表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/77

砂漠の大迷宮探索 小部屋の攻防

 砂漠の大迷宮に入るには、採掘証を受け取って行かなければならない。

 ギルドで採掘証を受け取り、俺たちは砂漠に聳え立つピラミッドへとやってきた。

 かつては輝く金箔によって覆われていたらしいそのピラミッドと、ピラミッドを守るように傍に控えているスフィンクスの像は、盗掘によって表面がはがされ、風化してみすぼらしい姿をさらしていた。

 スフィンクス、前足がひとつ欠けてるじゃないか。


 ピラミッドの正面入り口にいる番人に、採掘証を見せる。


「剣士、楽師、聖職者、闘士の4名様ですね。ご苦労さまです」

「むしろご苦労さまだぜ! あっちーな!」

「ありがとうございます。ご武運を」

「ああ。お役目ご苦労」

「お仕事、がんばってね~♪」


 ポロリン♪


「うす」


 それぞれ、番人に軽く挨拶をして、ピラミッドの中に入る。

 焼けつくような砂漠の陽射しとは対照的に、ピラミッドの内部はひんやりと涼しい。

 このピラミッド内に充満している死の匂いとも、無関係ではないだろう。


 それにしても、番人は1人しかいないが、勤務体制はどうなっているのだろうか。

 まさか、24時間勤務なのだろうか。

 確かにFBWでは番人のNPCは1人だった。そして、時間帯に関係なくいつでもこのクエストはできたし、いつ通りかかっても番人はいた。


 現実っぽい感じにみえるからか、どうでもいいようなことが気になる。


 不測の事態の時には、一体どうするのだろう。

 例えば急に腹が痛くなったり、風邪をひいたりしたら。

 それに、砂漠をうろつくモンスターに襲われないのだろうか。

 それら諸々の問題は、NPCだから、という理由で回避されるのだろうか。


 悶々と番人を慮っている俺の内心とは裏腹に、探索PTは続々とピラミッドを進んでいく。


 先頭は東方さん。続いてプリウス、その次にアン。殿は俺だ。


 プリウスとアンは補助メインだし、俺は最後列からでも攻撃できて、接近もすぐにできるからな。



 しばらくはカツカツと、反響する俺たちの足音の他には何も聞こえないまま、探索が続く。

 王家の墓であるピラミッドでは、賊の侵入に備えて意外と入り組んでいるうえ、罠もところどころに仕掛けられている。

 先頭を進む東方さんは、迷いも躊躇もなくいくつもの分岐を進み、転移の魔法陣にも次々と足を踏み入れていく。

 通い慣れた道だからな。それも当然だろう。


 そうして奥へと進み、幾つ目かの小部屋に辿り着いたとき、ふとプリウスが足を止め、声をあげた。


「うす。敵がきたっす」


 敵か。プリウスの声に反応して、それぞれ臨戦態勢に入る。

 さすが聖職者。死者の気配にも敏感だな。


 小部屋へと続く通路のあちこちから、全身に包帯を巻いてミイラがやってくる。その動きは緩慢だが、油断はできない。包帯を飛ばして拘束してくるし、倒したと思っても意外としぶといのだ。


