第5章-第13社 過ちは繰り返す
「天音、地下があるってどういうことだ?」
秋葉はドローンに目を向けながら天音に問いかけた。みんなの視線がドローンに集中する中、天音は念話越しに説明し始める。
『任務前にこのビルの構造を調べた時には資料にも書いてあった通り、1階から10階までのはずだったんす。でも、祟気の流れが下から来ていることと、皆さんが祓っている間に祟魔の動きを確認したら1階より下に向かっていくのが分かりまして。それで何かあるかもと思って調べてみたら、企業のマップには一切記されていない地下空間が出てきたんすよ』
天音の話を聞きつつ霊眼を起動させた秋葉は、淡く光った赤い目を自らの足元へ向けた。
すると、祟気となる黒い靄が床から漏れ出ていた。
これを見るに祟気の流れは下から来ているようだ。下に降りるにつれて祟魔の強さが上がっていったのは、これが原因なのかもしれない。
「なら、下に降りて行った祟魔がこの階にいないってことはその地下空間に集まってたり……」
『美澪の言う通り、祟気と同様に祟魔の気配も感じられるっす』
「お、合ってた」
冗談交じり話したことが的を得ていると知り、美澪は意外そうに目を見開いた。
ドローンに搭載されているセンサーで下の階にいる祟魔をスキャンしたところ、その数は50体を超えているようだ。ビルの外にも影響が出るのも時間の問題となれば、早急に対処しなければならない。
「天音、その地下空間に繋がる道ってあったりしないか?」
多田が尋ねると、天音から少し待つように念話が来る。
その間に海希は身に纏っていた祓力を一旦、解除して血を落とし、再度祓力を纏わせる。秋葉たちもこれからの戦闘に備えて纏う祓力の量を増やすことに。
と、天音から念話が繋がった。
『見つけました。案内するんで着いてきてくださいっす』
そう言われ、秋葉たちはドローンを先頭にして入口のある場所まで向かう。
道中、湧いて出てくる幽霊を祓いながら進むこと数分。
廊下の突き当たりまで到着すると、ドローンが停止した。秋葉たちは立ち止まって前を見る。しかし、そこにあるのはただの白い壁だった。
「着いたはいいけど、入口があるどころか壁だよ?」
「どうするんだい? まさか壁を壊すなんて……」
悠がドローンに向かって問いかける一方、眉を顰めた詞貴は壁を見ながら口にした。
『そこの壁、他のところよりも薄くなってるんで誰か壊してくださいっす』
「マジだった……」
天音の指示を耳にした詞貴は、本当に合っているとは思わず唖然とする。
詞貴が驚いている間にも、ドローンに搭載されたライトによって壁が照らされる。
よく目を凝らして見てみると、天音が壊すように指示した壁は周囲の壁よりも比較的新しい塗装が施されていた。そこだけ壁が薄いのもそうだが、何故こんなことになっているのだろう。
恐らくこの先に入ったら何か分かるのかもしれないが、問題は誰が壁を壊すかだ。
「よし、亜莉朱。お前がやれ」
「えぇっ!? うちっ!?」
何の前触れもなく多田から指名され、不意打ちを喰らった亜莉朱は素っ頓狂な声を上げる。
「この中でお前ぐらいだろ、壁壊せる祓式持ってんの」
「……まぁ、言われてみればそうやな」
多田の指摘に亜莉朱は渋々頷く。
悠たちと合流する前に亜莉朱が祓式で壁を破壊していたことがよぎり、秋葉も納得せざるおえずに苦笑する。
亜莉朱が壁を破壊することが決まり、被害を受けないように全員彼女の後ろに下がる。
みんなが見守る中、一呼吸置いた亜莉朱は狙いを定めて大きく右腕を引く。
と、彼女の手のひらに嵐球が現れ、前に押し出すと同時に風と雷を帯びた水球が壁に向かって飛んでいった。
迅雷の如き速さで壁に激突した嵐球は、木っ端微塵に壁を破壊し、続く階段を通過。階段の下にあった鉄扉をも破壊してそのまま消滅した。
「あ、やりすぎた」
亜莉朱がポロッと溢した直後、階段下からこちらに向かって猛烈な祟気の風が吹き荒れてくる。
「海希、結界だっ!」
「分かっとる!」
多田に促された海希は素早く印を組んで床に手をつく。
すると、嵐球によって破壊された壁に祟気と祟魔を封じる封縛結界が構築された。祟気が流れ込んでくるのを無事に阻止でき、多田はホッと息を吐くとともに亜莉朱を睨む。
「亜莉朱、帰ったら祓式操作の訓練な」
「はい……」
またしてもやらかしてしまい、亜莉朱はしょんぼりした声色で返事をする。
だが、何はともあれ壁が壊せたことによって先に進むことが可能となった。階段下の扉を開ける手間も省けたところで、秋葉たちは階段を降りて地下空間へと侵入する。
と、秋葉たちは目の前の光景に唖然とする。
階段の先にはビルのワンフロアに相当する広大な地下空間が広がっており、そこら中にスチール棚が並んでいた。
大方、この地下空間は倉庫の役割を果たしていたのだろう。何があったのかは分からないが、ろくに物が回収されていないようで、棚には段ボールや収納ケースが放置されたままだ。
そんな空間を蒼い炎を纏った幽霊たちがこれまでの比にならないほど無数に彷徨っており、一様にして開けた空間に渦巻いていた祟気へ吸い込まれていく。
幽霊を吸収している祟気は竜巻が発生するかの如くどんどん濃さを増して大きくなり、やがて3メートルもの巨大な幽霊に形を成した。
「あれって……」
「あぁ。思ってた以上にまずいな……」
顕現した巨大な幽霊に美澪と秋葉はおぞましい光景に目を見張るのだった。




