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時空交差点~フタリノキョリ~  作者: かんな らね
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第五章 現在・過去・未来 3 side 出雲響(その2)

「本気で愛し合っていた分、聖の傷も深かったんだ」

 俺の疑問にはお構い無しで零先輩が続ける。こんなに饒舌な零先輩は初めてだ。

「聖は既に完成していたp‐typeの試薬の改造を重ねた。まず、繁殖能力を無くし、人間を殺して新しい生物にするプログラムにした。それはきっとオレへのメッセージだったんだろう。子供も子作りも要らない。……当時聖は俺の子を妊娠していた」

 零先輩の声が震えている。

 俺も声を出したら震えていると思う。しかし、その心配は無用だ。あまりのショックに声すら出ない。

 二〇一三年の聖と出遭ったって事はその時聖は十七歳か十八歳。今の聖より大人なんだ。付き合い方も違うだろう。というか俺達は俺が臆病者だったせいで、そもそも付き合うスタートラインにすら立っていない。


「聖が部屋に篭って一週間目、とうとうその日がやってきた。聖はオレを公園に呼び出した。久し振りに会った聖は驚く程に青ざめていた。妊娠してると言うのにやつれ切っていて、オレがここまで追い詰めてしまったのかと思うと、それだけで涙が出そうになった。思わず抱き締めようとしたオレの腕を聖は振り払った。そして聖はオレの目の前でp‐typeの原木になる為の薬を使ったんだ。みるみる木に変形していく聖を見ながらオレは強制的に未来へ連れ戻された。そして未来に帰ってみたら戦争は無くなっていて、人類は地下都市でp‐typeに怯えながら暮らしていた」

「零先輩……」

「時代が再構築されてしまったんだ。人類が地上で暮らしていたと言う事を知っている人間はオレしか居なかった。そして今度は、時空移動者として十六歳の麻生聖を殺せなんて任務が下る始末さ。オレに聖は殺せない。まず、それ以前にどの面下げて会えば良い? オレが不幸にしたんだ。いや、聖の時間軸から言えば将来の話なんだが。とにかく時空移動者候補には響が任命されるようにオレは手抜きしてテストを受け続けた」

 手抜きか……。

 納得。

 零先輩ほどの能力があれば、適切にレベルを設定して手抜きをする事が可能だろう。


 気になっていた事が一つある。

「零先輩……」

「ん?」

「俺の鞄を別ポイントにタイムトラベルさせたのは貴方ですね」

「そうだ」

 あっさり肯定される。

 後ろの方で騒いでいたお偉いさん達の声はすっかり静まっていた。そこに居る全員が歴史の証人だ。無駄口なんて叩いていられないのだろう。

「聖を殺されたくなかった。お前ほどの腕があれば武器が無くても何とかなっただろうけど、争い事が嫌いで優しいお前が強行手段に出るとは思えなかった。鞄が出てくるまで様子を見るだろうと睨んだんだ」

 大体当たり。

 でも、麻生聖がアイツじゃなければ、一月くらいしか様子は見なかっただろう。零先輩が思ってるほど俺は平和主義じゃないし、優しくも無い。

「何故p‐typeが俺の鞄を……」

「タイムトラベルでオレがどのポイントに鞄を出すか割り出された。まさか聖に渡すとは思わなかったけどな」

「そういう事ですか……」


 とにかく、俺が暮らしていた西暦二五一〇年は再構築を受けた後の世界だったと言う事か。

 零先輩と聖が出会い、零先輩が聖を裏切り、聖がp‐typeの原木になった。

 二人が出会わなければp‐typeは存在しなかった。

 違う未来が待っていた。


 待てよ……?

