東屋と魅成
「待ちたまえ。生徒会長の目の前で、部費の横領の相談を始めるのはやめてくれないか?」
そして、俺の後ろにいる東屋に向けてギッ……っと、睨んだ魅成。
「うるさい……呪うぞ」
その途端にトタトタと、後ろに下がっていく東屋の足音が聞こえる。
相変わらずこいつはメンタル弱いなぁ……
「これは、よろず同好会の部費だ。砂彩や見空と一緒に使い道を決める」
「それこそ悪手。あの二人が入ったら絶対にもめて収拾つかなくなる」
「確かに……」
部費の使い道について、大もめにもめる情景が、俺の脳裏に浮かんだ。
「いや、待て待て……さっきも言ったとおり、生徒会長がすぐ後ろにいるから! それは部費の横領だから!」
だからといって、横領をしてもいいという事にはならないはずだ。
俺がそこまで言うと、小さく「ちっ……」と舌打ちをした後、後ろにいる東屋の事を睨んだ魅成。
「まあいい……」
そう言った後、魅成は、砂彩が持ってきた怪獣フィギュアの事を調べ始めた。
「何をしてるんだ?」
「髪の毛がひっついていないか探してる」
魅成は、確か心霊同好会だったな……
「丑の刻参りでもするのか?」
それで、ピタリと動きを止めた魅成。どうやら当たりだったらしい。
丑の刻参りとは、深夜に、呪いたい相手の髪の毛を仕込んだ藁人形にクギを打つという、よく知られている呪いで、それは、ほかの人に見られたり知られたりしてはならないという、条件が付いていたはずである。
この場合、俺に知られた以上、丑の刻参りをする事はできないという事になる。
「そんなわけない。髪の毛を使ってあいつのクローンを作る」
「作ってどうするんだよ! あんな奴二人もいらねぇよ! 一人だって、本来いらねぇのに!」
「慶次お兄ちゃんの家に送る」
「それはマジでやめてくれ!」
「私の呪いで苦しむがいいわ」
「何が呪いだ! 完全に科学的な技術を使った。物理的な嫌がらせだろうが! 呪いの力なんて微塵も使われていないだろう!」
「高度に進みすぎた科学は呪術と同じようなもの」
実は……この魅成も一度言い出したら聞かないタイプらしい。
魅成だけは、ちょっとは話が分かると思ったんだがな……
俺はおおきくため息を吐く……部長の役なんて、ほかの奴に押し付けてしまえばよかっただろうか……?
このよろず同好会の先行きには不安しか感じなかった。




