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【Sea State.2】サイパン・シンドローム

米国務省ビル



 ヘンリー・A・ウォレス・ビルディングと20年近く前に名称を変更した米国務省ビルの一室から、呼び出しを受けた日本の駐米大使が小走りに車に向けて急ぎ帰っていくのがみられた



『本当に彼らが作った代物と思うかね』



 そんな窓の外を見つめる国務省長官にそう言われて、アジア・太平洋局長は肩をすくめた。この情報は下からではなく上、大統領府(オーヴァルオフィス)からの情報であったから、はっきり言って手元には何も情報がなかった。なかった上でデフコン2、グァム・カリフォルニア州・ワシントン州・イリノイ州・ネヴァダ州には戒厳令が出され、州兵の動員と展開が始まっていたし、準戦争体制ともなると国務省単独であれこれ動くのは難しかった



『個人的な感想で言えば、連中ならもっと上手くやる。と思ってます』



 国務省内で出来うる限りの情報収集を行った次第ですが、と前置きをする。制圧を行うべき事態が発生しているのは先述の4州とグァムに逆を言えば【限られて】いる。東海岸ではそれこそ静かなものだ。普通に軍事行動でいうなら、なんで?としか言いようがない



『サイパン症候群(シンドローム)か・・・』



 国務省に伝えられた情報は、日本領のサイパンから発せられ、我が国にはグァムをその感染発生源とする人間の凶暴化感染症候群などというものをどこまで信じて良いものか。SF(サイファイフィクション)ものの冗談か?と最初は思ったものだ。幸いにして良くある物語のように全土で一斉に、という状況にはないから我々もまだ落ち着いて対応出来ているという面はある。泡を食っているのはむしろ大統領府の方だが、どんな情報を掴んでいるのやら



『CDC(アメリカ疾病予防管理センター)に対処させず、最初からUSAMRIID(アメリカ陸軍感染症研究所)の対応としたのも、これがBC戦だからという話でしたが』

『まぁ、事態が制圧を含むものとなればそうもなろうとは言えるが』



 長官は視線を局長へ向ける。現在タカ派の共和党政権内でも直言の多い長官は大統領と対立しがちであり、敵も多い身だ。疑いの目を向ける局長に何度目かになろうため息をついて首を横に振る。大統領を疑わなければならないとはどういう事か。しかし



『君らが疑っているように大統領の自作自演では絶対ない。権謀術数や頭の緩さはあるとしても、彼は愛国者で大統領(タフガイ)だ。こんな事はせん』

『では、他に第三勢力か大統領にそう公表するように吹き込んだ者が居るって事ですか』



 真っ当に考えるならそう帰結する事になる。巨大なスキャンダルだ。どう転んでも政権を揺るがす事態になろう。乾いた目で局長に長官は告げた



『まったくもって、世界は驚きに満ちているよ』





翌日、沖大東島沖<<薩摩>>搭乗員待機室



『うわすっげ、サンフランシスコのブロードウェイが燃えてら。どうなってんだよマジで』



 搭乗員待機室はその性質からテレビモニターが配してあり、待機している搭乗員だけでなく手すきの度胸のある士官たちがたむろする中、アメリカから届けられた最初の映像に釘付けになっていた。映像は建物の階上からで、遠目のスパンから周囲を映しているが、道路上で多重事故を引き起こした車がそこここで炎上しておりいくつもの黒煙の筋が空にたなびいている



『あん?やけに詳しいな中山。市庁舎からの映像ってなってたがよ』

(じん)、お前らが無関心過ぎんだよ、仮想敵国の西海岸随一の都市だぜ?』



 嘘だ。宝塚のファンでその本場であるブロードウェイについて事細かく調べていたからであるが、機体後席に座るRIO(レーダー迎撃士官)の不破尽(ふわじん)におちょくられると思ったからだ。俺たちが乗ってるA14K4、砕風改(さいふうかい)は複座で、一般的な西側からはイエロートムキャットと言われるように、可変翼と強力な空対空レーダーを装備した機体で、だからこそRIOは重要な立ち位置になる。このコンビは組んでそこそこ時間が経つが、仲が良いかと言われると、そんな事はない。ホントだぞ。


『そういや、絹見飛行長は?』



 尽が周りを見渡して言う。部屋には彼ら、彼女らの長である飛行長の姿は無かった。<<薩摩>>の飛行隊は戦闘機からなる4個戦闘飛行隊と3個の戦闘攻撃機からなる攻撃飛行隊、それに1個ずつの電子戦機(AEW)からなる偵察飛行隊と、汎用ヘリ飛行隊からなる。絹見サンは戦闘機ファイターパイロットで中山の所属する戦飛902の隊長も兼任する。正直な所、さっさとあがってAEWの中に収まって欲しいというのが本音と言えば本音である。本人の腕が悪いわけじゃない、出来る人だからこそエスコートするこっちの身にもなれって言いたい。電子戦機に乗るか、中小の艦艇の長か、大型艦の副長を経て空母の艦長に収まるのが現役パイロット士官の出世コースの常道であるから、前線で飛べる期間はもう旦夕に迫っている



『艦長から呼び出し喰らって出て行ったよ。話長そうだしなぁ、あの艦長』



 新任の艦長の顔を中山は思い出しつつ言う。なんというか先生っぽいし教育畑の方が適任じゃねぇの?とか思わなくもない。日々鍛錬で学習の軍隊だって口数や手出しが多いと億劫になっちまうぜ



