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【Sea State.1】隠密空母とはなんぞや

奄美沖 第9航空戦隊<<薩摩>>



 海を圧する巨体。長い時を経て、さらに巨大な複数の同族が存在してなお彼女はそう言われて遜色ない姿で晴天の青い海を進む。伸びる白い航跡(ウェーキ)はそこまで長くはない。それは彼女が先ほどまで滞留していた奄美の薩川湾から出たばかりという事を意味する。

 僚艦としてペアを組むべき戦隊旗艦の<<信濃>>はこの場に居ない。

 彼女は先に改装が終わり、既に演習の対抗部隊として南海道(台湾)の馬公市に辿り着いて居るはずだった。あとはこの<<薩摩>>の到着をもって演習が行われる予定となっているから、タイムスケジュール的には先を急ぎたい所ではある。が、母港である佐世保からそのまま直行せずに薩川湾に寄ったのは他でもない

 <薩摩>>の針路上の先に黒い影が現れる。待合艦としてエスコートを行う、初春級駆逐艦の4隻であった。彼女たちの所属は舞鶴を母港とする第四艦隊であるため、艦隊の所属を越えての参加にスケジュールを合わせた形になる。

 その姿はこれまでの帝國海軍の艦艇と比較すると非常にのっぺりしている。彼女たちは水上戦闘艦艇としては日本初のステルス船体に、省人化、舷側VLSの採用と新機軸を打ち出したエポックメイキングな艦級とも言える。そこにロービジュアルの塗装もあいまって、まさに世代を隔す雰囲気を醸し出していた



『目標をVC(ヴィジュアルコンタクト)。ハルナンバー視認。<<初春>>です』



 ある意味、彼女達が練習空母を経て退役間近だった<<信濃>>とこの<<薩摩>>の運命を変えたとも言っていい。本来初春級の彼女達は、同じく第四艦隊に属する揚陸艦や補給艦(これらの艦艇も、限定的であるがステルスを意識した設計を取り入れていた)を護衛する事が本来の職分であるのだが、同様に高価値目標(HVU:High Value Unit)の空母等の大型艦むけに開発されたステルス機材を試験的に搭載する運びになったのだから

 そのステルス機材というのが<<薩摩>>を隠密空母たらしめている。艦の両舷の前後、キャットウォークに斜に被さるように取り付けられている板状の代物で、正式名称を水電妨三型。アメリカ的な言い回しをするならばSJ(Surface Jammer)-3といった所だが、ヤスリ板が通称としては兵達の中で通っている。板状の構造物であることもそうだが、電波傍受の為に細かく織り込みが入っている為、言い得て妙とはこの事である

 この装備がアクティブステルスとして、受信した電波を即時解析して発信源の方に反射する電波をジャミングする事で隠密性を確保するわけだ。装置には受信波解析を行うコンピューターと発電装置も内蔵されているから、これを打ち消すにはこの発電装置以上の発信が必要になる



『よし、大島海峡を抜けたな。41駆の単縦陣に続行しよう。釧路航海長、舵を返すよ』



 そう言って操艦を年配の航海長に戻す。私自体は若輩だが、艦内の長の中では釧路中佐が一番年長になる。任せたままにする艦長もたまには居るらしいが、私はそうではない。というより、私自身が新任艦長として試されているのだろう。快く譲ってくれったのはそのためもあろう



『航海長操舵ヨウソロ。美和艦長は司令部勤務が長いと聞いてましたが、結構なお手並みで』

『褒めても何も出ないぞ、葛城副長。だがまぁ、大艦の操舵なぞなかなか出来るものではないからな、機会は逃さんさ』



 CICに籠ったまま出て来ないイメージは払拭していきたい。艦橋内の雰囲気も悪くない、乗員からみても及第点は貰えたようだ。とは言え<<薩摩>>の元となった大和級自体が舵の取り易い艦だから当然とも言える。なんなら近代化改装の際により最適化を常に行っているし、改装で船体に付着した牡蠣殻などを落としたばかりだからそれも加算すれば、まぁ事故の確率は低い。分の良い仕掛けだ



