砂漠の大迷宮探索 小部屋の攻防
砂漠の大迷宮に入るには、採掘証を受け取って行かなければならない。
ギルドで採掘証を受け取り、俺たちは砂漠に聳え立つピラミッドへとやってきた。
かつては輝く金箔によって覆われていたらしいそのピラミッドと、ピラミッドを守るように傍に控えているスフィンクスの像は、盗掘によって表面がはがされ、風化してみすぼらしい姿をさらしていた。
スフィンクス、前足がひとつ欠けてるじゃないか。
ピラミッドの正面入り口にいる番人に、採掘証を見せる。
「剣士、楽師、聖職者、闘士の4名様ですね。ご苦労さまです」
「むしろご苦労さまだぜ! あっちーな!」
「ありがとうございます。ご武運を」
「ああ。お役目ご苦労」
「お仕事、がんばってね~♪」
ポロリン♪
「うす」
それぞれ、番人に軽く挨拶をして、ピラミッドの中に入る。
焼けつくような砂漠の陽射しとは対照的に、ピラミッドの内部はひんやりと涼しい。
このピラミッド内に充満している死の匂いとも、無関係ではないだろう。
それにしても、番人は1人しかいないが、勤務体制はどうなっているのだろうか。
まさか、24時間勤務なのだろうか。
確かにFBWでは番人のNPCは1人だった。そして、時間帯に関係なくいつでもこのクエストはできたし、いつ通りかかっても番人はいた。
現実っぽい感じにみえるからか、どうでもいいようなことが気になる。
不測の事態の時には、一体どうするのだろう。
例えば急に腹が痛くなったり、風邪をひいたりしたら。
それに、砂漠をうろつくモンスターに襲われないのだろうか。
それら諸々の問題は、NPCだから、という理由で回避されるのだろうか。
悶々と番人を慮っている俺の内心とは裏腹に、探索PTは続々とピラミッドを進んでいく。
先頭は東方さん。続いてプリウス、その次にアン。殿は俺だ。
プリウスとアンは補助メインだし、俺は最後列からでも攻撃できて、接近もすぐにできるからな。
しばらくはカツカツと、反響する俺たちの足音の他には何も聞こえないまま、探索が続く。
王家の墓であるピラミッドでは、賊の侵入に備えて意外と入り組んでいるうえ、罠もところどころに仕掛けられている。
先頭を進む東方さんは、迷いも躊躇もなくいくつもの分岐を進み、転移の魔法陣にも次々と足を踏み入れていく。
通い慣れた道だからな。それも当然だろう。
そうして奥へと進み、幾つ目かの小部屋に辿り着いたとき、ふとプリウスが足を止め、声をあげた。
「うす。敵がきたっす」
敵か。プリウスの声に反応して、それぞれ臨戦態勢に入る。
さすが聖職者。死者の気配にも敏感だな。
小部屋へと続く通路のあちこちから、全身に包帯を巻いてミイラがやってくる。その動きは緩慢だが、油断はできない。包帯を飛ばして拘束してくるし、倒したと思っても意外としぶといのだ。
「アン、歌を」
「まっかせて♪ 景気いいのを一発♪」
東方さんの指示に応え、ハープを奏で始める。
静謐なピラミッドには到底似つかわしくないマーチングだ。
楽師のスキルでもある曲には、雰囲気に飲まれずに戦意を高揚させるだけでなく、能力を全体的に上昇させる効果がある。
……エレキギターをかき鳴らしたような音や、鼓笛、ラッパの音が、あのハープのどこから響いてくるのかは謎だが。
さてと。
悠長に構えているヒマはないな。
ミイラ共は途切れることなく歩み寄ってきている。
俺たちが進んできた通路を目指して、この小部屋へと通じている道は、正面、左側、右側に各2つずつで計6つ。これをどう防ぐか。
「アン殿、中央へ。プリウス殿は右、マッハ殿は左をおさえて頂きたい。正面は私がやる」
剣を抜き、ゆったりと歩きながら、東方さんは指示を出す。
「おう! いくぜ!」
「うっす」
アンは、曲のテンポを上げて応える。
さあ、戦闘開始だ。
東方さんは、気負った様子もなく無造作にミイラへと向かっていく。
ミイラの方は、近づいてくる東方さん目掛け、包帯を飛ばしてきた。
まさに当たろうとするその瞬間、滑るように身を低くし、一気に距離を詰めていく。
右手にぶら下げた剣からは緑色の光が立ち昇り、東方さんの動きに合わせて軌跡を残している。
ミイラへと接近したと思ったら、あっという間に胴を薙ぎ、両腕は斬り落とされ、頭は吹き飛ばされていた。
剣士のスキル、星光だ。5回までの連続攻撃ができる。
反撃されないようにするためには、腕や頭はつぶした方がいい。頭だけ残っていても噛みついてきたりするからだ。
1体目のミイラを斬ったところで動きの止まった東方さんに、左右から包帯が飛ぶ。
今度はふわりと宙を舞い、きれいな青い放物線を描きながら、右側のミイラへと落ちていく。
