第3章-第16社 結界術
武術テストの翌日。軽動術と武術のテストが終わった次は祓術の訓練だ。5限目となる今は祟魔討伐に必ずと言って良いほど必要な結界術を学んでいく。
「ほな、樹」
「はい」
織部に呼ばれ、樹はみんなの前に出てくる。おおよそ、結界術の祓式を持っているから呼ばれたのだろうか。
そう思っていると、織部が口を開く。
「樹はここに来る前から結界術を扱っとってな。元々、神城一族は結界の名家。正直、結界術に関しては俺よりもこいつの方が適任や。っていうわけやから、後は任せたで」
「こっちに説明押し付けないで貰えますかね……」
後ろの方へ行こうとする織部に、樹はげんなりしたように言った。織部はその場で立ち止まり、樹の方を振り返る。
「ほら、つべこべ言うとらんとはよ進めな授業時間無くなるで」
「はぁ……分かりましたよ」
このまま言い合いをしてもどうせ織部に上手いこと言いくるめられる。そう悟ったのか、樹はため息交じりに返事をして秋葉たちの方へ目を向けた。
「まず結界術って言うのは大きく2種類あって、内に働きかけるものと外に働きかけるものとに分かれる。神社やそれこそ大神学園に貼られてる結界なんかはその2種類が併合したものが多い」
樹は大神学園全体に貼られている結界を見上げながら口にした。
霊眼を起動させて試しに見てみるが、彼の言う通り、祟魔が侵入できないようにする術や人払いなどさまざまな効力が付与されている。
「今日は、みんなに結界術の基礎たる印の手順を覚えてもらってから、実際に結界を貼ってもらうところまでやってもらう。まずは俺が手本を見せるからよく見ておいてくれ」
そう言い終えたところで、樹は模擬演習場内に生えている手頃な樹木に目を付けた。
樹は樹木に向かって正面に向き直ると、左右の手をうち1組で人差し指を立て合わせる独鈷印と両指を互いに内に組み入れる内縛印を組み、最後に左右の親指の指先の端をつけ、余り4指を開く日輪印の状態で手のひらを前に押し出した。
直後、樹木の1本の周囲に透明な壁――結界が出現する。
「基本、結界は今やった3つの印を順番に組むことで生成が可能だ」
今、樹が実演した印は結界を生成する上での基礎となる。
樹によれば、方角指定の意味を持つ独鈷印、結界の範囲を指定する内縛印の後に、効果に応じた印を組めば、結界の効力に防音や人払い、浄化作用などを含めることができるらしい。
ちなみに最後の日輪印は、結界を発動させる合図になるようだ。そして、解除時には念じながら手を叩くと結界が解かれるという。
「生成の際には集中力と精神力、イメージする力、そして器用さが重要になってくる。それを意識してやってみてくれ」
いざ実践開始。それぞれ結界で囲う木を選定し、各自印を組んで結界を構築していく。
皆が苦戦する中、目の前の木をまっすぐ見据えた秋葉は、印を組み、基礎となる結界の生成に成功する。
「えっ、秋葉もうできたの?」
「まぁ、普段から神社の結界貼ってるからね」
隣で同じく結界の構築に励んでいた悠に訊かれ、秋葉は頷きながら答える。
最初に結界術を教わったのは、小学校5年生の頃。秋葉の祖母から神職になるのならこれぐらいはできるようになりなさいと言われ、祖母から習った始まりだった。
「こんなもんやろか?」
「私のも視てちょうだい」
近くで結界を生成していた熾蓮と白澪から言われ、織部と共に見回っていた樹がやってくる。
「お、できてるな。2人も何かやってたのか?」
熾蓮と白澪の結界を視た樹は、感心した表情で2人に尋ねる。
「俺は忍びの修行の過程で習ってたからな。小規模の結界ならある程度はできるで」
「私も両親から祓式のコントロールを教わるついでに、教えて貰っていたから少しなら」
2人とも秋葉と同じようにある程度習っていたようだ。秋葉も樹に視て貰い、無事に合格を貰う。
結界には浄化作用があり、祟魔を中へ入れないためにそれなりの強度が必要になってくるのだが、その点もクリアしていたらしく、秋葉はホッと息を吐く。
「3人とも凄いなぁ~。あたしなんてまだまともに生成すらできてないってのに」
「んー、上手くいかないな……。秋葉、良かったら教えてくれない?」
「うん、良いよ」
悠と薫にお願いされた秋葉は快く頷いた。2人に一度やってもらうが、どちらも一瞬結界が現れただけで、すぐに消えてしまった。
熾蓮と白澪が次のステップに進んでいる間、秋葉は2人ができない原因を考える。視たところ祓力の出力量は十分で、印の組み方も合っている。
後、足りていないところと言えば、結界全体の密度だろうか。結界は非常に精密なもので、衣服の細い糸のように祓力が隙間なく絡み合って構成される。
秋葉は紺羽織の袂からメモ帳と三色ボールペンを取り出して書き込んでいく。
「こんなふうにみっちり木全体を囲うようなイメージをもってやればできると思うよ」
「ふむふむ」
メモ帳に緑ペンで簡易的に描かれた木と木を囲うように引かれた山なり状の線の中が赤色で埋め尽くされているを見た悠は顎に手をやりながら見つめた。ついで隣にいた薫にも見せてやる。
「後は、上手くやろうとか余計なことを考えずに結界へ一点集中したらできるはずだ」
「なるほど、やってみるよ」
結界生成には、樹も言っていたように並々ならぬ集中力と精神力が必要だ。頭の中にある雑念を払わないと、清浄な結界はまず構築できない。
秋葉と樹のアドバイスを受けた2人は息を吐ききってから、正面の木を視て印を組む。すると、木を囲うように結界が現れた。今度はすぐに消えるようなことは無く、きちんと形を保っている。
「お、できた!」
「まだまだムラがあるけど、ひとまず形になって良かった」
悠と薫は目の前に出現した結界を視ながら話す。
結界は一箇所でもほころびが生じれば、そこから邪気が中に入る可能性があるので、ムラなく均等に祓力を纏わせる必要がある。
慣れないうちは難しいが、いずれは自然とできるようになるだろう。
「そういえば、ここに来る前から結界術やってたって聞いたけど、いつぐらいからやってたの?」
秋葉はふと気になり、隣にいる樹へ尋ねる。
「確か、中学に入ってすぐの頃だな」
「あ、そうなんだ。全然知らなかった」
樹の回答に薫が反応した。てっきり薫は知っているものかと思っていたのだが、そうでもないらしい。
樹によると、結界術は茨城の方で教わってたようなので、薫が知らないのも無理はないだろう。
軽い雑談の後、秋葉たちは結界の基礎を大方習得したところで、次の段階へと進むのだった。




