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第3章-第15社 武術テスト

 海希と薫の激闘の試合から3日。再び週が明けて月曜日になり、武術テスト当日になった。試練場に召集された秋葉たちは、前に立つ織部から、テストにおけるルール説明を受けている真っ最中。


「時間は3分。それぞれ自分の選択しとる武術の指導者と戦って一本取れたら勝利や。勿論、指導する側は多少なり手抜いた状態でやるさかい、絶対勝てへんいうことはない。但し、簡単に勝てるとも思うなよ。祓式の使用は指導者側、受ける側ともに許可する。むしろどんどん使って勝ちを拾いに行ってや」

 

 すなわち、秋葉たち剣術組の場合は薫と相手して勝利すれば良いという訳だ。


 先日、あんな試合を見せられて勝てるわけないだろうという思いが一瞬よぎるも、手加減してもらえるのであれば、多少なりとも勝機はある。


 無論、軽動術テストの時と同様、薫は指導者側に回るため、試験は免除だ。

 

「最後に、軽傷程度の傷なら続行。致命傷さえ負わせへんかったら何してもええ。但し、トドメ指す場合は寸止め。それができひんかった場合は自動的に失格とみなす」


 負けても駄目だし、致命傷を負わせても駄目。なかなか塩梅が難しいところだが、武器は全員が真剣・実弾だ。


 加減ができなければ、『力』を用いて人を殺すことを禁忌としている代報者には到底なることは許されない。

 

「白澪は自分の番以外は、治療に回ってな」

「了解です」

 

 白澪は頷くと、先に救護室の方へ歩いて行った。その様子に治癒の祓式を持っているというのは、便利でありながら大変でもあるのだと秋葉は密かに感じる。

 

「ほな、それぞれ分かれてテスト開始や」


 織部の言葉を皮切りに、全員がそれぞれ自分の試験場所へ移動。


 剣術は全員が揃ったところで、出席番号順に前から進めていくこととなった。前2人が無事に薫に勝利し、だんだん秋葉の番が近づいてくる中、樹のテストが開始される。

 

 互いに抜刀し、技の撃ち合いが勃発。薫は一緒にやってきた期間が長いのか、樹の癖をほとんど見切っており、樹の刀を受けて弾き返す。

 

「遅いっ!」

 

 前へ踏み込んだ薫は祓式を発動。雷を纏った刀身の2連撃突きを樹の胴目掛けて繰り出す。


 一方、樹は剣を捌くのに必死なようでどんどん壁際に押されていく。時間も1分は悠に切っている。このままで大丈夫かと不安が募る中、樹は遂に壁まで追いつめられた。


 薫の刀が振り上げられたその時、樹の口元が緩み、笑みが零れる。次の瞬間、彼と薫の間に透明なバリアが発生。直後、薫の目が見開かれる。


「っ……!」

 

 バリアから勢いよく風が放たれ、ちょうど跳躍して宙にいた薫が後ろへ吹き飛ばされた。薫は空中で体勢を立て直し、しゃがんだ状態で着地。


 彼女が顔を上げた瞬間、目の前に樹が迫っており、刀で受ける間もなく首筋に向けて刀身が当てられた。

 

「そこまで!」


 審判役の熾蓮が声を張り上げる。薫と樹は体勢を戻して、納刀。お辞儀をした。

 

「前よりも強くなったね」

「そりゃどうも。でも、正直なところ祓式がなけりゃ勝ててなかっただろうな」


 微笑む薫に、樹は苦笑いしながら答える。


 だが、何を使っても良いのがこの武術テストだ。結果的に勝利を収めたのだから樹は十分誇って良いだろう。

 

「次、秋葉!」


 樹が試合フィールドから去り、薫から声が掛かる。強張った表情をした秋葉は、重い足取りで自分の位置へ向かう。


(うわぁ、めちゃくちゃ緊張する……)


 前の3人が全員受かっているので、そのプレッシャーもあり、胃の辺りがぐるぐる気持ち悪くなってくる。


 『紅桜』のスキルである桜の花弁や紅葉もまだ攻撃や防御が成せるほどの強度を持っていないので、尚更不安が渦巻く。だが、今更引き下がることは許されない。


 秋葉は、深呼吸を一度挟み、『蔵』から刀を出現させる。薫の方も準備が整ったようで、審判役の熾蓮が開始の合図を出した。

 

 と、秋葉はその場で『紅桜』へ憑依。鞘から刀を抜くと同時に足と刀身に祓力を纏わせ、接近。衝撃でヒビが入る中、間合いを詰めた秋葉は、薫の顔に向けて、横一線に刀を振るう。


 が、刀で受け止められ、刀身を時計回りに振っていなされる。


「チッ」

 

 刀を弾かれた反動で体勢が乱れる中、薫が下段から上に刀を振り上げてきた。秋葉は咄嗟に上から振り下ろし、ガード。


 その後、3合ほど剣が交わったところで、両者ともに距離を取る。

 

 直後、薫が祓式を発動。刀身と足に雷を纏わせた状態で瞬く間に迫って来た。斜め上から刀が振り降ろされるが、跳躍して回避。


 立て続けに薫が切り返して、秋葉の横腹に刀身が当たる寸前で受け止める。


「はあっ!」


 刃同士のぶつかり合う音が響き渡る中、秋葉は右足を軸に、回し蹴りを放った。

 

 攻防を繰り返すこと残り30秒。時間が経つにつれて、押されつつある秋葉は、容赦なく放たれる攻撃を凌ぎながらチャンスを窺う。


 しかし、残り1分を切ってから本気を出し始めた薫には一切の隙が見当たらない。

 

(これは正攻法じゃ無理だ……!)

