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時空交差点~フタリノキョリ~  作者: かんな らね
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最終章 新章 3 side 麻生聖~エピローグ

 3 side 麻生聖


 季節は春から夏、そして秋になって十七歳になってからまた冬が来た。


 あれから一年が経っていた。


 響と離れてから何度も色んな人から告白された。でも、一度も首を縦に振る事は出来なかった。

 響の事が忘れられない。

 一日たりとも忘れた事はない。


 切れ長なタレ目

 固くて黒い髪

 強く抱き締めてくれた腕

 重ねた唇

 笑顔

 呆れ顔

 困り顔


 全てが色褪せる事無く愛しい。


「クリスマスイヴか……」

 外に出て雪かきをしながら呟く。

 どおりで朝からカップルが多いわけだ。

 今日は響の誕生日。


 そして、あの日から丁度一年が経った。


 響が居なくなって最初はかなり落ち込んだ。でも、そんな私も友人に恵まれたお陰で少しずつ元気を取り戻した。

 食事も出来るようになり、響のようにはいかないけど屋上からの景色も再び描き始めた。


 失ったものはとても多い。

 まず、研究所は閉鎖した。資料も何もかも焼却処分した。私の作るものは危険すぎる。今は科学者以外になる自分が想像できないけど、他の職業に就くのも悪くないと思う。


 しかし、得た物も決して少なくない。

 東雲の援助が無くなった私は生きていく術を失った。そこで他に手段がなかったので親からの仕送りに手をつける事にした。その時に勝手に使うのは悪いからと、三年振りに家族と電話した。