「あの……」

「何だ?」

「この再構築された歴史だと、零先輩は西暦二五〇七年に西暦二〇一三年にタイムトラベルして麻生聖を手に入れると言う任務は受けてないことになってるんですよね?」

「ああ」

「じゃあ何でp‐typeが居るんですか? 聖がp‐typeの原木にならなければ、存在出来ない筈じゃないですか?」

「p‐typeがタイムトラベルして麻生聖にコンタクトを取り、将来p‐typeの原木になるように仕向けていた」

「p‐typeだけ作らせるのでは駄目なんですか? 別に無理に聖を原木にする必要はないですよね」

「いや、聖でなければ駄目だろうな」

「どうしてですか?」

 大きくなる声を抑えることが出来ない。

「確かにp‐typeは培地にする人間の特徴を色濃く受け継ぐが、それだけではない。人間を培地にする為の種子が優秀であればある程、p‐typeの力は強大になる」

「そういう事ですか……」

 だから俺の元父親が東雲という青年実業家を名乗り、聖に近付いていたのか。

 五百年もタイムトラベルを出来る人間はそうは居ない。元父親がその仕事をしている所からみて四次元耐性は人間もp‐typeも大して変わらないと言う事だろう。

 四次元耐性は遺伝による所が大きい。俺の四次元体制の強さは父親譲りだったと言う事か。


「…………!」

 今、ものすっごい事に気が付いた。

「聖は?」

「?」

「聖はどの程度の四次元耐性を持っているんですか?」

 時空学の教科書にも書かれていたし、俺も何百回となく聞いてきた。


 誰にでも数年のタイムトラベルに耐えられる適性はある。

 ただし、何十年何百年の単位でタイムトラベルをするには高い適性が必要になる。

 もし、適性の無い者が長時間のタイムトラベルを行うと、体の組織を維持できず存在そのものが崩壊してしまう。

 何十年単位のタイムトラベルに耐えられる人間は、多く見積もって人類の一%、百年単位でのタイムトラベルが可能な人間は更にその中の一%未満。五百年のタイムトラベルなんて言ったら、その中の二%いるかいないか……。


 聖は五十万人に一人の人間なのか?

 果たして天は二物も三物も与えているのか?


「それなら心配ない」

 あっさりと零先輩が答えた。

「どうして……?」

 昔調べたのか?

「響、お前の四次元耐性の強さは聖譲りだから。」

「……え? 今、何て言いましたか? それって……」

 文脈から察するに

 四次元耐性は遺伝する。

 俺の四次元耐性は聖譲り。

 って事は俺と聖は遺伝子の繋がりが有るって事で……


「聖は俺のご先祖様なのか!?」

「そうだ」

 凄い事実をいともあっさりと肯定される。

「一応資料ではお前は麻生聖の実弟、麻生輝の直系の子孫と言う事になっている。しかし、麻生輝の子孫は二〇一〇年に於いて既に誕生している。十歳と言う麻生輝の年齢から考えても、輝の実子と考えるのは現実的ではない。恐らく以前、麻生聖から遺伝子を提供してもらっていたのではないかと推測される」

 マジかよ……。

 聖が俺のご先祖様かよ。

 それなら取り敢えず四次元障害で体や精神が消滅する心配は無いが、遺伝子上とは言え、聖は既に一児の母なのか……。

 しかも俺のご先祖様……。

「まぁ、深く考えるのはよそう」

 それに一代を三十年として約十六代前のご先祖様。別に一緒になっても問題のない程度には遺伝子的にも離れているだろう。

 俺もこの緊迫した状況で何を考えているんだろう?

 思わず笑ってしまうが、それよりもやらなくではいけない事があるので、気を引き締める。

 一度大きく深呼吸。

「零先輩、今すぐ聖が時空移動した出現ポイントを割り出してください」

「響……」

「早く! 此処に時空移動装置の台もある。このタイプの装置なら実習で使った事がある。今なら追いかけられる筈だ。すぐに座標を割り出してくれ!」

 相当な無茶を言っている事は分かってる。だけど、他に方法が思いつかない。

「まさか響……」

「俺を聖の出現ポイントに向けて時空移動させろ! 俺は零先輩アンタとは違う! 俺だけでは聖は幸せに出来ない。友達がいて俺がいてそれであいつ本当に笑ってられる。アンタしか見れないようにされてた聖は幸せじゃねぇよ!」

「……暫く会わないうちに随分言うようになったな」

「二十一世紀には口の悪い友人が多いもんで」

 不適に笑って見せる。映像は伝わらないが雰囲気は伝わっただろう。

「O.K。全員今の響の指示に従え」

 反発の声は無い。

「オレも麻生聖出現ポイントに向かう」

 もう後戻りは出来ない。

「聖……」

 時空電話を通してオペレーターのが座標を伝えてくる。すかさず座標を打ち込む。一秒だって惜しい。早く。早く。


 笑顔

 怒った顔

 蹴り

 弁当

 傘

 看病

 寝顔……


 本物は普通の可愛い女の子。気が短く、お節介で、不器用で、バラエティー番組が大好き。

「私、響が好き」

 怖がってるって?

 俺は自分が傷付くのを恐れていたのか?

 中途半端な答え。

 任務のせいにして自分の気持ちに逃げ道を作ってた。

 卑怯者。

 俺にぴったりの言葉だ。

 

 俺は聖をどう思ってる?

 何で殺せなかった?

 大切だから?

 それは嘘ではないけど、本当でもない。

 好きだから。

 笑える位簡単な答えだ。俺は麻生聖を愛しているんだ。

 あの笑顔

 あの泣き顔

 全てが欲しかったのではないか?

 ただの同居人で、

 ただの友達で満足だなんて

 嘘にすらならない。

 何度抱き締めたいと思った?

 何度キスしそうになった?


「……聖」


 会ったら、あの時の返事をちゃんとしたい。


「私、響が好き」


 俺も……。


 カウントゼロになり世界が真っ暗になった。


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