 

 意を決した秋葉は、後ろに跳躍。地面を蹴って一気に薫へ近づく。秋葉の目つきが鋭くなったことに気づいたのか、薫は秋葉の胴に向かって3連撃の突きを繰り出す。


 1撃目は回避し、2撃目が右脇腹に入るも、痛みを感じている暇はないとラストは刀で軌道を逸らすことに成功。


「っ!?」


 軌道が逸れたおかげか、体勢が崩れた薫の顔に向かって、桜の花弁を舞わせ、更に怯ませる。


 秋葉は狙いを定めてガラ空きの首元に向かって刀を振るい、寸止め。残り10秒のところで決着がついた。

 

「そこまで!」

「「ありがとうございました」」

 

 熾蓮から試合終了と告げられ、秋葉と薫はそれぞれ刀を鞘に納めて頭を下げる。結果は言うまでもなく秋葉の勝利。


「ふぅ……終わった」


 薫が本気を出し始めた時にはどうしようかと思ったが、何とか勝ててホッとする秋葉。


 憑依を解いて、その場から歩き出そうと一歩踏み出した途端、横から視線を感じ、そっちを見る。と薫が何やらこちらをまっすぐ見据えていた。

 

「薫? どうかした?」

「いや、何でも。その怪我治して貰いなよ」

「はーい」


 秋葉が問うも、即座にはぐらかされる。気にはなるが、今は怪我の治療が優先だ。試合中は痛みを感じなかったが、次第にジンジンと痛んで来たので、白澪のいる救護室へと向かう。

 

 すると、中に白衣を纏った白澪が待っていた。白澪に、正面の丸椅子へ座るよう言われ、秋葉は着席する。

 

「また派手にやったわね……。その傷、痛くなかったの?」


 霊眼で傷の状態を見ていた白澪に問われ、秋葉は横に視線を逸らしながら口を開く。

 

「夢中でそんなこと考えてる暇もなかったや」

「そう。治してあげるから横向いてなさい」


 秋葉は横を向いて、白澪が治療しやすいように右腕を上げる。白澪は祓式を発動。傷口に水が流れ込んでくるのを感じる。


 しばらくすれば、スパンと切れていたところが塞がり、痛みが無くなった。秋葉は白澪にお礼を言ってから救護室を後にする。

 

 救護室を出て、再び道場に戻ってきたら、熾蓮と薫の試合が終盤を迎えていた。


 本日5戦目の薫が、疲れを物ともせず攻め入る中、熾蓮は炎を纏った刀で薫の剣を弾き、隠し持っていた苦無を薫の首筋に当てる。

 

「お、ちょうど終わった感じだね」

 

 秋葉は近くで見守っていた樹の元まで歩く。

 

「あぁ。熾蓮も、もう薫相手に躊躇するようなことは無くなったな」

「あはは……」


 初日の武術稽古で薫から怒られたのが、きちんと効いているようで何よりだ。


 試合が終わり、先に救護室に入っていた薫が戻ってきた。入れ替わりで熾蓮が入るのを横目で見ていると、薫が歩み寄ってくる。

 

「秋葉、ちょっといい?」

「んー?」


 待っている間、刀の手入れをしていた秋葉は顔を上げる。

 

「テストの最後に出した花弁さ、あれ海希先輩がやった手法だよね?」

 

 薫から尋ねられ、秋葉は一瞬何のことかと頭を捻るが、すぐにトドメを刺す前に放った桜の花弁のことだと思い当たった。

 

「言われてみればそうかも。咄嗟に出たから別に意識してやったとかじゃないんだけどね」


 あの時は時間も無く、刀を弾いただけではすぐに反撃されると思い、ならばと花弁を放ったのだ。


 一か八かの賭けだったため、まさか上手くいくとは思わなかったが、知らず知らずのうちに海希の技を覚えていたのかもしれない。

 

「前々から思ってたんだけど、秋葉って成長スピード早いよね」

「え、そう?」

「うん。この2週間弱ずっと見て来たけど、誰よりも技の習得早かったし」

「まぁ、昔から吞み込みが早いとはよく言われるんだよね。自分ではあんま実感ないんだけど……」


 神社の手伝いをしていた時も祖母から要領がいいと褒められたし、華南さんから猛ダッシュで逃げた鬼ごっこのときも筋が良いと言われた。


 自分から見れば全然そうは思わないのだが、他人から見たらそう見えるらしい。


「もう閉めるから出てや~」

「「はーい」」

 

 巡回に来た織部からそう言われ、秋葉と薫は返事をした。刀身の手入れもあらかた終わったところで、秋葉は刀を鞘に仕舞い、立ち上がる。

 

(武術テストも終わったことだし、帰ったら久々に創作でもしよう)


 そう心に決め、秋葉は薫と共に道場を後にするのだった。

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