 思っているほど両親は私の事を怒ってはいなかった。輝も留学生活が充実しているので、私に嫉妬を抱く暇と余裕が無いそうだ。まだ八歳なのに可愛くない弟だ。

「もう幾つか博士号も取得したから、姉ちゃんの学校に公演にでも行ってやる」

とか言ってたな。

 まぁ本当には来ないと思うけど……。あの子だって私の恐ろしさは分かっている筈だ。あんまり調子に乗ると公演中、輝が回答に困る質問をぶつけ続けかねない。

 ああ、だからあんなに嫌われちゃってたのか……。

 ちょっと納得。

 っていうか、悪いのはやっぱり私なのか……。


「にゃあにゃあにゃあ」

 鳴き声で我に帰る。

 響が拾った二匹の猫。

「あっ、外に出てきちゃったの?」

「にゃあにゃあ」

「にゃあにゃあ」

「イズモ、ヒビキ中に入りなさい」

 猫に名前をつけた。

 グレイの方が『イズモ』で白い方が『ヒビキ』。亜香梨ちゃんや美香子ちゃんにさんざん馬鹿女と散々からかわれた。

 でも、他に名前が思いつかなかったんだからしょうがないじゃない。私だって呼ぶ度に恥かしさと悲しみが込み上げてくる。

 だけど、そんな事にはちっとも気付かず二匹はすくすくと育った。

「響……」

 猫の名前ではない名を呼ぶ。

 その時、雪を踏む音がした。


 4 side 出雲響


 テストの結果、俺は時空移動者になる事が出来た。やっぱり再々構築前の世界でタイムトラベラーだった事が効いたらしい。

 家族は反対したが、家族にも俺の体験した二五一〇年の話をした。自分が過去に行く事で平和な現代が確固たるものになると説得した。


 これは半分本当で半分嘘。


「それでは響君、これからタイムトラベルを開始する」

「はい部長……失礼、省長」

 この人もよっぽどタイムトラベルと縁がある。

「どっちでも良い。我々にとってはどっちの世界も現実だった」

「はい」

「しかし……良いのかね?」

「え?」

「このプロジェクトに時空移動者として参加するという事は、一生こっちの時代に帰って来れないと言う事だぞ」

 部長……もとい省長が窓の向こうの空を見る。この人も青い空が珍しいんだ。

「君の絵、私はあれのファンでねぇ。こっちの時代に残ってもっと描いて欲しかったよ。やっぱり天才の家系って言うのはあるのかね? 羨ましい限りだ」

 一部の人間には俺が聖の子孫だとバレている。

「描けないんですよ」

 自嘲気味に微笑む。

「俺はきっと二十一世紀に行かないと描けないんですよ。そこに大きな忘れ物をしてしまったから」

「まぁ、君が選んだ道だ。だが決して楽ではないぞ」

「楽ではないけど俺が生きる時代はあそこです」

「そうだな、我々が君に出来る恩返しはこれ位しかないな」

 省長が俺の肩を強く掴む。その間にも着々とタイムトラベルの準備は進んでいく。

「変数タイプα。誤差〇.〇一時空ミリメートル」

「誤差許容範囲内」

「座標測定終了。座標地点B」

「時空移動者搭乗許可」

「響君」

 時空移動装置に向かう俺に省長が声をかける。

「はい」

「月並みな事しか言えんが……君もこの青空の下で幸せになりなさい」

「……省長もお元気で」

 握手を交わし、時空移動装置へ向かう。

「カウントダウン」

 オペレーターのアナウンスが入った。


 5 side 麻生聖


「呼んだか?」

 後ろから声が聞こえる。思わず雪かき棒を落としてしまう。


 振り返りたいのに振り返られない。

 もしも彼じゃなかったら……。

 私はきっと立ち直れない。

 期待しちゃ駄目。

 あの人である筈がない。


「なぁ、こっち向けよ。遠くからわざわざ会いに来たんだからさ」


 聞き間違える筈が無い。

 夢で何度も聞いた声。


 意を決して振り返る。

「あっ……」

 良かった。人違いじゃない。


 切れ長なタレ目

 固くて黒い髪

 強く抱き締めてくれた腕

 重ねた唇

 笑顔

 呆れ顔

 困り顔


 少し背が伸びた。

 少し髪の毛も伸びた。

 そして、少し大人っぽくなった。

 それでも変わらない。

 彼が彼であるとい事には何の変化も無い。


 ごくりと唾を飲んで、名前を呼ぶ。

 

「響」


 ずっと本人に言いたかった。


「聖」


 名前を呼ばれる。


 次の瞬間に走り出す。

「響! 響!」

 抱き着いてから何度も名前を呼ぶ。此処に響がいる証明。響は変わらない笑顔で私の頭を撫でる。

「少し髪が伸びたな」

「背も伸びたのよ」

「縮んでないか?」

「響の伸びた身長の方が大きいからそう感じるだけよ」

「そうか?」

 そんな話がしたいんじゃない。

 一年振りに会って、身長の話をしてどうする?

「何で此処に居るの?」

「……仕事」

 そんな事は分かってる。娯楽で来る訳が無いだろう。

「それくらい分かってるわよ。何の仕事なの?」

「秘密」

「…………」

 そりゃそうか。

「聖は俺の仕事対象だから秘密」

「え? また殺しに来たの?」

 瞬間的に聞き返してしまう。

「そんな仕事を引き受けてくるわけ無いだろ!」

「……ふーん」

「お前、二十六世紀の時空省タイムトラベル課でブラックリストになってるんだ」

「ん?」

「人類の行く末に関わる発明をする可能性があるって事でな」

「成る程。それで?」

「それで俺が麻生聖の監視役として二十一世紀に派遣されたんだ。お前が一生変な発明をしないようにな」

「え? じゃあ……?」

 響に抱きついたまま上を見上げる。

 響の笑顔。

 そして、

「ずっと一緒だ」

 きつく抱き締められる。

 私の家は住宅街にあるから人通りが多い。近所の人たちがくすくすと笑いながら私達を見てる。

 私は一瞬顔を上げて困った顔をしてみたが、響の方はあまり気にならないらしい。ようし乗ってやろうじゃないの。


 ぎゅうっと抱き締める。

 あたたかい。

 響の体温。

 顔を埋める。


「聖……」

「何?」

「もう一人にはしない」


 その後、私が人類の存亡に関わるような発明に手を出す事は無かった。

 



エピローグ



 貴方と出会いとても強く、

 そしてとても弱くなった。


 悲しみを半分にする力と

 喜びを二乗にする力を身につけた。


 一人の怖さを知った。


 だから一緒に生きていこう。


 例え五百年の時が

 二人の前に立ちはだかっても

 貴方とならば


 乗り越えられる。


                                   《END》

ここまで読んでありがとうございました。

かんならねと申します。


この作品は何度か改稿は重ねていますが、土台となる部分を考えたのは高校生の頃なので、今読むとキャラたちの性格が結構尖がっていて自分でもビックリしてしまいます。(特に前半部)


初稿を書いたきっかけも大学の課題だったので、自分の長編作品の中では一番、投稿を意識していない作品ですね。

いい意味でも、逆の意味でも。


何はともあれ若いころ書いたものというのは、もう一度読み返すと照れますね……。


それでは、最後まで読んでいただいてありがとうございました。


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9/25 23:30より、新作の公開を開始しました。

↓ ↓ ↓

SSS ~スペシャル・スペース・スペクタクル~

http://ncode.syosetu.com/n0136do/


今度は宇宙モノです。

良かったら、こちらも見て貰えると嬉しいです。

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