空中で1回転した東方さんは、落下と同時に、唐竹割りでミイラを真っニつにした。
今度は月光か。防御を無視するスキルだ。
スキル名を逐一叫んだりはしない。
それが東方さんの美学。
それが東方さんクオリティ。
そこで、ミイラの包帯が遂に東方さんの右手を捉える。剣を握ったその手が不自由になってしまった。
東方さんは冷静だ。
包帯の繋がったミイラとは逆側に勢いをつけて走る。ミイラは引き寄せられてきた。
東方さんは、腰に差してあった脇差を左手で抜き放ち、一閃。伸びきった包帯を絶ち切られ、引き寄せられた哀れなミイラは、一刀の下に切り伏せられる。
その後も、一刀一殺。
青や緑の軌跡を残して、ミイラを圧倒している。
東方さんの一画だけ、無双シリーズみたいだ。
何の問題もないな。
プリウスの方は、アンを守るように仁王立ちしている。既にその身体には幾重にも包帯が巻かれ、見た目は完全にミイラ男だ。
「うす。大丈夫っす」
包帯の下から、若干くぐもった声でアピールするプリウス。
ミイラの頭上に大きなハンマーが現れては、叩き潰していく。
聖職者のスキル、判決だ。
単体攻撃では優秀なスキルで、確実に仕留めていく。
倒れたミイラからプリウスへと伸びた包帯を、顔のついたキノコが毟り取っている。
プリウスのペットか。
ってかあれ、初期ペットじゃねえか。
「おいプリウス。もうちっとマシなペットはいないんか?」
「うす。大丈夫っす。眠り粉と光合成も使えるっすから」
「攻撃も味方の回復もできねえじゃねえか! どこが大丈夫なんだよ!」
「うす。大丈夫っす。ポーション投げられるっすから」
「なる。ポッターか。低燃費系だな。貯金しとるんか?」
「うす。虎買うっす」
「そっか。じゃあ辛抱だな!」
FBWでは、2種類の通貨がある。銀貨と金貨だ。
銀貨は、ポーションやらの消耗品のやり取り、装備の修理といった、日常的に使うもの。
金貨は、いわゆる課金アイテムのやり取りに使われる。
虎は、課金用ペット、虎猫のことだ。
オンラインゲームの宿命というか、擬人化されているが。資質は折り紙付きで、固有スキル「虎猫ぱんち」も強力だ。
純粋な威力と、その可愛さの破壊力という2重の意味で。
金貨は、素材を換金すると稼げるから、初期ペットのまま貯金する奴は珍しくない。キノコでは確かに攻撃には役立たないが、ポーションの効果は変わらないし、倒れなければいい。
そういう意味では、植物系のキノコは体力の資質もそこそこだし、光合成で自己回復もできる。
眠り粉の足止めも有効だ。
もちろん力不足は否めないし、聖職者との相性もよろしくはないが。
その辺を理解して役割をこなせるなら、大した問題じゃない。
中途半端な攻撃役や、すぐ倒れるペットよりよほどマシだ。
俺の担当する左の通路の方はどうかというと、スコーピオンキングを向かわせている。
俺自身は、アンを挟んでプリウスと反対側に陣取り、ボールを出しては蹴りつけている。
「ボールをミイラに向かってシュー―――――ト! 超! エキサイティング!」
ミイラの顔や胴体にボールを当てて、バランスを崩す。
それだけじゃ仕留めきれないが、カサカサと這い寄ったスコーピオンキングが葬っていく。
そうやって、それぞれが順調に倒し続ける。
なんか防衛ゲームっぽい展開だな。
アンが曲調を変え、ハープを高速でかき鳴らす。
おいおい、それ、某シューティングゲームのボスオンパレードじゃねえか。
「おいアンちゃんよぉ! 景気良いのはけっこうだけど、ヘンなの呼んじまってるじゃねえか!」
ミイラは相変わらずだが、暗がりから拳サイズほどの甲虫もぞろぞろと這い出てきた。
こりゃ範囲攻撃しないとやってられないぞ。
「おっパイン♪ きみにきめた♪」
アンは、いい笑顔で気持ち良さそうに演奏しながら、器用にペットを召喚した。
ってか、本当におっパインって名前なんだな。
パインは植物系の課金ペットだ。
サングラスをかけ、顔のついた危険なヤツで、固有スキルは「ダイナマイトボディ」。やらしい方の意味じゃなくて、文字通りの危険な自爆技だ。
「そぉいっ♪」
気の抜ける掛け声で、アンがおっパインを投げつける。
おっパインは歯をむき出してニヤリと笑っている。いい歯並びだ。
甲虫の群れはおっこちてきたおっパインを避けてザザッと広がる。
しかし、その程度では……。
「起動♪」
アンがハープをジャーン♪ と鳴らすと、おっパインが明滅し、次の瞬間。
ズゴオオオオォォォォォン!
轟音とともに爆発。
通路もろとも吹き飛ばしてしまった。
「センキュー♪」
ひと通り、仕上げのアピールを終えて、フィニッシュ。
アンの演奏は終了した。
戦闘も終了だ。