「アン、歌を」

「まっかせて♪ 景気いいのを一発♪」


 東方さんの指示に応え、ハープを奏で始める。

 静謐なピラミッドには到底似つかわしくないマーチングだ。

 楽師のスキルでもある曲には、雰囲気に飲まれずに戦意を高揚させるだけでなく、能力を全体的に上昇させる効果がある。

 ……エレキギターをかき鳴らしたような音や、鼓笛、ラッパの音が、あのハープのどこから響いてくるのかは謎だが。


 さてと。

 悠長に構えているヒマはないな。


 ミイラ共は途切れることなく歩み寄ってきている。

 俺たちが進んできた通路を目指して、この小部屋へと通じている道は、正面、左側、右側に各2つずつで計6つ。これをどう防ぐか。


「アン殿、中央へ。プリウス殿は右、マッハ殿は左をおさえて頂きたい。正面は私がやる」


 剣を抜き、ゆったりと歩きながら、東方さんは指示を出す。


「おう! いくぜ!」

「うっす」


 アンは、曲のテンポを上げて応える。

 さあ、戦闘開始だ。


 東方さんは、気負った様子もなく無造作にミイラへと向かっていく。

 ミイラの方は、近づいてくる東方さん目掛け、包帯を飛ばしてきた。

 まさに当たろうとするその瞬間、滑るように身を低くし、一気に距離を詰めていく。


 右手にぶら下げた剣からは緑色の光が立ち昇り、東方さんの動きに合わせて軌跡を残している。

 ミイラへと接近したと思ったら、あっという間に胴を薙ぎ、両腕は斬り落とされ、頭は吹き飛ばされていた。


 剣士のスキル、星光だ。5回までの連続攻撃ができる。

 反撃されないようにするためには、腕や頭はつぶした方がいい。頭だけ残っていても噛みついてきたりするからだ。


 1体目のミイラを斬ったところで動きの止まった東方さんに、左右から包帯が飛ぶ。

 今度はふわりと宙を舞い、きれいな青い放物線を描きながら、右側のミイラへと落ちていく。

 空中で1回転した東方さんは、落下と同時に、唐竹割りでミイラを真っニつにした。


 今度は月光か。防御を無視するスキルだ。

 スキル名を逐一叫んだりはしない。

 それが東方さんの美学。

 それが東方さんクオリティ。



 そこで、ミイラの包帯が遂に東方さんの右手を捉える。剣を握ったその手が不自由になってしまった。

 東方さんは冷静だ。

 包帯の繋がったミイラとは逆側に勢いをつけて走る。ミイラは引き寄せられてきた。

 東方さんは、腰に差してあった脇差を左手で抜き放ち、一閃。伸びきった包帯を絶ち切られ、引き寄せられた哀れなミイラは、一刀の下に切り伏せられる。


 その後も、一刀一殺。

 青や緑の軌跡を残して、ミイラを圧倒している。


 東方さんの一画だけ、無双シリーズみたいだ。


 何の問題もないな。


 プリウスの方は、アンを守るように仁王立ちしている。既にその身体には幾重にも包帯が巻かれ、見た目は完全にミイラ男だ。


「うす。大丈夫っす」


 包帯の下から、若干くぐもった声でアピールするプリウス。

 ミイラの頭上に大きなハンマーが現れては、叩き潰していく。


 聖職者のスキル、判決だ。

 単体攻撃では優秀なスキルで、確実に仕留めていく。


 倒れたミイラからプリウスへと伸びた包帯を、顔のついたキノコが毟り取っている。

 プリウスのペットか。

 ってかあれ、初期ペットじゃねえか。


「おいプリウス。もうちっとマシなペットはいないんか?」

「うす。大丈夫っす。眠り粉と光合成も使えるっすから」

「攻撃も味方の回復もできねえじゃねえか! どこが大丈夫なんだよ!」

「うす。大丈夫っす。ポーション投げられるっすから」

「なる。ポッターか。低燃費系だな。貯金しとるんか?」

「うす。虎買うっす」

「そっか。じゃあ辛抱だな!」


 FBWでは、2種類の通貨がある。銀貨と金貨だ。

 銀貨は、ポーションやらの消耗品のやり取り、装備の修理といった、日常的に使うもの。

 金貨は、いわゆる課金アイテムのやり取りに使われる。


 虎は、課金用ペット、虎猫のことだ。

 オンラインゲームの宿命というか、擬人化されているが。資質は折り紙付きで、固有スキル「虎猫ぱんち」も強力だ。

 純粋な威力と、その可愛さの破壊力という2重の意味で。


 金貨は、素材を換金すると稼げるから、初期ペットのまま貯金する奴は珍しくない。キノコでは確かに攻撃には役立たないが、ポーションの効果は変わらないし、倒れなければいい。

 そういう意味では、植物系のキノコは体力の資質もそこそこだし、光合成で自己回復もできる。

 眠り粉の足止めも有効だ。

 もちろん力不足は否めないし、聖職者との相性もよろしくはないが。


 その辺を理解して役割をこなせるなら、大した問題じゃない。

 中途半端な攻撃役や、すぐ倒れるペットよりよほどマシだ。


 俺の担当する左の通路の方はどうかというと、スコーピオンキングを向かわせている。

 俺自身は、アンを挟んでプリウスと反対側に陣取り、ボールを出しては蹴りつけている。


「ボールをミイラに向かってシュー―――――ト! 超! エキサイティング!」


 ミイラの顔や胴体にボールを当てて、バランスを崩す。

 それだけじゃ仕留めきれないが、カサカサと這い寄ったスコーピオンキングが葬っていく。


 そうやって、それぞれが順調に倒し続ける。


 なんか防衛ゲームっぽい展開だな。

 アンが曲調を変え、ハープを高速でかき鳴らす。


 おいおい、それ、某シューティングゲームのボスオンパレードじゃねえか。


「おいアンちゃんよぉ! 景気良いのはけっこうだけど、ヘンなの呼んじまってるじゃねえか!」


 ミイラは相変わらずだが、暗がりから拳サイズほどの甲虫もぞろぞろと這い出てきた。

 こりゃ範囲攻撃しないとやってられないぞ。


「おっパイン♪ きみにきめた♪」


 アンは、いい笑顔で気持ち良さそうに演奏しながら、器用にペットを召喚した。


 ってか、本当におっパインって名前なんだな。


 パインは植物系の課金ペットだ。

 サングラスをかけ、顔のついた危険なヤツで、固有スキルは「ダイナマイトボディ」。やらしい方の意味じゃなくて、文字通りの危険な自爆技だ。


「そぉいっ♪」


 気の抜ける掛け声で、アンがおっパインを投げつける。

 おっパインは歯をむき出してニヤリと笑っている。いい歯並びだ。


 甲虫の群れはおっこちてきたおっパインを避けてザザッと広がる。

 しかし、その程度では……。


「起動♪」


 アンがハープをジャーン♪ と鳴らすと、おっパインが明滅し、次の瞬間。


 ズゴオオオオォォォォォン!


 轟音とともに爆発。

 通路もろとも吹き飛ばしてしまった。


「センキュー♪」


 ひと通り、仕上げのアピールを終えて、フィニッシュ。


 アンの演奏は終了した。

 戦闘も終了だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