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第5章-第14社 祟気の脅威

「確か、海希先輩と合流する前に悠が下に降りていく幽霊たちを見て、吸い寄せられるみたいって言ってたけど」

「まさかこいつが原因だったとはね……」


 3メートルもの巨大な幽霊を前にして詞貴と悠が呟く。


 巨大な幽霊は半透明で足がなく、周囲には蒼い火の玉が浮かんでいた。秋葉たちは警戒しつつ、いつでも迎撃できるように構える。


『この大きさは恐らくビル内にいる全ての祟魔が吸い取られてると思うっす』

 

 天音からの報告に一同、緊張が走る。


 祟気の量が尋常ではないことからこの地下空間にいる幽霊が吸収されていると思っていたが、まさか全部だとは。

 

 そう息を吞んでいると、手首をだらんとさせた幽霊が口を開けて咆哮し、強烈な祟気の風がみんなを襲う。


 祟気を受けないよう最前にいた詞貴が咄嗟に結界を貼るも、瞬時にヒビが入り破られてしまった。

 

「ちょっ! こんなん相手にできるん!?」

 

 容赦なく結界が破壊され、苦無を持った亜莉朱が声を上げる。

 

「とっくに試験の範疇は超えてるが、やるしかねぇだろ。天音、等級は?」

 

 眼前にいる幽霊を凝視した多田は抜刀しつつ、天音に尋ねる。

 

『準惨級っす。海希先輩と多田先輩がいる分、まだ祓えるとは思うんすけど、祟気の原因がどこにあるか分からない以上、等級が膨れ上がる可能性もあるんで気を付けてくださいっす』

「了解や。1年はくれぐれも無理するな。危険や思たら下がってええからな」

「はいっ!」


 秋葉たち1年の返事を聞いた海希は幽霊へ疾走し、刀身に纏った霧を飛ばす。放たれた霧の刃はまっすぐ幽霊へ飛んでいき、胴へ直撃する。


 しかし、幽霊の纏った祟気が傷口に入り込み、再生してしまった。

 

 秋葉と悠も援護しようと桜を纏った刀で斬撃を飛ばして、葉を纏った苦無を投擲するが、手で振り払われる。纏わせる祓力の量を上げて再度放つも、蒼炎に焼かれてあえなく消え去った。


「嘘っ!? 効いてないっ!」

 

 放った数本の苦無が幽霊の胴体を通過して壁に当たり、悠は目を見開く。

 

「いくら祓力で覆っても炎で燃やされるとなると、やっぱり初音の言う通り、格上の相手には通用しないみたいだな。それに物理攻撃が効かないんじゃ、祓力で乗り切るしかなさそうだ」

 

 今までこのビル内で祓ってきた祟魔は実体を持っていたが、あれは幽霊の祟気を吸収した祟気の集合体であるが故に実体を持たない。


 それ故に祓力を纏わない単なる苦無や刀での物理攻撃では効かないようだ。


 と、暴れ回る幽霊が口から蒼炎を放射し、秋葉と悠は跳んで後退する。その一方で詞貴が3枚の札を幽霊に向かって投げた。

 

「『水冷爆符(すいれいばくふ)』!」

 

 詞貴が言霊を唱えると放たれた札が光って水に変化し、幽霊へと降り注ぐ。


 だが、幽霊の放った蒼炎と衝突し、水蒸気となって散っていく。

 

「駄目だ、炎の威力が強すぎて効いてないっ!」

 

 そう言って詞貴は迫りくる炎から走って逃げる。


 最前で海希と多田が幽霊を引き付けてくれているが、一向に攻撃が通らない。


 どうするべきかと思案しながら、秋葉は祓力の斬撃で炎を斬る。

 

「ボクの祓式ならいけるかもっ!」

「あ、確かに!」


 美澪の言葉に悠が反応する。


 悠が同意したように彼女の祓式であれば、水弾を増幅させることができるから多少のダメージを与えられそうだ。

 