『でもよ、妹さんは俺たちと同じ戦闘機畑だろ?しかも今はナンバー(各艦隊配備の隠語、第◯艦隊から)から外れて海技厰の実験航空隊らしいし、どんだけやべーのかは聞かんでもないぜ?砕風で後手に回りながらもステルス機をちぎっては投げ、ちぎっては投げしてるって』

『いくらなんでもそりゃ盛りすぎなんじゃねぇの?それとも陣風は上手くいってねぇのかね?』



 余談ではあるが、帝國海軍はようやく第五世代戦闘機としてA15K陣風を配備し始めているが、付属装備がまだ開発未了で機体本体だけが先行配備されつつあるという体で、口が悪い連中は陣痛なんてあだ名をつけられている。とは言えナンバーでも若い方からのそれだし、母艦が古い俺たちの所には退役するまでに配備されんだろうなぁ、というのが今のオッズだ。賭けになんねぇ

 大体,軽くステルス付与した拡大(アドヴァンスド)トムキャットのような機体成形から、ベクタードノズルと付属装備用及びスラスター兼用の補機を持つ3発機(実質は2.5発機か)はピーキーすぎんだろ、と思わなくもない



『ったく、母艦だけ先にステルスにしたって意味あるんかねぇ』



 中山が座っていた座席を傾けて伸びをする顔に、影がかかる。覗き込んできた顔には野趣に溢れた笑顔があり、その後ろからは部屋に近づいて来る足音。どうやら会議は終わったようで


『よう、ギャン中コンビ、珍しく座学か?』

『ギャン中コンビは勘弁してくださいよ森小路運用長』



 運用長。帝國海軍において、1万tを超えるような艦にならなければそもそも配されない役職のそれであるが、空母の運用長という存在に関して言えばその役割はどの艦種と較べて権限も権威も大きい。それは、艦載機の運用する各誘導弾や爆弾の運用と機附の整備兵達の長であることが掌分であるからだ。場合によっては飛行長よりも頭が上がらないまである


『ほら、搭乗員以外は持ち場へ帰れ。各自の長から説明があるはずだぞ』



 ゾロゾロと三々五々、それぞれの持ち場へ帰っていく。立って談笑していた連中もそれぞれの席へつき、正面の壇上に立った絹見を見つめる



『皆、見ての通りアメリカでトラブルだ。そこで我々は目的としてグァムの邦人救出を選択した』




 部外者が出て行ったのを確認してから、背後で流しっぱなしのTVモニターを親指で絹見飛行長は指して言った。グァムは我々の内南洋に孤立した米領として軍事施設の維持をほぼ諦められており、リゾート地としての設備と、軍民共用でのハブ空港としての整備しか行われていない。それ故に、カジノやシューティングレンジを目的とした旅行者が一定数存在している。そして、今回の事件の策源地とも言える



『そこで我々は現刻から作業を行い、攻撃飛行隊を全て大東島飛行場経由で那覇に戻し、前半部の格納庫を空けて収容施設とする』



 ブーイングが攻飛の連中からあがる。彼らが乗っているB12A2晨星も原型機は艦戦で単発の小型戦闘機を攻撃機にしたもので、機動性の面では砕風より上回る部分がある機体だから、ただ除け者にされるにはプライドが許さない所もあるだろう



『そう喚くんじゃない。さっきも言ったとおり、今回の任務は救出だぞ。米軍とがっぷり四つに組んでやり合う訳じゃない。むしろ攻撃隊がいない事を見せて避ける意味合いが強い。注目の的だぞ?』

『飛行長!だったら邦人をヘリで回収しつつ、艦に留めないでピストン輸送でそのまま送り出しちまえば良いじゃないですか!』




 攻飛の小隊長の一人が手を挙げて発言するも、その意見に絹見は首を横に振った




『現状、詳細不明の感染症に罹患している可能性がある以上、本土に戻さず隔離する措置も兼ねている。別に、攻飛と戦飛、入れ替えても良いんだぞ』



 隔離措置と言われると、病気以外はなんでも貰えがモットーでも流石に閉口する。そんな攻飛の連中とは逆に、今度は戦飛の搭乗員の中からゲェ、と嫌そうな声が漏れる。これからはCAP(空中戦闘哨戒)任務の詰まったローテが始まるだけでなく、感染者かもしれない連中のそばに居ろと言われているのだ



『予定としてはまず、戦飛906に上がってもらう。その上で攻飛の各隊が発艦、そこからのローテーションをしばらく続ける。残ってる連中も前部格納庫に置いてあるものを後部に移動させるから暇じゃないぞ、ここに来ている森小路運用長の指示に従い、速やかに事にあたれ、いいな。何か質問がなければ以上だ』



 質問がない事を確認して絹見は壇上を降りる。帝國海軍でも最古参に近い<<薩摩>>の格納庫は、後から就役した大型空母群と違い、防火シャッターが中央にあり、前部と後部に別れているが、どっちが攻飛でどっちが戦飛だとしている訳ではないから、必要な作業にはなる



『おうお前ら!攻飛の連中を上げるためにそっちの機附の整備はまわせねぇんだから、キリキリ働いて貰うぜ。いいな!そいじゃいくぞ!』

『へーい』



 不平混じりのため息を吐きつつも、搭乗員達は運用長に続く。この時は誰もまだ、とんだ大事の渦中になるだなんて思っていなかったんだよな



<<902!南鳥島観測所から通信途絶!緊急電では北方より40機を超える機影を確認!到着予定時間は・・・!>>

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― 新着の感想 ―
わぁなんかゾンビパニック的ナニカが起こってる…… できれば防空巡とヘリ巡と攻撃原潜がほしいところだけど贅沢か。 名前は後半に行くに従い分かりづらいのが増えてますな。
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