生徒会室へ 1
俺は、にらみ合いをする三人を残して、部室を出ていった。
「部室よりも、あっちの方が落ち着くかもしれないな……」
料理対決をすると決まった以上、調理場の確保は当然必要になる。
だから、生徒会長に顔がきく事を理由に、俺が調理実習室の使用許可をもらいに行く。
そういう建前であの場から逃げ出したのだ。
気の置けない仲である、東屋のいる生徒会室は、俺にとっていい逃げ場になってしまった。
生徒会室の扉を開けると、上から黒板消しが落ちてきた。もろに頭の上に乗っかる。
頭の上の黒板消しを取って見てみると、たっぷりとチョークを塗ってある。俺が頭を払うと白い粉が舞った。
こんな事をするのはあいつしかいない……
「やあ、慶次。生徒会室に何の用かな? 君であればいつでも大歓迎だぞ」
なんでもない顔をしてサラリとしながら言う東屋。
「道化役として大歓迎されるのは、ご遠慮願いたいがな……」
「はっはっは。一体何を言い出すんだ? 人聞きの悪い」
相変わらずこいつは言動一つ一つが怪しすぎる。
さっきの『はっはっは』だって、完全に乾いた笑いだったし。
「からかってもらえるってのは、君が『愛されている証拠』だよ。悪いもんじゃないって」
そう言いながら、ニンマリとした顔をこっちに向けるのは、生徒会の書記である斎藤 奏多だ。
「会長の擁護をしないでください……こいつは、昔からすぐに調子に乗るから」
俺が言うと、クスクスと笑い出す。
「私としては、調子に乗ったささ君が見たいけどね」
どうせ、そんな事を考えているんだろう……
「奏多先輩にとっては、俺の事なんて対岸の火事ですからね」
「まあまあ、そんなに拗ねないの。今度美色ちゃんのパンツ見せてあげるから許してよ」
そう奏多先輩が言うと、体をビクッ……と震わせた出雲 美色は怯えた顔をした。
「見せません……」
小さな声で答える美色ちゃん。
「いいんでないの~? 減るもんやないし、この前、慶次君の事を「ちょっといいかも」とか言っていたじゃないの~」
奏多先輩は、美色ちゃんの耳元で囁く。美色は目を大きく開き、奏多先輩の口を押さえながら言う。
「それ、言っちゃだめです!」
奏多先輩は、美色ちゃんをからかうのが大好きのようだ。見ていると、美色ちゃんとのやりとりに、微笑ましくなる。
美色ちゃんは俺の方を向き、キッ……と睨んできた。
誰かのとばっちりで俺が睨まれるのは、ここでも変わらないわけだ。
「そろそろ、美色ちゃんをいじめるのはやめたらどうですか?」
そして、このクセ者揃いの生徒会を、表面的に仕切っている、塩谷 架名が奏多先輩の事を止めに入った。
「架名ちゃんに言われちゃしょうがないなー」
口では『しょうがない』とは言いつつも、態度では、『ちょうどいい引き際を用意してもらってありがたい』といったところである。
奏多先輩は、素直に書記の仕事に戻っていった。
このデコボコのようで、実はピッタリと型にはまっている関係は羨ましい。うちのよろず同好会も、このようなよくできた関係になれればいいと思う。