 そう考えている間にも、多田と海希が祓力と霧の刃で幽霊の腕を斬り落とし、天音のドローンから放たれた祓力の弾丸が目を貫く。


「美澪! 頼む!」


 多田から声をかけられた美澪は霊眼を起動させ、銃口を幽霊の祟核に向けて引き金を引く。


 発射された水の弾丸は高速で前線にいた海希と多田を通過。幽霊にヒットすると同時に、増幅した水が槍の穂先のように尖り、幽霊の祟核を貫いた。


 祟核を貫かれた幽霊から耳をつんざくほどの悲鳴が上がる。

 

「よっしゃ! いった!」


 攻撃が通り、美澪は拳を握りしめる。


(よし、これなら……)


 そう思った直後、頭を抱えて悲鳴を上げていた幽霊の周りに膨大な祟気が発生する。祟気は幽霊を覆うようしてに渦を巻き、やがて消滅した。


 霊眼で視てみると、美澪が貫いたはずの祟核が修復されている。


「ちょっと噓でしょ……」


 傷を負うどころかピンピンして更に強くなっている幽霊に悠を始めとした全員が慄く。


 幽霊がぐるっと回転すると、部屋全体に蒼炎が生じた。炎を躱すべくみんなは揃って後ろに下がる。

 

『っぁ……またっす……』


 秋葉の近くに滞空していたドローンのマイクから微かに声が聞こえてきた。秋葉は刀で炎を祓いつつ、天音へ念話を飛ばす。

 

『天音、どうした?』

『秋葉……もうこれ以上は……』

 

 そう話す天音の声は震えていた。


 秋葉はスチール棚にあった複数のケースへ祓力を回して放ち、飛んできた炎を相殺する。


『確かにあれを倒すのは無謀かもしれねぇ。けど、まだ誰も諦めてねぇよ。それどころかみんな祓おうと躍起になってる』


 秋葉は幽霊の方へ目を向けながら念話越しに天音へ語り掛ける。


 彼女の視線の先では、多田や海希、悠を始めとした全員が幽霊を祓うべく攻撃を続けていた。

 

「全員下がれ! 一旦あいつを結界で封じる」

「了解!」


 多田が振り向きざまに促せば、悠、美澪、詞貴、亜莉朱の4人は後退する。


 1年生が下がったのを見た多田は、先んじて幽霊の背後に回り込んでいた海希と頷き合うとそれぞれ封縛の印を組む。


 そして印を組んだ2人が同時にしゃがんで地面に手を叩きつける。


 すると、幽霊を囲うように地面から2人の祓力で生成された結界が現れ、幽霊の身動きを封じた。

 

「よし。これで少しの間は持つだろうが、問題はどうやって祓うかだな」


 立ち上がった多田が口にする。


 恐らく祟気の纏う量が増え、惨級並みに膨れ上がっている幽霊を祓うには、秋葉や悠、詞貴の祓式では心もとない。


 多田や海希でも大ダメージを叩き出せていない以上、厳しいだろう。


 美澪の水操作は効いていたが、強さが膨れ上がってきている状況では確実に効くかどうか不明だ。

 

「あ、そうだ。亜莉朱の祓式ならいけるんじゃない?」

「でも、うち祓式の制御が上手いことできひん間は使うなってお兄に言われとるしな……」

 

 考え込んでいた美澪が顔を上げて言うと、亜莉朱はすっと多田へ視線を向けながら話す。


 そういえばそうだったなと秋葉が思い出したのも束の間、その場にいたみんなから冷たい目で見られた多田は、気まずそうに呻き声を漏らす。

 

 と、事情を把握した海希が口を開く。

 

「もし仮に、亜莉朱の祓式が制御できるとしたらどうや?」

「え、そんなことできるんですか?」

 

 驚いたように悠が尋ねた直後、海希の言いたいことを察したのか多田がハッとした顔を浮かべた。

 

「……いや、できる」

「お兄……?」

 

 亜莉朱は怪訝そうな目で多田を見る。


 祓式を制御できるだなんてそんなことが可能なのか。

 

 秋葉を含めた1年が揃って首を傾げていると、多田はこめかみに2本の指を当てる。

 

