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どれくらい雨に打たれていたのだろう?雨は上がって雲が晴れ、空が白み始めていることに気づいた。
― 朝日を見よう。
突然の思い付きが、ひどく素晴らしいものに思えて、私は、心からにんまりと笑った。
住宅地を抜けた先にある街を一望できる小高い丘の上が公園になっており、絶景スポットになっている。
無心でそこまで何とかたどり着き、芝生の上に腰を下ろした。
空の色が刻々と変わる。
赤紫、橙、薄山吹、白。
こんな時間に外にいるなんて、何年ぶりだろう。朝焼けってこんなに綺麗だったかなぁ。
朝日が顔をのぞかせている。
芝生は、昨夜の雨に朝日が反射してきらきら光っている。
眩しくて、目を閉じた。
ついでに、芝生に転がってみた。
リセットしたいことはいくつもある。
だけど、実際にリセットなんて出来ないことは分かっている。
今なら分かる。リセットしたいと思えるうちが花なんだってことが。
今日から3ヶ月間休暇だ。
いくら仕事をしても報われないと拗ねていた頃もあったけど、報われなければ頑張らないような人間にはなりたくなかった。
状況を打破しようと、自分なりに奔走してきた。限界を迎えてたから、仕事に関しては不本意だけど寺川さんに相談したこともある。
その結果、一人で背負わなくて良いように、みんなで分担決めをしたんだけどなー。
あっさり、無駄だったことに気づかされた。
いや、そうじゃない。何度でも諦めずにトライし続ければ、変わっていくんだと思う。
ただ、もう、こっちが待ってられなかっただけ。
完全にタイミングを失って、ずるずるここまで引き延ばしてきたけど。
どんなに後ろ指差されてもいい。
私は逃げるっ!!
勇気ある撤退ってやつだ‼
勢いを付けて芝生から起き上がり、目を開けて、朝日の眩しさに目が慣れてきた頃、私は唖然とした。
だって・・・。
目の前に、スケスケの真っ白なお兄さん(?)が立ってたんだもの。
あっ。スケスケって行っても、服がシースルーとかじゃないよ!影がないかんじの。お化け的な。
彫刻のように真っ白で、異常に端正なお顔立ちがもうこの世のものでは無い感が半端ない。
だけど、不思議と怖くない。発するオーラが暖かかったから。
『・・・汝の進む道に・・・多からんことを・・・・・・祝福されし・・・の子・・・・・・』
スケスケの彫刻は口を動かしてはいない。
頭の中に、途切れ途切れに言葉が響く。
すっと上げられたスケスケ彫刻の右手が私の左肩あたりを指した。
あっけにとられていた私が気がついたときには、すでに朝日は完全に昇りきり、芝生の上には、私一人だった。
やばい。私、幻覚とか見ちゃうほど、きてたんだ。
とりあえず、帰ろう。風呂入って寝てしまおう。
「っ・・・ギャーっ!!」
私は、風呂場で叫んだ。
左の肩から二の腕にかけて、3つの星の下に蔦が絡まった剣の形の黒い痣が浮かんでいたから。
恐る恐る触れて、タオルでゴシゴシ擦ってみるが、消えそうにない。
いつ・・・いつこんなところに落書きされたのっ!
もう、あれしかないじゃん!
スケスケの!
「乙女の柔肌に何してくれとんじゃ~っ!」
せめて、もっと何かあっただろうよ。着脱可能なやつとか。
この休暇の半分は心の湯治に出かけようと考えてたのに・・・。
うなだれた私の視界の先で黒い痣を包むように白い光が発生し、あまりの眩しさに目を閉じた。
再び目を開けた時には、痣があった場所に、恐ろしいほど美しい銀細工の腕輪が鎮座していた。よく見ると、細工の中にあの痣と同じ模様がある。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
寝よう。わたしはもう駄目だ。疲れすぎてるんだ。
起きたときに、まだ腕にはまってたら、またその時考えればいいや。
私はもう何も考えず、パジャマを着て、髪もろくに乾かさずに、布団にもぐりこんだ。