第14話 「生き残るための狂行」
次の日から俺は今までの食事に加えて鉱魔獣を狩り、喰らうという生活に切り替えていった。
俺がいる森は鎮魂の森と呼ばれていた。恐ろしい場所だから近づくなとは教えられていたが、生活するなかで本当の理由が見えてきた。
俺は、死体を近くに置くと次の日には消えていることから魂が浄化されて身体を消すことから名付けられたと習った。
村に居る時にはその理由を疑問に思うことは無かったが、あれは鉱魔獣と動物たちが回収していたんだな。森の中を探索していると人骨が大量に埋められている穴を大量に見つけることがあったからな、そういうことなんだろう。
「というか、今更だが死者の遺体は捨てるように扱うのが普通なのか?......森を出ることが出来たら調べてみるか」
俺は生まれてから村でしか過ごしていないことで、知識や常識が偏っているからな。村長を含めた大人たちがあんな奴らだと知ってたら......いや、これは言ってもしょうがないな。
とにかく、この森にはすぐ死体が消えるほど鉱魔獣が多く生息している。夜に俺が魔力をわざと広範囲で放出していれば二、三匹は引っかかるのが常だ。
一か月で狩った鉱魔獣は5種類で舌が鉄のカエル、尻尾の鱗が岩の蛇、腕が銅のカカシ、目が琥珀の鳥に体毛が鉛で出来た羊。
これらの鉱魔獣の名前を討伐者は知っているのだろうが、俺には何となくの特徴しかわからない。
だが、こいつらの肉を食った俺の身体は着実に変質しており魔力も、特殊な身体能力も受け継ぐことが出来ている。
特に、鉄カエルの舌を得てからは味覚が消えて食えたもんじゃない味をしている鉱魔獣の肉を楽に摂取することが可能になった。
「どいつもこいつも本当に不味かった。もし、鉱魔獣を食って問題無かったとしても食用にはならなかっただろうな」
そんな鉱魔獣たちは全種類が異なる魔力を持っていることがステータスでわかっている。この一か月の狩りで変化したステータスはこれだ。
【得意】大鎌術Ⅴ
アーツ〈袈裟刈り・首刈り・地滑り・刃穿ち・鉱■獣吸魂〉
鉱■獣吸魂:鉱魔獣として対象の魔力と魂を大鎌で刈り取り、吸収する
【種族】魔力操作Ⅵ
アーツ〈肉体強化・外部放出・魔力形成・属性エンチャント・魔力粒子化・属性混合・鉱■獣発熱器官操作〉
鉱■獣発熱器官操作:自身の身体にある魔鉱石に魔力を流し、特殊な力を発揮する
【■■】ロー■ホーンウ■フの角 アイ■ンフロ■グの舌 ア■バーバー■の目 ■鉄のカ■シの腕 鉛■毛
【得意】光魔法Ⅶ
魔法〈微かな光球・ライトヒーリング・リフレッシュ・光線解体・フラッシュ・アンチポイズン〉
鉱魔獣に近づくにつれて、使える手段が増えていき狩りに困らなくなるのはいいのだが、人としての尊厳がすり減っていくのを感じる。
もし、思考まで鉱魔獣に近づいたとしても人を信じられないのは未だ変わらないからそこまで関係ないな。
「シャーマ様への信仰心は鉱魔獣を食った程度では無くなるはずがない。で、あればもっと多くの鉱魔獣を取り入れていくのは正解の道だ」
同じ種類の鉱魔獣を食っても生えてる部位の純度というか強度が上がっていく感覚もある。
人としての尊厳など捨て置け。今の俺に必要なのは、生き抜く力と相手に慈悲を与えるという心のみ。他を削ぎ落としてシャーマ様に再び会うのだ。
「狩りとは俺なりの慈悲の形。魂も魔力も全て俺の糧として与えた慈悲への報酬と」
次の目標は更なる強さを持った鉱魔獣を狩ること。具体的には親父のことを殺したあの鉱魔獣......メタルスチームウルフを狩る。
期限は、そうだな......俺が12歳になる日までだ。この森で生きるひとつの区切りとして親父の敵を取り、残りの一年を生き残ろう。
「見ていてください、シャーマ様!貴女の信徒であるゼノヴェルはここに宣言します!必ずメタルスチームウルフを狩り、己の力にすることを!」
シャーマ様への誓いを立てたことで、ほんの少し残っていた人の姿への未練も完璧に消し去った。
今の俺にあるのはシャーマ様への信仰心とメタルスチームウルフに慈悲の刃を与え、過去の俺に決別することのみ!
明日から未来のための狩りを始める。
◇◆◇◆
「のう、シューラ。ゼノヴェルが狂っているのじゃが、どうしたら良いと思う?」
妾はあの夜の言葉通りにゼノヴェルの様子を見守っておった。
ゼノヴェルは神の我から見ても特異なことが起こり過ぎてよくわからんくなっているうちに、遂には鉱魔獣を食べることで力を取り込み人の道から外れるまでに至ったのじゃ。
川の水を飲んだときに死んだと思ったのじゃが、一瞬妾との接続が切れたと思ったら何故か凄まじい力を得て回復しおった。
その後も、自らの心身を犠牲に新たな力を手に入れるその様はステータスさえも呆れて気狂いと称するほど。
少しずつ増える妾への信仰心も合わさって、ゼノヴェルが間違った道に進んでいるのかも妾にはわからんくなってしもうた。
そこでシューラに今のゼノヴェルを見てもらい、このままで良いのかを判断してもらおうと思い至ったのじゃ。
「ゼノヴェルというと......ああ、最近シャーマが力を与えた子供か。あの子は鉱魔獣が大量に生息する森に居たんだろう?であれば、常人なら狂っても仕方ないのではないか?」
「それはそうなんじゃが、シューラの思う方向性と違うというかなんというか......一度、妾と別れたあとのゼノヴェルの行動を見てみてくれぬかのう?」
わかっていなさそうなシューラを呼び止めて、ゼノヴェルを見てもらった。
最初は何処か気の毒そうに見ていたシューラも、疑問の表情に変わっていった。そして最終的には口角が引き攣っておったのじゃ。
「た、確かに、シャーマへの信仰心で狂っているな......今のゼノヴェルは試練を成し遂げることしか見えていないのだろう。いや、他にも見えているが捨て去ったの方が正確かな」
「今まで妾の力を渡した者たちは復讐や力への渇望で飢えているものばかりじゃった。ゆえに、妾への信仰心を持つものもおらず妾もそれで良いと思っておったのじゃ」
それゆえに、何故ゼノヴェルが妾に信仰心を抱いたのかもわからぬ。ただ、11歳のときに出会った少年の未来が狂い始めている。そんな不安が残っているのじゃ。
もちろん、神としては信仰してくれる者がいるのは嬉しいことじゃ。しかし、嬉しさとは別に胸の奥に重いものが沈んでいく感覚があるのじゃ。
「......シューラよ。我に出来ることはあるのかの?」
「どうした、いきなり」
「妾は悩んでいるのじゃ。このままゼノヴェルが狂っていくのを放置しても良いのかとな」
このままではゼノヴェルは人里では生きていけない身体になることだろう。本人の望んだ結果ではあるが、出来ることなら人並の生活を送っては欲しい。
これは完全に妾の我が儘ではあるのじゃがな。
「で、あれば褒美の内容を考えてやれば良いのではないかな?例えば、ゼノヴェルがどれだけの努力をして試練を乗り越えたかによって内容を増やすとかな」
「褒美の内容か......少し考えてみるかの」
シューラの言う通り、神である妾が出来ることはそれくらいしかないのじゃ。
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