部費でカラオケ
とりあえず一時間。四人部屋を取り、二千円。
部費を使って料金を出してから部屋に入る。
俺達四人は、各々の場所に座る。
魅成は、当たり前のように俺の隣に座ってきた。チョコンと座って俺の事を見上げてくる。まるで、『ここに座ってもいい?』と伺ってきているようである。
俺が小さくコクリと頷くと、魅成はカラオケの選曲表を眺め出した。
その直後に、砂彩が魅成とは反対側の隣にドスン! と腰を下ろした。
砂彩は、じろっ……っといった感じで、俺の事を見つめてくる。
「なんでしょうか……砂彩さん……?」
俺が目だけで、砂彩の事を見ながら言うのに、砂彩は不機嫌そうな顔をして答えた。
「なんでもないわよ……」
魅成の口元がかすかに笑ったのを、俺は確認した。
その直後、魅成が無造作に俺の手を握った。
……ん? まあ、別にかまわないが……急にどうしたんだ?
砂彩の事を確認してみる。
砂彩が顔真っ赤なのはなんでだ……
怒っているかのように顔をゆがめ、魅成の事を見つめる砂彩。
砂彩は、魅成に対抗をするかのようにして、俺の手を握る。
そしたら、魅成と砂彩がお互いに目配せを始めて俺の目の前で、火花を散らしはじめた。
俺には何で争っているのかまったく分からないんだが……
砂彩と魅成は、そろって、俺の手を握る力を強めた。
爪が食い込んで痛い……
だが、下手に声をかけたら、やぶ蛇な気がするため、俺は黙ってそれに耐えていた。
「仲がよろしいですね。本当に」
向かいの席に座って、その様子を見つめていた見空。
「ある意味そうかもね……」
砂彩が言う。
「確かに。私は砂彩の事も嫌いじゃない」
魅成が俺の手を握りながら言う。
このやり取りにはどのような意味があるのか分からない俺は、黙ってそれを聞いていた。
「なんで真顔でそんな事を言えるんですか?」
そう言い、見空はそっぽを向く。
何が起こっているんだ……? ワケが分かっていない俺は三人の様子を見た。
砂彩と魅成は、お互いをにらみ合う体勢に戻っているし、見空は俺達とは目を合わせないままだ。
「ほら、始まったぞ魅成」
魅成の選んだ曲が始まったのを見て、俺は魅成に言った。
魅成は立ち上がった。俺の手を握ったまま。
「一緒に歌おう」
俺は手を掴まれてステージに上げられ、そのうえに、砂彩までついてきた。
両腕を引っ張られており、かなり痛い……
魅成が選んだ曲は、昔有名だったアニソンだ。一昔前の男の子ならば誰でも見ていたといった感じのものである。魅成はチョイスを俺に合わせたのだろう。
魅成がマイクを持ち、もう一本のマイクを俺に渡す。
この部屋には2本しかないので、砂彩のところにまでは回らなかった。
それを見て、ニヤリと笑って砂彩の方を見た魅成。それに、悔しげに、ジトリと魅成の事を睨む砂彩。
「慶次。貸しなさい」
そう言い、俺の肩にかぶるほどに顔を近づけてきた砂彩。マイクを握る俺の手を持ち、自分に引き寄せる。
二人で一つのマイクを使おう、といった体勢だ。
そうすると、魅成が砂彩の事をジトリと睨み、砂彩は得意げにニヤリと笑う。
本当に……なんなんだ、このやりとりは……
このやりとりの意味を分かっていないのは俺だけのようで、見空は分かったような顔をして、つまらなそうにして俺達の事を見ていた。
その間に、魅成はグイッ……と俺に顔を近づけて、自分のマイクを俺達の持つマイクに重ねてきた。三人で、二つのマイクを使う形だ。
魅成と砂彩の二人に挟まれる形になった俺は、肩身が狭い想いをしながら曲が始まるのを待った。
なんだかわからないが、こうなったらヤケクソだ……おもいっきり歌ってやる。
俺は音程とかリズムとか関係なしに思いっきり歌った。
最初はそれを見てキョトンとしていた砂彩と魅成だが、俺に合わせて大声で歌い始める。
音は割れる。ハウリングはひどい。とても歌とよべるようなものではない。俺自身、スピーカーから聞こえてくる音で頭が痛くなってくるくらいだ。