『むしろ、私の方が君の城に足を踏み入れた形になるが、機嫌を損ねてはいないだろうか』

『いやいや、いつでもいらしてください。歓迎しますよ。どこか上陸のタイミングがあれば、一杯やりましょう』



 快活に笑う葛城副長を背に艦橋を後にする。こうはいっているが、まあコミュニケーションが必要だな、というのが当人の判断なのだろう。どこかで時間を空けないといけないな

 古の時代から続いていた、艦長が航海中の艦橋に居座るスタイルが遠くなった関係上、副長が艦橋に、CICに艦長がという体制に今は落ち着きつつある。必要とされる自艦に対する目は艦橋から、周辺・全体への目はCICからがより得やすいという現実がそうさせている



『で、のこのこ降りてきたってわけ?CICここだってあんたの庭ってわけじゃないんだけど?』




 そういって手痛く出迎えてくれたのが、砲雷長の鳴田中佐で同期だ。空母である<<薩摩>>での砲雷長の役割というと防空火器のみの扱いになるので、CICでは職分上は航海長の管轄になる航海レーダーなどの電測機器の管理も彼の手一律で行っている。空母の性質上護衛対象として防空火器を振り回すのは最後の最後になるので、手持ち無沙汰になりがちになるのは致し方ないところではある


『まあそういってくれるな。君がいるから心強いのは確かなんだからな』


 言葉尻は強いが、いつものことである。本当に機嫌が悪いときは対象が誰であろうと容赦なく部屋から蹴り出されている。そんなであるのと、職人肌の気質で現場に留まり続けたのが海大などを経由し司令部附きなどのキャリアを積んだ美輪と階級の違いに表れている。だが、もう一人の同期と一緒に海大入学時には盛大に祝ってくれた気安い仲でもある


『で、どうかな?41駆は』

『そうだね、やっぱり反応が小さいのはあるよ。それでも予告されてたのもあるし、方向を絞る事もできたから、捉えられないってわけじゃない』


 ステルス船体を持つ彼女たちを電波で捉える際の癖を掴んでおきたかったのだ。運用のノウハウを積み重ねていくのは大事だ。まだ彼女たちの様な艦は少ないといえど、その数は世界的に増えつつある。即応展開が主任務の第3艦隊にとってその情報は大いに任務に資するだろう


『完全に反射しないようには出来ないものな』



 彼女たちのステルスは電波の目からその像を小さくすることを主眼としている。完全に反射してしまって像がなくなってしまえば、それはそれで異常として探知されてしまう。どう見せたいかが問題なのだ。これからの戦争は、どう【見られる】かを問われる戦争になると言っていたのは<<背振>>の空溝艦長だったか。それはおおむね正しいと私も思う


『さっすが艦長、点数の取り方がわかってる人は流石だね。でも、こんなのは赤本(機密指定本)で学校からでも降りてくるんじゃないの?実際音紋もそうでしょ?』



 音紋、アコースティックシグネチャーは鳴田中佐が言う通り潜水学校が第6艦隊(潜水艦隊)などが集めた記録(ログ)を各艦隊に更新・周知しており、同様にこの電紋、エレクトリックシグネチャーというべきものも同様に扱われるのではなかろうか?という疑問は当然の疑問であった。それに美和は嘆息する


『それなんだがな、自家中毒というか、な。仮に降りてくるとしても相当先か、ないと思われるんだ』

『はぁ、なんで?』



 かいつまんで説明すると有用性が無いと思われている。理由は出師準備にあり、戦時に移行するにあたってはハルナンバーを消したりロービジュにするのと合わせて、電波吸収材を含んだ塗料を各艦が各自裁量で塗布することになってる。その時点で電紋などの記録は意味を失う、同様に米海軍も自分たちと同じような事をするだろうというという信頼感。そこから、あれこれ手間をかけてログを纏める意味があるのか?というのはわからんでもないが