『朝姫さん、茜は!? あいつならドローンのカメラ越しにでも制御できるじゃ』

『確かにあの子になら可能かもしれないわね。けど、生憎と今は出張中よ』

「あー、そういえばそうだった……」


 朝姫から告げられ、多田は思い出したように呟いた。

 

 茜という人が誰なのかは分からないが、とにかく亜莉朱の制御する手は使えないのだろう。

 

「けど、たとえ制御できてなくても使えるならやるしかないよ。大丈夫、当たりそうになったら全力で避けるからさ」

「そうやで。やから思いっきりやってくれ」

 

 美澪と海希の言葉に秋葉や多田たちも揃って頷く。

 

 現に手段を問うてる余裕はないし、あの幽霊の攻撃を避けるよりはマシだ。


「みんな……」

 

 感極まったように声を漏らした亜莉朱は、覚悟を決めたのか表情を硬くする。と、持ち直したのか天音から念話が飛んできた。

 

『あ、でも壁や柱に当てまくるのは駄目っすよ。そんなことしたらこの地下空間ごと崩壊するっすから』

「お、おん。当てへんように頑張ってみるわ」


 壁や柱に損傷が行けば天井が崩落して全員お陀仏になると知り、亜莉朱は緊張した面持ちで首を縦に振る。


 これで、亜莉朱の祓式の問題はどうにかなった。


 しかし、これではまだあれを確実に祓いきるには足りない要素がある。

 

「なぁ思ったんだが、あれって祟気の大元を絶たないと祓えねぇんじゃねぇか?」

「確かに。あいつって幽霊というよりは祟気が集合して成ったように視えたし、さっきも祟気が覆われた後に祟核が治ってた」


 秋葉が疑問を呈すると、詞貴は顎に手を当てながら口にする。

 

 いくら亜莉朱の祓式を頼りにしようとも、祟気によって回復されれば元も子もない。


 詞貴も言ったようにあれは祟気の集合体。ならば祟気を祓うことによって多少なりとも力が弱まるはずだ。

 

「そういうことやったら俺と多田、美澪と亜莉朱でどうにかして抑え込む。その間、他の3人は天音と一緒に祟気の大元探って流れを絶ってんか」

「分かりました!」


 海希の指示に全員が同意し、秋葉たちは後を海希たちに任せてその場から離れようと走り出す。


 彼らが幽霊と対峙している間を潜り抜けて、戦場から脱したところでふと悠が立ち止まった。


「勢いよく返事したはいいものの、祟気の原因を探るって言ってもこんなに広いと探しようがなくない?」

「それはそうだね。せめて祟気の発生してる場所が分かればいいんだろうけど……」

 

 詞貴が霊眼で祟気の流れを見極めようと注視する。


 秋葉も同じくどこから流れが来ているのか視てみるが、空間全体に祟気が充満しているおかげでなかなか見分けがつかない。

 

『そう言うだろうと思って、今、流れの大元となる場所を調べてるっす』

「おぉ! 流石、天音!」

 

 天音の仕事の速さに秋葉は感嘆の声を上げる。

 

「それでどうかな?」

『一応、見つけたは見つけたんすけど、発生ポイントがやけに小さいんすよね。でも、他にそれらしきものが見当たらないんで、多分これなんでしょうけど本当に合ってるんすかね……』


 詞貴の問いに、感知センサーでフロア全体に流れる祟気を解析していた天音がためらうような口調で答える。


 これだけの祟気が流れてきている分、発生源は大きなものかと思っていたが、どうやら違うようで秋葉は眉を顰める。

 

「取り敢えず、案内してもらってもいい?」

『分かったっす』


 悠の頼みを了承した天音は滞空していたドローンを操作する。


 道すがら湧いて出て来た等身大の幽霊たちを祓いながら、秋葉たちはスチール棚で区切られた通路を進んでいく。と、少し拓けた空間に着くとともに天音のドローンが止まった。

 

「これは……石碑?」


 秋葉たちの目の前には小さな石碑があり、その周りだけ地面が正方形状に露出している。そして石碑に大きなヒビが入っており、そこから高濃度の祟気が流れ出ていた。

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