこれ......鉱魔獣はこんな化け物なのかよ!」


 人が死に、その隙を突いて他の人が鉱魔獣に刃を立てるような絶望的な光景が俺の目の前に広がっていた。


「皆がどんどん死んでいく......このままじゃ親父も!」


 そう思った俺は何かに突き動かされるかのように高台を降りて村の外へと走る。


 村の中には人が誰も居らず、皆鉱魔獣という存在に怯えて息を潜めているだけだった。


 静寂に包まれた村を全速力で走り、親父たちが鉱魔獣と戦っている場所に辿り着く。


(俺が行ったところで何の意味も無いかもしれない。でも、俺は!)


 一抹の望みに賭けて村の外へと出ると、残っていたのは親父一人と傷だらけの鉱魔獣が一匹。


 ――俺はこの時のことをずっと後悔するのだろう。


「親父!」


「この声は、ゼノヴェル!?馬鹿野郎なんで来た!高台に居ろって言っただろうが!」


 俺が話しかけたことで親父が振り向いてしまった。


 緊迫した状況で獲物の視線が自分から逸れた一瞬の隙を、鉱魔獣は見逃さなかった。


 俺の目には追えない速度で親父に近づいた鉱魔獣は親父の肩に牙を立てて、噴き出した生暖かい血が俺の顔に降りかかる。


「がぁあああああ!くそが!」


「あ......」


「くそ鉱魔獣め!だが、最期の意地だ。噛みついたままだったら避けられないよなあ!?」


 親父は噛みつかれて血が噴き出している肩とは逆の手で武器を持ち直し、最後の鉱魔獣の眼を刺し貫いた。


「ぎゃおおお!!!」


「うおおおおお!!!」


 激痛に悶えるような声を出す鉱魔獣とそれでも手を緩めずに武器へ力を込める親父の声が暗くなった空に響き渡る。


 鉱魔獣に噛まれ、いつ死ぬかもわからない状況でも親父は手を緩めなかった。ゆっくりと刃が奥へと沈んでいき、鉱魔獣がビクッと震える。


 それを最期に声も無く絶命した鉱魔獣は肩から牙を離し、後ろに倒れ動かなくなった。


 だが、親父も何とか立っていたのだろう。親父はその場で膝をついて前に倒れるように大地へ身を預けた。


「親父!!」


 俺が親父へ近づいて身体を支えたときにはもうすでに死の淵にいるように見えた。既に目は虚ろで身体から伝わる熱がどんどん失われていく。


「馬鹿野郎が......なんで来たんだ」


「お、俺......このままじゃ親父が死んじゃうって思って......それで!」


「はっ!ゼノヴェルが来たところでなんも変わんねーよ。だが、死ぬ前にお前の声を聞けるのは幸福だったな」


 親父は最後の力を振り絞って俺の頭へ手を置いた。


「いいか......ゼノヴェル。これが親として伝えられる最期の言葉だ。......絶対に諦めて死のうとするな」


 もう喋るのも辛いはずの親父は乱れた呼吸で言葉を紡ぐ。


「あの世にいる母さんにも、そして俺にも後悔は無かったと笑顔で言える人生を送れ......わかっ、たな」


 親父はその言葉を残して目を閉じた。


 俺の頭に乗っていた手は支えを無くしたかのように滑り落ち、身体からは熱を全く感じることは出来なくなっていた。


「なあ、親父......なあ、なあってば!!」


 現実を受け止められない俺が何度親父の身体を揺さぶろうと返ってくるのは静寂と辺りに広がる血の匂いだけだった。

【作者からお願い】


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