『しかし、我々は平時にそれらを相手する即応艦隊だ。絶対に有用だ』

『わかったわかった。私の方で記録ログは取って纏めておくから』



 と、この愛すべき同期はヒラヒラと手を振って面倒事を引き受けてくれる。凝り性な彼女ならデータも充実したものになるだろう。そんなやり取りの最中、CICの室内に注意を促すアラームが鳴る。<<信濃>>や僚艦から発せられたものではない。発信元は本土からだ



『何事?』



 受信した内容を待ちきれずに鳴田中佐は担当のモニターを覗き込む


<<佐世保鎮守府発、宛テ、第3艦隊各艦、米国内ニ不穏アリ、デフコン2発動サセラレルモノト認ム。米国務省ハ駐米大使ヲ召喚、情報収集中>>



『デフコン2!?』



 鳴田中佐が声をあげるのも無理はない。デフコンとはディフェンスコンディションの略で、米国の戦時体制を示すもので5段階表示であるのだが、交戦状態も含み、ほぼ戦争状態を示す1はほとんど意味をなしていないので、最高の緊張度を意味する2をいきなり発するのは異常事態に他ならない。相手がこうなってしまうと段階的にこちらも警戒の度合いを引き上げざるをえなくなる



『今うちに連中と揉めてる案件あったっけ?』

『・・・いや、軍民含めて特にない筈だが』




 怜悧な顔の眉を顰めて、美和は思い浮かべる。交戦一歩手前、仮に原潜銀座の北極海に無理矢理こちらの戦略原潜を突入したってそこまではならない筈だ。だとすると



『鳴田中佐、ここで受信できる国際放送は?』

『グァムのVOA(ヴォイスオブアメリカ)。繋いで』



 兵の肩越しに鳴田中佐が指示する。モニターには放送局のコードを意味するKnowing The World of Godの頭文字と、緊急警報放送として屋内に待機する事を示す画面が警報の音と共に流れ始める



『香港のBBC、これも届くだろう。そっちはどうか』

『受信料は払っとくもんだね、いけるよ』



 切り替わった画面は、通常通りのニュース画面を映し出している。という事は、事が起きているのは米国だけ、米国の状況が伝播してくれば徐々にニュースに組み込まれていく事だろう。それでも、全世界的に一気に危機が広まっているわけでは無い。というだけでも安心材料ではあった。そこに続いてのアラーム。先程の佐世保のラインからではなく、馬公を経由しての艦隊旗艦<<大和>>からの通信だ。それも電信ではなく画像も含めて



<<いよぅ、美和艦長。佐世保からの通信は届いているな?>>



 モニターに映ったのは第3艦隊司令である高松宮中将である。美和が艦長に転じたのと同時に戦隊司令から着任した新任司令でもある。そうであるが故の最初の訓練であったのに、今回の始末である




『はい。把握しております』

<<第4艦隊にはナシつけておいた。そのまま君達は第34統合任務部隊(JTF-34)としてグァムに接近して情報収集を行って欲しい。我々は訓練を中止してパラオまで進出する。情報収集の次第で艦隊の意向を決する。ステルス艦の一個戦隊として有意な活動を期待している。君の判断で武器使用の許可を許す。俺が責任を持つ。好きにやってくれ>>



 宮様は話をつけるのが早過ぎる。たった5隻の最小戦力で一番近い米領の探りを入れて欲しいというのだ。妹と懇意にさせて貰っている(妹本人には気がないのだが)ので、ある意味私も高松宮閥と見られてる。だからこそ、子飼いとして実力を示せという事なのかもしれない。厄介な御仁である。緊張感と共に、言いたいことだけ言うと期待していると結んで通信は切られた。嘆息しつつ、苦笑する鳴田中佐から艦内放送のマイクを受け取り、一息入れて放送のアラームを入れた後マイクのスイッチを押す



<<艦長より達す。総員、作業はそのままで聞いてほしい。本艦はこれより当初の目的を変更し、サイパン方面へと進出する。これは訓練ではない・・・突然の事に混乱を覚える者もいるだろうが、事態の如何に係わらず、尽力してくれることを望む。以上だ>>



 <<薩摩>>の行く先は未知だ、その航海がどうなっていくかはまだはじまったばかり・・・

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